公認心理師 2020-43

2021年02月22日月曜日

本問は可視的差違という、初出の問題内容になっております。

明確な資料や文献を手に入れることもできず、わずかな論文や関連しそうな書籍からかき集めた知識で解説しています。

よりより資料が手に入れば修正する可能性もありますので、ご承知おきください。


問43 口唇裂口蓋裂、皮膚血管腫、熱傷などによる可視的差違がもたらす心理社会的問題について、最も適切なものを1つ選べ。

① 家族への依存性が強くなるため、社会的ひきこもりになることが多い。

② 可視的差違は、子どもの自尊感情の低下を招くリスク要因にならない。

③ 可視的差違を有する子どもの多くは、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しい。

④ 家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因になる。



解答のポイント

可視的差違による心理的影響を把握していること。



選択肢の解説


① 家族への依存性が強くなるため、社会的ひきこもりになることが多い。

こちらは恐らく「可視的差違を有していると、社会に出ることに消極的になるだろう」という一般的な考えに基づいて設定された選択肢であると考えられます。

しかし、可視的差違をもつ人々が直面している問題への研究から明らかになってきたことの1つとして、すべての人が等しく悪影響を受けているわけではないということです。

多くの人々が必要に応じてポジティブに適応しており、中には自らの可視的差違を長所として自認していることが明らかになってきています。


また、家族との関わりでは、母親との愛着をストレンジシチュエーションで調査した結果、正常児との有意差は見られておりません。

ただし、保護者の養育態度として、子どもの代わりにどんなことでもしてしまう行動や態度が多く、発達に応じた自律性や自主性を促す態度が少ないという指摘もあります。

特に子どもに不憫さを感じている母親ほど、過保護的になり、戸外での生活を制限し、子どもの社会的経験を少なくする傾向にあります。

こうした知見は、子どもの依存性というよりも、家族の過保護性を示していると言えるでしょうし、後天的な可視的差違には該当しない可能性もある知見と考えられます。


もちろん、外見への不安が持つ、観察可能で経験された影響力として、社会的不安と回避の重要性は指摘されています。

その結果として、社会的ひきこもりの「状況」になる例はあり得るのでしょうが(そういう知見があるというわけではなく、あくまでもそういうこともあり得る程度の認識で結構です)、彼らはその可視的差違や社会からのネガティブなメッセージにより、その「状況」になっているにすぎません。


しかし、本選択肢の「社会的ひきこもり」は、厚生労働省の定義では単一の疾患や障害の概念ではなく「さまざまな要因によって社会的な参加の場面が狭まり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態」とされています。

可視的差違によって生じている「ひきこもり状態」については、「さまざまな要因によって社会的な参加の場面が狭まり」という定義に該当するか、そもそも疑問があります。

ひきこもりが長期化するのは、生物学的側面、心理的側面、社会的側面から複数の要因が混在しているとされているので、可視的差違という単一の要因によって起こる「ひきこもり状態」が「社会的ひきこもり」と見なすのは無理があろうと思うのです。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



② 可視的差違は、子どもの自尊感情の低下を招くリスク要因にならない。

可視的差違に関する従来の心理学研究には、ある発達段階(幼少期、思春期、成人期など)に注目して、可視的差違を持つ人々がそこで直面する心理的問題を検討するという共通点があり、これまで主に指摘されてきた心理的問題は、不安感や羞恥心などの否定的感情、自尊感情への悪影響、対面的相互行為の困難の3つに分類することができます。

可視的差違をもつ人々は、その日常において、見知らぬ人々による否定的反応にさらされており、それは、露骨に凝視される、こそこそと見られる、ぎょっとされる、指を差される、言及される、立ち入った質問をされる、憐れみや嫌悪の感情を向けられる、あからさまに回避されるなど様々です。

彼らは「一般人の気楽さ(集団のなかの匿名性)」を失うことにり、多くの人がごく当たり前に享受している「儀礼的無関心」を経験することが困難であると言えます。


また、可視的差違に関連する心理社会的問題は、人との関係を築いていく中で徐々に生じてくるという面があります。

選択肢④でも述べますが、上記のような他者からのネガティブな反応は「他者自身が無自覚に発してくる」ものであるため、拒否することもできずに当人は曝されることになります。

こうして少しずつ送られる「メッセージ」や、その内容によっては、当然可視的差違は子どもの自尊心にネガティブな影響を与えうる要因であると言えるでしょう。


ただし、個人の自尊感情や自己イメージの構造、特徴的な帰属スタイル、コーピング方法の豊富さ、社会的支援に対する認知、心理学的健常感のレベルや社会的不安、周知の感情などは、概していえば、身体的要因や治療に関連した要因、社会文化的要因に比べると、介入によって変化させることが容易であるという指摘があります。

支援にあたっては、まず可視的差違をもつ子どもたちの自尊感情が低下しやすい状況にあるという理解と、それを踏まえた関わりを把握しておくことが支援者には求められます(例えば、彼らのコーピングで有効なものとして、適切なアサーティブやユーモアの活用があること等を知っておく)。

