公認心理師 2020-18

2021年02月11日木曜日

心身症に関する問題も頻出と言えそうですが、今回はちょっと細かいところまで問われています。

心身症自体に関しては2018-129で、アレキシサイミアについては2019-47で、タイプA型行動パターンについては2018追加-130で出題がありますね。


問18 心身症に関連した概念について、正しいものを1つ選べ。

① 慢性疼痛患者には、抗うつ剤は無効である。

② 進学や結婚は、気管支喘息の増悪に関与しない。

③ タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍のリスク要因である。

④ 本態性高血圧症が心理的ストレスで悪化している場合は、心身症と考えられる。

⑤ アレキシサイミア〈失感情症〉とは、以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態を意味する。



解答のポイント

心身症の定義、代表的な心身症やその基本的な支援内容を把握していること。

心身症と関連が深い行動様式を理解しておくこと。



選択肢の解説


① 慢性疼痛患者には、抗うつ剤は無効である。

慢性疼痛は生物学的要因のみならず、心理社会的要因、行動的要因、患者によってはスピリチュアルな要因が関係し合いながら病態を形成します(スピリチュアルな要因は主にがん患者でテーマになりやすい)。

心理社会的要因として、例えば、不安が難治化に関与していることが示されていたり、抑うつとの関連が示されています。

特に、痛みと抑うつとの関連は深く、うつ病患者の50%以上は身体症状のみを訴えており、そのうち少なくとも60%は疼痛関連症状であると言われています。

うつ病患者における痛み症状の出現率は65%で、疼痛治療プログラムに入院帳、またはペインクリニックでの患者の52%にうつ病の合併があるという報告もあります。

更に、6カ月以上続く痛みを抱える患者は、そうでない患者に比べて4倍うつ病になりやすく、うつ病を発症していると痛み症状が2倍増加すると言われています。


慢性疼痛とうつ病との関連を脳内メカニズムから見ていきましょう。

生体のストレス反応のメカニズムとして、視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)が重要です(2018追加-100を復習しておきましょう)。

HPA系の活性化によって副腎から分泌されたグルココルチコイドが全身の各器官に作用し、その上流にネガティブフィードバック(ホルモンが多いと視床下部や下垂体前葉にホルモンの放出を抑制するということ)をかけることによってこの系の恒常性が保たれています。

慢性ストレス状態では、刺激され続けたHPA系が、その恒常性を維持できず破綻してしまうことがあります。

うつ病患者の多くにHPA系の機能障害が認められ、これによる脳幹部でのセロトニンやノルアドレナリンの減少が、うつ病の主要な病態の一つだと考えられています。


痛覚伝達において重要な役割を果たす下行性疼痛抑制系のメカニズムに神経伝達物質として作用するのがセロトニンやノルアドレナリンです。

痛み症状自体がストレッサーになることで、HPA系の破綻からセロトニンやノルアドレナリンが減少して、下行性疼痛抑制系が減弱して慢性疼痛の形成に至る機序が考えられています。

つまり、疼痛閾値の低下を招くということです(それほどでもない強度だけど、痛みを感じるようになってしまう)。


この仮説から、抗うつ薬が慢性疼痛の治療に使われるようになり、三環形抗うつ薬、四環形抗うつ薬、SSRIやSNRIの慢性疼痛に対する有効性が報告されています。

日本における神経障害性疼痛薬物療法アルゴリズムにおいては、第一選択薬として三環形抗うつ薬が挙げられています(SNRIが第一選択になることがあるなど、病態によって異なる)。

このように、慢性疼痛において抗うつ剤の使用は一般的であると言えます。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。



② 進学や結婚は、気管支喘息の増悪に関与しない。

本選択肢を読んで、まず思いつくのがHolmes&Raheの社会的再適応評価尺度です。

1960年代後半に、生活環境の変化や生活上の出来事と心身の疾患との関連性について検討した生活ストレス研究を契機として、ストレスに関わる心理社会的要因を明らかにしようとする研究が盛んに行われました。

ホームズ&レイは、生活上の重大な出来事によって引き起こされた生活様式の変化に再適応するまでの労力が心身の健康に影響を及ぼすという考え方に基づいて、社会的再適応評価尺度を作成、個人のストレスレベルを測定しようとしました。

