公認心理師 2020-73

2021年01月30日土曜日

事例の状況から考えられる精神医学的問題を想定し、検査結果を解釈する力が求められている問題です。

最悪、検査結果が読み取れなくても、事例の状況から判断することもできます。

試験勉強の段階では、しっかりと検査結果も読み取れるようにしておきましょう。


問73 25歳の男性A、会社員。Aは、上司Bと共に社内の相談室に来室した。入社2年目であるが、仕事をなかなか覚えられず、計画的に進めることも苦手で、Bから繰り返し助言されているという。Bによれば、同僚にタイミング悪く話しかけたり、他の人にとって当たり前の決まり事に気がつかなかったりすることもあり、職場の中でも煙たがられているという。会社以外での対人関係で困ることはない。この1か月は早朝覚醒に悩まされ、起床時の気分も優れなかったため、会社を何日か休んだ。BDI-Ⅱの得点は42点、AQ-Jの得点は35点であり、Y-BOCSの症状評価リストは1項目が該当した。

 Aに対する見立てとして、最も適切なものを1つ選べ。

① 軽度抑うつ状態

② 強迫症/強迫性障害

③ 社交不安症/社交不安障害

④ 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉



解答のポイント

事例の状況から大まかな見立てを行うことができること。

各検査のカットオフポイント等を把握していること。



事例の見立て・選択肢の解説

試験問題では検査結果が重要です。

例えば、検査結果がある精神疾患を示唆しているけど、事例状況がその結果と反する場合、試験においては「事例状況を検査結果に沿わせる論理」が存在することがほとんどです。

実践ではそんな状況ばかりではないのですが、試験という性質上、検査で示された数字を無視することはあり得ません。

とは言え、事例状況から何かしらの精神医学的問題にアタリをつけておくことも大切です。

本事例ではあまり関係がないかもしれませんが、まずは、検査結果以外の事例状況から考えられる精神医学的問題について考えておきましょう。


まず「仕事をなかなか覚えられず、計画的に進めることも苦手で、Bから繰り返し助言されている」「同僚にタイミング悪く話しかけたり、他の人にとって当たり前の決まり事に気がつかなかったりすることもあり」などは、発達的な問題、特にASDのような対人関係に難が出やすい問題を想定することができますね。

ただし、「会社以外での対人関係で困ることはない」ともあります。

もちろん、Aの対人関係の範囲がわからないので、この文言があるから発達的な問題の存在が否定されるわけではありません。


「この1か月は早朝覚醒に悩まされ、起床時の気分も優れなかったため、会社を何日か休んだ」については、抑うつ関連の問題が予想できます。

また、「仕事をなかなか覚えられず、計画的に進めることも苦手」というのも最近になって出てきたのであれば、抑うつ関連の問題と考えることもできます。

ただし、その場合対人関係上の問題をどのように解釈するかという課題が残りますね。


選択肢で示されている、強迫性障害や社交不安障害を想定させる記述は状況からは見当たりません。

対人関係上の問題を社交不安障害と見なしている可能性はありますが、「会社以外での対人関係で困ることはない」とあるあたり、対人関係上の問題が本質ではないように感じます。

仕事のうまくいかなさも強迫的心性によって生じていると見なせなくはありませんが、やや無理やりな感じが拭えませんね。


これらの事例状況を踏まえると、「もともと発達的な問題を抱えていたA」であったが、仕事のうまくいかなさや対人関係の不調によって「抑うつ的な状態になっている可能性」があると考えるのが一番自然かもしれません。

