公認心理師 2020-54

2021年02月09日火曜日

PTSDに関する理解を問う内容になっております。

PTSDに関してはこうした形式の問題が多いですね。

幅広く理解しておくことが求められていますね。


問54 トラウマや心的外傷後ストレス障害〈PTSD〉に関連するものとして、適切なものを2つ選べ。

① PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い。

② PTSDの関連症状に、薬物療法は無効である。

③ 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない。

④ 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである。

⑤ 複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す。



解答のポイント

PTSDの疫学、一般的な支援、仕組みに関する理解があること。



選択肢の解説


① PTSDの生涯有病率は、男性の方が高い。

こちらについては厚生労働省のメンタルヘルスのページに記載がありました。

そちらを引用しつつ解説していきます。


世界保健機構(WHO)による世界精神保健調査によるわが国での住民データによれば、一生のうちにPTSDになる人は、1.1~1.6%ですが、20代から30代前半では3.0~4.1%となっています(日本で一生の間にPTSDになる確率は1~3%程度)。

ある企業の勤労者を対象とした調査では、1,000人余りの男性回答者のうち、過去にPTSDがあった人が1.3%、現在もPTSDだった人は0.2%でした。

米国でのKesslerらの調査では、人口の8%程度にPTSDが発症するとされています。

同じ調査では、PTSDを生じるような危険な体験をする率は、男性で60.7%、女性で51.2%ですが、そうした体験をした人のうちでPTSDになるのは、男性で8.1%、女性で20.4%とされています。


PTSDの発症率は、体験の種類によっても影響を受けます。自然災害では被災者の3%程度ですが、戦闘では半数弱、レイプでは60%程度になります。

災害の場合には、被害の軽い被災者がいることと、被害を人に言いやすく援助を受けやすいために、数字が低くなっていると思われます。

これに対して戦闘やレイプは、全員がある程度以上の被害を受けていること、またレイプの場合には被害を人に言うことが難しく、必要な支援を受けにくいことが影響していると思われます。

さらに、同じ被害を受けても女性のほうがPTSDを発症しやすいことが指摘されていますので、レイプの場合にはそのような事情も関与していると考えられます。


こうした女性の方がPTSDになりやすいと言う結果は、他の研究でも示されています。

これは上記の通り、女性は男性に比べてレイプ等の心的外傷的出来事にさらされる危険が高いことなどが影響していると思われ、単に脆弱性などと結びつけるべきではないことが分かりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



② PTSDの関連症状に、薬物療法は無効である。

PTSDにおける薬物療法の主要な目的は以下の通りです。

  1. 侵入症状の頻度および(または)強度の軽減。
  2. 入力刺激をトラウマの再現と解釈する傾向の軽減。
  3. 全般的な過覚醒、およびトラウマを想起させる刺激に対して条件づけられた過覚醒の軽減。
  4. 回避行動の軽減。
  5. うつ、感情まひの改善。
  6. 精神病性、解離性症状の軽減。
  7. 自己と他者に対しての衝動的な攻撃の軽減。

本選択肢の「PTSDの関連症状」はどこまでを指しているか明示はされていませんが、再体験症状、過覚醒症状、回避症状、解離反応といったPTSD自体の症状と、うつや不安障害などの併発しやすい疾患も含んでいると考えておきましょう。

上記の薬物療法の目的は、これらの「PTSDの関連症状」に対して有効であることが示されているということになりますね。

PTSDによって、うつ病・不安障害・外出恐怖など、様々な形で精神のバランスが崩れやすくなりますが、これらの状態には薬が効くことも多いです(SSRIなどの抗うつ薬を中心とした薬物療法が重要とされていますね)。


薬効について述べていくと、例えば、三環系抗うつ薬はPTSD、うつ、不安に関するさまざまな評価指標において効果的であることが分かっています。

特に、症状が軽度な者、比較的激しくない戦闘の経験者、より安定した性格、パニック発作があまりない場合には効果が大きいとされています。

ただし、集中困難、身体的不安、罪悪感などといった症状や、トラウマの種々の回避症状に対する薬効は低いとされています。

また、フルオキセチン(SSRI)が最も効果を及ぼしたPTSD症状は感情まひと覚醒とされています。

このように、各薬物によってその効果が示されていると言えますね。


なお、薬と並んで、あるいはそれ以上に有効とされているのが、トラウマに焦点を当てた認知行動療法で、特に持続エクスポージャー療法は、米国学術会議の報告書で「薬物を含めたあらゆる治療法の中で唯一、十分な効果がある」と認められています。

それ以外に、トラウマについての認知を扱う認知処理療法や、眼球運動をしながらトラウマを想起させる眼球運動脱感作療法(Eye-Movement Desensitization and Reprocessing;EMDR)もトラウマ治療としては有名ですね。