この尺度は、生活上の何らかの変化をもたらす出来事が記述された43の項目からなり、各項目には出来事の重大さに応じて重みづけ得点が与えられています。

過去一年間の得点の合計が一定の基準を超えると心身疾患に罹患する可能性が高まることが報告されていますが、可能性の重大さの評価の個人差が反映されていないこと等が本研究の問題点と言えます。

この社会的再適応評価尺度において、結婚はストレス度が50で、学校が変わることはストレス度が20となっています(最高が配偶者の死でストレス度が100)。

1年間の合計点数が300点を突破した人のうち、79%は翌年に何らかの身体疾患を訴えており、200~299点の層では51%に、150~199点では39%までに減少していることから、ストレスの蓄積と身体疾患を訴える頻度は比例することが明確になりました。


このように、ライフイベントと身体疾患との関連は深いと言えます。

大切なのは「ライフイベントの質が良ければ大丈夫というわけではない」と知っておくことです。

結婚も妊娠も昇進も栄転も、すべて「ストレス」となります(上記の表で言うと、離婚は結婚の1.5倍のストレスとなっていますが、実際に離婚した人に聞くと3倍という数値が実感としては多いですね)。

うつ病が、こうしたプラスの生活変化によって生じることは古くから言われていますね。

プラスの出来事であっても、多くの場合は環境の変化を伴い(特に良い出来事であるほど変化も大きくなりがち)、心身に緊張を生じさせるのは間違いありません。

この知見を知らないことで、引っかけようとしている意図が本選択肢にはあるような気がするので、間違えないようにしたいところです。


ライフイベントと喘息症状の関連については、約9割の喘息患者が発症前の1年以内に人間関係や役割上の変化を伴う生活の変化を認め、それまでの適応様式の破綻が喘息の発症に関連するという知見が示されております。

また、喘息が再発した人は再発前により多くのライフイベントを経験していることも明らかになっています。

喘息に限らず、心理社会的ストレスが身体疾患の悪化因子あるいは発症因子の1つになっていることは明らかであろうと考えられます。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。



③ タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍のリスク要因である。

Friedman&Rosenmanは、その臨床的経験から冠動脈心疾患に特有と思われる行動パターンを「タイプA」と名付け、これと対照的となるおとなしいパターンを「タイプB」としました。

タイプAの特徴として、競争心がきわめて強く、多くのいろいろなことに関係し、常に時間に追い立てられている、漠然とした敵意などが挙げられます。

タイプAの行動傾向のうち、基本的で重要なものは以下の通りです。

  1. 時間的切迫感:時間に追われながらの多方面にわたる活動。
  2. 性急さ:身体的精神的活動速度を常に速めようとする習癖。
  3. 達成努力:自分が定めた目標を達成しようとする持続的な強い欲求。
  4. 野心:永続的な功名心。
  5. 競争:競争を好み、追求する傾向。
  6. 敵意性:身体的精神的な著しい過敏性を伴う。

ただし、タイプAと冠疾患リスクについて否定的な報告が相次ぐ中で、タイプAの構成成分としての性格傾向、とりわけ「敵意」と「怒り」に関心が向けられるようになり、現在ではそれらの性格因子と冠疾患リスクの関連が支持されています。


なお、Themoshokが提唱したがんになりやすいパーソナリティ、いわゆる「タイプC」は、感情を抑圧しやすく自己犠牲的に過剰適応的に振る舞うというのが特徴です。

この陰性感情を抑圧する傾向とがんの発症・進展との関連は、がん患者の予後についての研究では比較的支持する結果が得られていますが、健常者からの罹患については不明瞭です。


以上のように、タイプA型行動パターンは、消化性潰瘍ではなく冠動脈心疾患のリスク要因であると見なされ、現在ではタイプAの「敵意」「怒り」といった性格因子が冠動脈心疾患と関連が深いとされています。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。