この仮説が検査結果をもってどのようになるのか見ていきましょう。



① 軽度抑うつ状態

こちらについてはBDI-Ⅱを見ていくことになります。

BDI-Ⅱはベック抑うつ質問票のことで、認知療法の始祖であるベックのグループが作成した自己記入式質問紙です。

DSM-Ⅳに準拠したうつ病の症状を網羅しており、全21項目から構成されており、それぞれに4つの反応形式が設定されています。

BDIでは総得点によって重症度分類がされており、0~13を極軽症、14~19を軽症、20~28を中等症、29~63を重症とされています。


事例はBDI-Ⅱ=42ですから、重症の抑うつ状態であると言えます。

事例内の「この1か月は早朝覚醒に悩まされ、起床時の気分も優れなかったため、会社を何日か休んだ」という記述についても、抑うつによるものである可能性が高まったと言えますね。

本選択肢は「軽度抑うつ状態」ですから、事例Aの状態とは齟齬があります。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



② 強迫症/強迫性障害

こちらはY-BOCSを見ていくことになります。

Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)=エール・ブラウン強迫尺度は、強迫性障害の強迫観念や強迫行為の臨床的重症度の評価において最も一般的に用いられる方法であり、10の項目から成り、費やす時間、関連する苦痛、機能障害、抵抗性、強迫観念と強迫行為の制御を評価します。

Y-BOCSは症状評価リストで特定した主要な強迫観念及び行為について、症状に占められる時間や社会的障害度など10項目を0-4点の5段階で評価・合計し総得点(40点満点)を決定します。

重症度については、10~18点は軽度、18~29点は中度、30点以上は重度と判断されます。

本事例で示されているのは「症状評価リストは1項目該当」ですから、どれだけ高い点数であっても4点に留まることがわかるので、強迫性障害は否定できることになります。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。


なお、「なぜ、本事例でY-BOCSを行ったのか」についてもう少し考えてみましょう。

先述の通り、仕事のうまくいかなさも強迫的心性によって生じていると見なせなくはありませんが、やや無理やりな感じが拭えないので、Y-BOCSを行う合理性は一見して薄いように感じます。

しかし、Y-BOCSの症状評価リストの強迫観念において、「対称性や正確性を求める強迫観念」「その他の強迫観念」のうちの「何でも知り、または覚えておかねばならないという考え」「適切な言葉を使っていないのではないかという心配」「物を無くすのではないかという心配」「ある種の音や雑音を以上に気にする」が、発達障害を有している人に有意に多いとされています。

また、強迫行為に関しては「確認に関する強迫行為」「繰り返される儀式的行為」「整理整頓に関する強迫行為」「物を溜めたり集めたりする強迫行為」が発達障害者に有意に多いとされています。

つまり、本事例では単に強迫性障害の可能性を疑ったというよりも、発達障害の特性を反映していると思われる「見たものを全て知っておきたい」といった特徴が、事例の状態に影響している可能性も考慮したと捉えることができます。

これによって、もしもAが発達的な課題を有しているのであれば、どのような特徴を持っているのかも把握できるという支援上の利点がありますね。



③ 社交不安症/社交不安障害

本事例では社交不安障害を調べるための検査を実施しておりません。

DSM-Ⅳ-TRまでは、強迫性障害と社会不安障害は同じ「不安障害」ではありましたが、DSM-5では分けられていますし、やはりY-BOCSは強迫性障害を調べるものと捉えるのが妥当です。