そして、彼らの支援に大切なのは、最終的には本人が自己概念とボディイメージを増強し、自身の可視的差違の影響に適応し、正常範囲内で行動し、社会において機能する個人に成長していくことをサポートしていくことです。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



③ 可視的差違を有する子どもの多くは、年齢に応じた心理社会的発達を遂げることが難しい。

例えば、口唇裂口蓋裂では、顔面組織の大部分を形成する顔面間葉は神経堤細胞に由来し、脳と顔面は発生学的に密接な関係があるとされています。

さらに、口唇裂口蓋裂の発生機序の1つに顔面間葉の欠損が挙げられていることから、認知機能や運動機能の発達遅延を伴うことも考えられてはいますが、ほとんどの子どもは成長や発達に異常がなく、順調に発達していくとされています。

生後6か月、12か月、18か月、24か月の口唇裂口蓋裂の子どもと、そういった問題のない子どもの心理社会的発達について比較した研究では、精神発達指数および心理運動発達指数は、各月齢共に標準値との有意差は見られないという結果が示されています。

いくつかの研究では、発達の遅延が示されていますが、それらは周辺的な要素と絡めて解釈されており(母親が注意喚起と指導のために母親が遊びを強要することで口唇裂口蓋裂の子どもに拒否行動が多いこと、身体的要因から言語発達が遅れてしまうこと、過保護的な養育態度によって身辺自立動作が遅れること等)、本質的な精神発達に差が無いという主張がなされています。


また皮膚血管腫では、自然経過では、1歳以降には小さくなりはじめ、5歳くらいまでに50%、7歳くらいまでに90%以上が赤みは消えていきます(赤みが消えても、たるみなどが残る場合があります)。

積極的に治療が行われるのは、身体の機能や発達に悪い影響を及ぼす場合(耳、鼻、口、首などに出来る場合)、出血しやすい、ただれやすい、たるみなどの痕が残りやすくなる場合、急激に大きくなってきている場合です。

この問題であっても、本質的な精神発達に差はないと言えます(火傷であれば、後天的なものですし、当然精神発達には影響はないですね)。


実際、社会的スキルに関する調査では有意差を認めず、顔面に可視的差違があった場合であっても顔面表情を見分ける能力や作る能力にも差が無いことが示されています。

以上より、彼らには本質的な精神発達には影響は見られないと言えます。


もちろん、保護者が彼らの問題故に、過剰に人目を避けたり、本来任せるべき種々の自立行動を妨げる関わりを持続させていると心理社会的発達を障害することになりますし、周囲が差別的に関わることのマイナスも当然考えることはできます。

ただし、それは可視的差違とは本質的には異なるものと見なすことができますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。



④ 家族や友人だけではなく、広く社会一般の反応や受容の在り方は、子どもが可視的差違に適応していくに当たり重要な要因になる。

例えば、口唇裂口蓋裂は生命を脅かすような先天異常ではありませんが、出産した母親のショックは極めて大きく、悲嘆、不安、混乱、失望、不信、焦燥、抑うつ、罪悪感、苦悩、拒否、落ち込み、怒り、ショックなどを示します。

多くの母親は比較的短い期間に子どもを受け容れることができますが、それが難しい場合、母親の育児態度や母子関係に影響を与え、それは子どもの性格形成や社会的行動に密接に関係してしまいます。


このように母親といった家族の影響は非常に大きなものと言えますが、子どもが可視的差違に適応していくためには、他にも重要な要素があります。

もともと可視的差違は、当事者の思考・感情・行動に加えて、他者が示す反応にも影響するので「社会的障害」と呼ばれています。

変形を負った人々が他者から様々な反応を示されますが、これらのほとんどは微妙なものであり、他者自身も気づかないうちに自動的に発せられているものです。

しかし、こうした「自動的に発せられる」他者の反応は、可視的差違を持つ人々の情報処理過程の状態に影響を与えます。


そして、こうした「他者の反応」に影響を与えているのが社会文化的要因になります。

それは文化的環境・宗教・人種・社会階層などによって様々です。

この点については、オックスフォード大学のRumsey&Harcourt(2012)で示されている可視的差違への適応の過程に関する研究でも指摘されています。

この研究によると、可視的差違の第一段階すなわち入力段階における諸要因として挙げられているものとして、人口統計学的要因、親からの影響、仲間からの影響、社会とメディアの影響、変形の原因などがあります。

人々を包む社会の在り様が、本人だけでなく親や仲間にも影響を与え、それがまた本人にも影響を与えるという形になります。


選択肢②でも述べたように、最終的には本人が自己概念とボディイメージを増強し、自身の可視的差違の影響に適応し、正常範囲内で行動し、社会において機能する個人に成長していくことが重要になります。

そして、こうした適応のために社会一般の在り様(反応や受容の在り方)は重要な要素であることは明らかですね。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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