この辺についても、しっかりと覚えておくようにしましょう。


以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



③ 心的外傷的出来事による身体的影響は少ない。

本選択肢の「心的外傷的出来事」という限定がどういう意味を持つかを考えておきましょう。

単に「出来事」による影響について問うているのか、「出来事によって引き起こされるPTSD」による影響のことを指しているのか分かりにくい表現です。

ここではいずれの場合でも考えておきましょう。


まず「出来事」自体の影響ですが、PTSDの出来事とは、災害、暴力、深刻な性被害、重度事故、戦闘、虐待などが挙げられます。

この出来事の中には身体的影響が大きいものも小さいものもありますが、「身体的影響は少ない」と見なすのは適当ではないでしょう。


また「出来事によって引き起こされるPTSD」による影響についても考えてきましょう。

PTSDは精神面だけでなく、身体面にも多大な影響を及ぼします。

PTSDの症状として挙げられている過覚醒があると、神経は高ぶって、呼吸は浅く早く、動悸が激しく、聴覚過敏や驚愕反応、不眠が生じやすくなり、普段から落ち着きがなくなり、疲れやすいなどの反応が出ます。

慢性的な緊張感を有するために、不安、悪夢、不眠、身体愁訴パニック、イライラ、集中力低下など様々な症状も出やすくなります。


また、Krystalは、トラウマが「感情の脱分化」という、適切な行動をとるための指針として機能する特定の感情を同定する能力が失われている状態を招きやすいとしています。

そして、このような身体の状態を特定するための意味概念を作り上げる能力の欠落が、身体反応の発達や自己および他者に対する攻撃性と関連しているとされています。


さらに、PTSDは種々の精神生物学的異常を引き起こすことも明らかにされています。

精神生理学的影響としては極端な自律神経反応、神経ホルモンへの影響(糖質コルチコイド、セロトニン活性など)、神経解剖学的影響(海馬体積の減少、偏桃核の活性化など)、免疫学的影響などがあげられています。


以上より、「心的外傷的出来事による身体的影響は少ない」とは言えないことが分かりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。



④ 治療開始の基本は、クライエントの生活の安全が保障されていることである。

「安全」の保証はPTSD治療の基本の「き」です。

ちなみに、「安全」と「安心」は違う概念ですね。

安全は客観的な状況のことを指し、安心はその人の心理的な状態を指します。

ですから、まずは「少なくとも客観的に見れば安全であろう状況」を構築することが、PTSD支援の第一歩といえます。

PTSDは、こうした安全な状況を作ることで自然回復も多い疾患ですから、とにかく重要であると言えますね。

以下では、なぜ安全を構築することが重要かを述べていきましょう。


PTSDは心的外傷的出来事によって生じる精神医学的反応です。

これらの精神医学的反応は、人間の身体が「心的外傷になるような出来事」を体験することで、「次に同じようなことが起こっても大丈夫なようにする」ことによって生じます。

つまり、侵入的に「再体験」することによって復習したり、外傷的出来事に近い刺激を「回避」したり、覚醒度を上げることで「いつ同じ状況が来ても対応できるようにする」という心身の状態を作り上げようとするわけです。

また、人間は知的生命体ですから、自分に起こった不幸な出来事について「ストーリーを持つ」ことによって安定するという性質があります。

そのため、「本来は誰かに責任を帰することができない出来事」だったとしても、否定的な認知(自分が悪い、他者が悪いなど)が生じやすくなってしまいます。

この「帰属させることで安定する」ことと「自分が悪いと思う」ということは、例えば、被虐待児などにもよく見られる傾向ですね。

被虐待児を見ればわかるとおり、この認識は後々まで残りやすい特徴ですね。

映画グッドウィルハンティングでこの辺がうまく描かれているように感じます(「君のせいじゃない」「わかってる」「いや、わかってない。君のせいじゃないんだ」と繰り返すシーンが好き)。


このように、PTSDの症状には、「またこういうことが起こっても大丈夫なようにしている」という意味では合理性があると私は考えています。

こういった仕組みを持つPTSDに対する治療では、クライエントの心身に「もうこういった出来事は起こらない」という認識が深く入り込むことが重要になります。

言い換えれば、「外傷的出来事と重なるような事態は起こらない状況を作る」ことによって「クライエントの心身が芯から安心する」ことが求められるのです。


これは言うのは簡単ですが、実践はとても困難です。

実践を困難にさせる最も大きな要因が「侵入症状」すなわち「フラッシュバック」の存在です。

フラッシュバックには「外傷的出来事と類似した刺激によって、その体験を思い出す」ことで、心身に対応をさせようとする意味があると考えられます。

「体験を思い出す」と書きましたが、実際は「発火」のイメージに近く、それによって「here and now」で動いている精神活動に阻害的に働いてしまいます。

しかし、これがフラッシュバックが起こるたびに生じていたのでは、安全であるという感覚がそのたびに損なわれるということになります。

そのためには、例えば、レイプされた女性であれば、特に最初期の治療者は女性の方が良いと思うのです(男性という因子がフラッシュバックを引き起こす可能性があるため)。

つまりフラッシュバックの存在は、それ自体がクライエントの安全感を脅かすだけでなく、クライエントの支援の幅を支援のために狭めざるを得ない(安全感のためにできないことが増えがち)という事態も生じるということです。

