公認心理師 2020-74

2021年02月15日月曜日

本事例は、まずクライエントの見立てを行うことが大切になります。

明らかに優先順位を付けることができる疾患が想定されますから、それに沿った対応を選択することになります。


問74 21歳の男性A、大学3年生。Aは将来の不安を訴えて、学生相談室を訪れ、公認心理師Bと面談した。Aは、平日は大学の授業、週末はボクシング部の選手として試合に出るなど、忙しい日々を送っていた。3か月前にボクシングの試合で脳震とうを起こしたことがあったが、直後の脳画像検査では特に異常は認められなかった。1か月前から、就職活動のためにOBを訪問したり説明会に出たりするようになり、日常生活がさらに慌ただしくなった。その頃から、約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられなかったり、勉強に集中できずいくつかの単位を落としてしまったりするなど、失敗が多くなった。

 BのAへの初期の対応として、不適切なものを1つ選べ。

① 高次脳機能障害の有無と特徴を評価する。

② 医師による診察や神経学的な検査を勧める。

③ 不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる。

④ 現在悩んでいることを共感的に聴取し、問題の経過を理解する。



解答のポイント

事例から考えられる疾患を把握し、その優先順位を付けることができる。



選択肢の解説


① 高次脳機能障害の有無と特徴を評価する。
② 医師による診察や神経学的な検査を勧める。

まずは脳震盪について理解しておきましょう。

脳震盪とは、頭部外傷直後に一過性に神経障害(意識消失、健忘、めまい・ふらつきなど)を呈するが、CTでは異常を認めないものを指します。

ですから、「3か月前にボクシングの試合で脳震とうを起こしたことがあったが、直後の脳画像検査では特に異常は認められなかった」とありますが、「直後の脳画像検査では特に異常は認められなかった」からこそ「脳震とう」と判断できたわけです。

もしも、頭部CTにおいて点状出血や浮腫を認めるのであれば、これは脳挫傷であると考える必要があります。

ただし、本事例ではそうした問題が出ているとは言えないようですね。


こうした急性の問題は否定されたとしても、慢性的な問題を考えていくことが重要になります。

スポーツの種目と疾患内容との関係については、以下のように考えることができます。

  • 野球・ゴルフ・砲丸投げ:飛来物;頭蓋骨骨折、硬膜外血種
  • 柔道・スケート・バレーボール:転倒;脳挫傷、硬膜下血腫
  • ボクシング:殴打;脳挫傷、硬膜下血腫
  • 棒高跳び・乗馬・登山:転倒;脳挫傷、硬膜下血腫、頚椎頚髄損傷(状況によって頭蓋骨骨折等もあり得る)
  • アメリカンフットボール・ラグビー・スキー:衝突;挫傷、硬膜下血腫、頚椎頚髄損傷(状況によって頭蓋骨骨折等もあり得る)

なお、これら全ての競技において脳震盪は起こり得るものです。

本事例のボクシングでは、脳挫傷や硬膜下血腫を考えていくことも重要ですが、明確な脳挫傷の所見は本事例では見られないですね。

そこで「慢性硬膜下血腫」の可能性も考えておきましょう。


慢性硬膜下血腫は、基本的にアルコール多飲者や高齢者に好発とされていますが、本事例のようなボクシングをしている人もやはり注意が必要です。

慢性硬膜下血腫では、3週間以上前に軽度の頭部外傷の既往があることが重要で、本事例ではその要件を満たしていると言えますね。


軽度の外傷などにより硬膜下に出血が起こり、被膜(外膜・内膜)が形成されます(被膜が形成される機序は明らかにされていない)。

肉芽組織である外膜は血管に富み容易に出血し、破綻した血管は修復されず出血を繰り返すために、徐々に血種が増大し、やがて症状が現れます。

初発症状は軽い頭痛が多いですが、徐々に認知障害や運動障害、尿失禁などをきたすとされています。

本事例では、「約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられない」「勉強に集中できずいくつかの単位を落とした」という「うっかり」では済まされないような急激な変化が見受けられますので、こうした認知機能の問題を有している可能性も考えていくことが重要になります。


ですから、選択肢②にあるように、医師による診察や神経学的な検査を勧めることが第一です。

受傷直後には問題がなくても、CTで経時的な変化を確認することができます(血種像の形状は、急性硬膜下血腫と同様に三日月形となる)。

そして、神経症状がみられる場合、穿頭ドレナージ術を行います。

ドレーンにて血種内容の排泄・洗浄を行うことになるわけですね。

硬膜下血腫は、治療すれば症状は改善することが多いので、できるだけ早く医師の診察を受けることが重要になります。

本事例のような急激な変化があったクライエントに対して、こうした外傷性の問題の可能性を考えることが、本当にクライエントの人生に関わるくらい大切になってきます(見立ては、外因・内因・心因の順番で考えていくのが基本ですね)。