慢性の消化性潰瘍の発症や再発に情動因子が関与していることは古くから指摘されており、これは代表的な心身症の1つと見なされています。

消化性潰瘍には独特の性格特性が存在し、「潰瘍性格」と呼ばれ、精神心理学的に神経症的な傾向を示すことが報告されています。

性格傾向として、几帳面、内向的、凝り性で過剰適応(周囲に気を遣いすぎる)しやすく、感情表現が少ない(我慢する)人が多いとされています。

こちらも代表的な心身症ですので、基本的な事項については押さえておくようにしましょう。



④ 本態性高血圧症が心理的ストレスで悪化している場合は、心身症と考えられる。

安静時でも慢性的に血圧が高い状態が続いていることを高血圧症と呼び、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の場合であり、どちらか一方でもこの値を超えていると高血圧症と診断されます。

高血圧症には腎臓疾患や内分泌異常、心臓や血管の異常などが原因で起こる「二次性高血圧」と、主に体質的な要因(親が高血圧であるなどの遺伝的要因)と他のさまざまな要因が加わって発症する「本態性高血圧」とがあり、高血圧症のほとんどが本態性高血圧症です。


日本心身医学会は「心身症とは、身体疾患の中で、その発症や経過に心理社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし、神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する」と心身症を定義しています。

心身症は独立した疾患単位ではなく、各診療科や各器官における疾患の中で上記の定義に当てはまるものを指します。

すなわち、心身症は疾患名ではなく病態名と言えます。

代表的な心身症としては以下が挙げられています。

  1. 呼吸器系:気管支ぜんそく、過換気症候群、神経性咳嗽、咽頭けいれんなど
  2. 循環器系:本態性高血圧症、本態性低血圧症、起立性低血圧症、一部の不整脈など
  3. 消化器系:胃・十二指腸潰瘍、急性胃粘膜病変、慢性胃炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、胆道ジスキネジー、慢性膵炎、心因性嘔吐、びまん性食道けいれん、食道アカラシア、呑気症など
  4. 内分泌・代謝系:神経性食欲不振症、過食症、愛情遮断性低身長症、甲状腺機能亢進症、心因性多飲症、単純性肥満症、糖尿病など
  5. 神経・筋肉系:緊張型頭痛、片頭痛、慢性疼痛、書痙、自律神経失調症など
  6. その他:関節リウマチ、繊維筋痛症、腰痛症、外傷性頸部症候群、更年期障害、慢性じんましん、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、メニエール症候群など

このように本態性高血圧症も心身症の一つとして挙げられています。


心理的ストレスは交感神経系を刺激し、短期的に血圧を上昇させ得る環境因子です。

ストレスが本態性高血圧の持続的な血圧上昇にどの程度関与しているかは明らかではありませんが、高血圧の遺伝的背景と交感神経系の心理的ストレスに対する高い反応生徒の関連が指摘されています。

以上より、選択肢④が正しいと判断できます。



⑤ アレキシサイミア〈失感情症〉とは、以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態を意味する。

従来、神経症理論で心身症の病状を説明しようとする傾向が強かったのですが、このような方法論では実際の臨床にそぐわない点が多く、心身症患者の心理構造や病態理解には独自の理論的な展開が必要と考えられるようになりました。

そんな中で、心身症の人格特徴としてアレキシサイミア(alexithymia)という概念が取り上げられました。

これはSifneosによって提唱された概念で、a=lack・lexis=word・thymos=mood or emotionというギリシャ語に由来し、「感情を読み取り言語化しにくい」という意味で、日本語では「失感情症」や「失感情言語化症」などと訳されています。


アレキシサイミアでは、自分の情動の認知が制限されていて、言葉で表現するのも抑えられているので、身体化に感情のはけ口を求める結果、心身症になると想定されています。

環境への適応は、神経症では不適応になるのに対し失感情症ではむしろ過剰に適応し、外見上は問題なさそうに見えるという特徴もあります。

アレキシサイミアの大脳生理学的な発生機転としては、脳の知性の座としての新皮質と、情動や本能の座としての辺縁系との間に機能的な乖離があるためとの説があります。

以下は、何かの書籍(たぶん前田重治先生の著書だった気が…)で見つけたアレキシサイミアと神経症・精神病との異同に関する表です。

参考までに。


これに対して、本選択肢の「以前楽しめていた活動に対して楽しめない状態」は、抑うつ障害群でよく聞かれる症状ですね。

DSM-5における「ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退」という記述が、本選択肢の内容を指しています。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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