ここで2つの可能性を考えておく必要があります。

まず「BDI-ⅡやAQ-J、Y-BOCSを社交不安障害に用いてスクリーニングする」という知見があり、それを見逃している可能性です。

こちらについては、現時点では見つけられなかったので除外しておきます(知っている方はお知らせください)。


もう一つの可能性は「事例状況から社交不安障害を想定する必要がなかった」というものです。

その検証のため、社交不安障害の診断基準(DSM-5)を見ていきましょう。

  1. 他者の注目を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。例として、社交的なやりとり(例:雑談すること、よく知らない人と会うこと)、見られること(例:食べたり、飲んだりすること)、他者の前でなんらかの動作をすること(例:談話をすること)が含まれる。 注:子どもの場合、その不安は成人との交流だけでなく、仲間達との状況でも起きるものでなければならない。
  2. その人は、ある振る舞いをするか、または不安症状を見せることが、否定的な評価を受けることになると恐れている(すなわち、恥をかいたり恥ずかしい思いをするだろう、拒絶されたり、他者の迷惑になるだろう)。
  3. その社交的状況はほとんど常に恐怖または不安を誘発する。 注:子どもの場合、泣く、かんしゃく、凍りつく、まといつく、縮みあがる、または、社交的状況で話せないという形で、その恐怖または不安が表現されることがある。
  4. その社交的状況は回避され、または、強い恐怖または不安を感じながら堪え忍ばれている。
  5. その恐怖または不安は、その社交的状況がもたらす現実の危険や、その社会文化的背景に釣り合わない。
  6. その恐怖、不安、または回避は持続的であり、典型的には6ヵ月以上続く。
  7. その恐怖、不安、または回避は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こす。
  8. その恐怖、不安、または回避は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
  9. その恐怖、不安、または回避は、パニック症、醜形恐怖症、自閉スペクトラム症といった他の精神疾患の症状では、うまく説明されない。
  10. 他の医学的疾患(例:パーキンソン病、肥満、熱湯や負傷による醜形)が存在している場合、その恐怖、不安、または回避は、明らかに医学的疾患とは無関係または過剰である。

事例では「職場の中でも煙たがられている」という周囲の反応はありますが、A本人の自覚については述べられていません。

社交不安障害ならば、同僚に話しかけることへの恐怖等が表記されている必要がありますが、「タイミングが悪い」といった事柄となっていますね。

また、「会社以外での対人関係で困ることはない」というのも社交不安障害の可能性を下げるように感じます。

もちろん、会社だけで生じている可能性もありますが、それほど症状が状況によってパッキリと分かれるということも実際にはなかなかないことですね。


このように、事例状況での捉え方でも述べたとおり、本事例では他の疾患や問題を第一選択として検証していくことが重要であると思われます。

診断基準を踏まえても社交不安障害の症状が出ていると言えるほどのものはありませんでしたから、社交不安障害の検査を入れ込むことをしなかったのではないでしょうか。

検査は何でもすれば良いというものではなく、クライエントの負担も考慮して見立てに沿って必要な分だけ行うことが重要ですからね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



④ 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉

こちらについてはAQ-Jを見ていくことになります。

AQとは、Autism(自閉症)-Spectrum Quotient(指数)の略で、ASDのスクリーニングテストとして使われています。

ASDでは、社会的なコミュニケーションの取り方の困難さ、こだわりの強さを大きな特徴とされており、このような特徴や傾向をスクリーニングするため、Simon Baron-Cohen&Sally Wheelwrightたちによって考案されたのがAQです(語尾のJはJapanを意味します)。


AQ-Jでは、「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「想像力」の5つの項目があり、50問4択で解答していきます。

これらはすべてASD傾向を知るために重要な項目となります。

得点による判断は以下の通りです。

  • 33点以上:発達障害の診断がつく可能性が高いといえます。日常生活に差し障りがあると思われます。
  • 27~32点:発達障害の傾向がある程度あるといえます。日常生活に差し障りはないと思われますが、一部の人は何らかの差し障りがあるかもしれません。
  • 26点以下:発達障害の傾向はあまりありません。日常生活にも差し障りなく過ごせていると思われます。

ただし、この検査で33点以上だからといって、すぐにASDと診断されるのではなく、傾向の有無などその人の特性を知るための検査と言えます。


本事例ではその得点は35点となっており、ASDの可能性が高いことが示唆されています。

また事例状況や他の検査結果から考えると、当初の予想通り、「もともとASD的な問題を抱えていたA」であったが、仕事のうまくいかなさや対人関係の不調によって「重度の抑うつ的な状態になっている」と考えることができますね。

以上より、選択肢④は適切と判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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