さて、こうした神経心理学的な問題を見極めるために必要なのが、高次脳機能障害に関する知識を持っていることです。

高次脳機能とは、言語、行為、認知、記憶、注意、判断など、主として連合野皮質によって営まれる機能を指します。

学術的・医学的な高次脳機能障害とは、脳血管障害や変性疾患、頭部外傷などにより、失語、失行、失認、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などをきたしている状態を言います。

本事例では、「約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられない」「勉強に集中できずいくつかの単位を落とした」といった、注意障害(注意を適切に向けられないこと)や遂行機能障害(物事を段取りよく進められなくなった状態)などの可能性が考えられます(いずれも主な病巣は前頭連合野ですね)。


注意機能は、対象を選ぶ(選択性)・対象への注意を持続させる(持続性)・対象を切り替える(転導性)・複数の対象へ注意を分配する(分配性)などからなっていますので、クライエントの話から、この辺の問題が生じていないかを査定することが重要ですね。

また、遂行機能障害は、目標を明確にする(目標の設定)・目標達成のための手段を選択する(計画の立案)・正しい順序で開始や持続する(計画の実行)・事故の行動を評価修正する(効率的な行動)などから成り立っており、こうした特徴を把握するとともに、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テストでの評価も可能なので実施することも考えてよいかもしれません。


これら高次脳機能障害の特徴を把握しておくことで、本事例に対してその有無や特徴を査定することができます。

そして、その結果、高次脳機能障害の可能性が否定できなければ、速やかに医療機関の受診を勧めることが重要ですね。

以上より、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。



③ 不安症状に対して、系統的脱感作の手法を試みる。

本事例の対応として、本選択肢の内容は「不安症状」という心理的な要因にのみ帰属させているという点で不適切と言えます。

本事例の「約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられない」「勉強に集中できずいくつかの単位を落とした」という問題は、確かに不安によって生じることも考えられます。

心理的負担が高い場合、自分にとって重要な出来事でも健忘が生じるわけですね(いわゆる、解離性健忘と呼ばれる状態ですね)。

ただし、本事例では、脳震とうの既往があること、高次脳機能障害の可能性もある症状が出ていることなどを踏まえると、不安だけに帰属させることはまずい見立てであると言えます。


もちろん、大学3年生という学年を考えると、将来の不安があることは自然ではありますが、それ以上に「脳震とうを起こしたことがあった」という情報は重視しなければなりません。

先述の通り、見立ては「外因」「内因」「心因」の順番で考えていくことが重要です。

外因は脳機能の問題などの存在を見立てていくことになりますが、他選択肢でも示した通り、外因の問題は適切な治療を施すことで改善を期待できます。

しかし、間違った見立てを行い、いたずらに時間を使うことで、どんどん悪化していく危険があります。

本事例のように「外因」と「心因」が混じっている場合、まずは「外因」の対応を優先させるのが鉄則ということですね。


また、例えば本事例の問題が本当に心因、すなわち不安症状によって生じていると考えられる場合であっても、系統的脱感作を行うかは疑問です。

事例内の情報で、不安と筋緊張がくっついている場合には、逆制止として脱感作を行うことも検討しますが、本事例ではそういった情報は見当たりません。

そういった点においても、本選択肢の対応には疑問があるということですね。

もちろん、これは本選択肢が不適切であるという説明の本丸ではありませんが。


以上より、選択肢③が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。



④ 現在悩んでいることを共感的に聴取し、問題の経過を理解する。

本選択肢の対応を「話を聴くだけ」と捉えるのは間違いであり、本選択肢は選択肢①および選択肢②の対応と矛盾するものではありません。

本事例のように「外因」も「心因」の存在も疑われる事例において、まずはクライエントのペースで話してもらい、アセスメントに役立てていくことになります(もちろん多少の方向づけを持ちつつのやり取りにはなりますが)。


クライエントは不安を訴えているわけですから、その流れを理解することが大切です。

例えば、「約束の時間を忘れて就職採用面接を受けられない」「勉強に集中できずいくつかの単位を落とした」ということから、このままで自分は大丈夫だろうか、という不安が生じているのであれば、時系列的に「外因」の問題が先に生じている可能性がありますね。

対して、こうした問題が出る以前から不安があるならば、クライエントの問題は「心因」である可能性も考えねばなりません。

ただし、だからといって「外因」を否定することはできないので、やはり選択肢①や選択肢②の対応は必須です。

他にも、クライエントの問題が実は昔からたびたび生じているという情報があれば、その情報も添えたうえで医療機関を勧めるということになるでしょう。


すなわち、「現在悩んでいることを共感的に聴取」することで、こうした不安の生じた流れを把握し、クライエントの問題をより詳しく理解することが可能になるわけです。

本事例で示されている情報だけでいえば医療機関受診を勧めるのは必須ですが、クライエントの語る内容によっては、「心因の可能性も含みつつ、医療機関の受診を勧めた」という形をとることができ、もしも「外因」が否定されたとしても、引き続き心理支援を行う流れを作ることがしやすくなりますね。

以上より、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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