例えば、神田橋先生は、こうしたフラッシュバックに対して漢方による対応を述べておられますね(四物湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせが有効であるなどですね。いわゆる神田橋処方)。


いずれにせよ、困難ではありますが「PTSDの支援において、安全感を高めるようにすることが基本」であることは間違いありません。

私は、上記のようなPTSDの症状の仕組みを正しいかどうかは別にしてクライエントに伝えることが、まずは重要だろうと思っています。

先述の通り、知的生命体であるヒトは、自分の症状に対して理解していないと「自分の手の届かないところにあるものによって、自分がコントロールされてしまっている」という状況になりやすく、それ自体が自尊心を傷つけるのです。

まずは、こうした説明から入ることが安全感を高めるためには重要だろうと思うのです。

こうしたコントロール感を取り戻すアプローチによって、クライエント自身が自分の症状に対して能動的に関わっていけるようにすることが大切な気がしますね。

いずれにせよ、安全感の高まりを基盤にして、クライエントが自らの体験を能動的に振り返っていくという流れがPTSDの支援ではよく見られるものですね。

以上より、選択肢④は適切と判断できます。



⑤ 複雑性PTSDは、複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す。

複雑性PTSDとは、Hermanによって提唱された概念です(「Complex PTSD」という名前で、複雑性PTSDの概念を提案した)。

この中で、Hermanは持続的・繰り返し生じるトラウマが生じると通常のPTSDとは違った症状が出現することを指摘しています。

その症状は、身体的な問題、感情的な問題、行動的な問題、対人関係に関する問題などです。

複雑性PTSDという概念は、何年にもわたって長く続いた虐待などを原因として起こる心的外傷の症状を、災害や事故などのようにそのときだけ起こった事件、すなわち単回性のトラウマから起こるPTSDから区別するために、それまでのPTSDの診断基準を拡大して1994年にまとめられたものです。


ICDでは、第11版において初めて診断基準として記載が行われました。

ちなみにDSM-5では扱われませんでしたが、解離型と呼ばれるサブタイプがDSM-5には記載されています。

DSM-5に複雑性PTSDが採用されなかった理由は、「DSM-5の作成委員会が新しい診断基準を採用するためには採用に足る非常に強力な科学的根拠が必要でないと採用しない」という保守的な姿勢で作成されたためとのことです。


複雑性 PTSDは最も一般的には、逃れることが困難もしくは不可能な状況で、長期間/反復的に、著しい脅威や恐怖をもたらす出来事に曝露された後に出現するとされています(例:拷問、奴隷、集団虐殺、長期間の家庭内暴力、反復的な小児期の性的虐待・身体的虐待)。

複雑性PTSDの診断基準をまとめると以下の通りです。


診断に必須の特徴: 極度の脅威や恐怖を伴い、逃れることが難しいか不可能と感じられる、強烈かつ長期間にわたる、または反復的な出来事に曝露された既往がある。

次の3つの心的外傷後ストレス障害の中核要素を体験している。

  1. 心的外傷となった体験後の再体験
  2. 心的外傷となった出来事の再体験を引き起こしそうなものの入念な回避
  3. 現在でも大きな脅威が存在しているかのような持続的な知覚。驚愕反応の亢進でなく減弱がみられる場合がある

  • 感情のコントロールに関する重度で広汎な問題。ささいなストレス因への情動的反応性の亢進、暴力的な(情動と行動面の)爆発、無謀なまたは自己破壊的な行動、ストレス下での解離性症状、情動の麻痺、特に楽しみやポジティブな情動を体験できないこと。
  • 自分は取るに足らない、打ち負かされた、または価値がないという持続的な思い込み。これには、ストレス因に関する、深く広汎な恥辱感、罪責感、または挫折感が伴う
  • 人間関係を維持し、他の人を親密に感じることへの持続的な困難。人との関わりや対人交流の場を常に避ける、軽蔑する、またはほとんど関心を示さない。
  • 障害は、個人生活、家族生活、社会生活、学業、職業あるいは他の重要な機能領域において有意な機能障害をもたらしている。

つまり、複雑性PTSDの診断は単回性のPTSDの診断に加えて、感情の調節異常、否定的自己像、対人関係の障害を有していることが示されており、これらは自己組織化の障害として概念化されています。

自己組織化の障害と呼ばれる症状は、いわゆる境界性パーソナリティ障害と共通する部分とされています。

複雑性PTSDの個人的なイメージは「芋づる式」で、目の前にある心的外傷と関連する刺激から、時系列的に近い外傷体験が引っ張り出されますが、それ自体がまた近い外傷体験を引っ張ってくるという感じです。


以上より、「複数の、又は長期間にわたる心的外傷的出来事への暴露に関連する、より広範囲の症状を示す」という本選択肢の表現は、そのまま複雑性PTSDについて述べていると見なすことができますね。

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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