公認心理師 2020-61

2021年01月28日木曜日

本問はプロチャスカの多理論統合モデルに関する内容になっています。

ほぼ類似の問題が過去に出題されていますし、今回の問題はそれよりもずいぶんわかりやすい内容であったと思います。

正直、事例の内容がわざとらしいほどわかりやすく描かれていますね。


問61 30歳の男性A、自営業。Aは独身で一人暮らし。仕事のストレスから暴飲暴食をすることが多く、最近体重が増えた。このままではいけないと薄々感じていたAは、中断していたジム通いを半年以内に再開するべきかどうか迷っていた。その折、Aは健康診断で肥満の指摘を受けた。

 J. O. Proschaskaらの多理論統合モデル〈Transtheoretical Model〉では、Aはどのステージにあるか。最も適切なものを1つ選べ。

① 維持期

② 実行期

③ 準備期

④ 関心期(熟考期)

⑤ 前関心期(前熟考期)



解答のポイント

Proschaskaらの多理論統合モデルにおける「行動変容ステージ」について把握していること。



必要な知識・選択肢の解説

健康づくりや健康増進のためには、健康なうちにより健康になるための行動習慣を身に付けることが必要になってきます。

こうした人を健康に導く行動への変容に、心理学の理論に基づいた技術を用いた専門的サポートプログラムが作られています。

これをヘルスプロモーションのための行動変容モデルと呼び、多理論統合モデルはその代表的なものです。

多理論統合モデルは、禁煙や効果的なストレスマネジメント行動変容、運動習慣の獲得などの成功率が最も優れているアプローチの一つとして認められています。


この理論は、行動変容に対する動機づけの程度や準備状態を反映する「行動変容ステージ」、行動変容を実践するときの恩恵と負担に対する主観的見積もりである「意思決定のバランス」、ポジティブな結果期待と行動変容する自信を指す「自己効力感」、健康行動を促進する認知・感情的体験と行動的活動を指す「変容のプロセス」の4つの仮説で構成されています。


「行動変容ステージ」では、健康行動への動機づけの違いによって5つの行動変容ステージに分類します。

行動変容ステージを上げるためには、次の4つのポイントを理解しておくことが大事です。

  1. 行動変容ステージはひとつずつ上がっていく
  2. 行動変容とは、外に現れた行動だけでなく、気づきを持ったり、感情的な体験をしたり、考え方が変わることなども含む
  3. ステージは上がらなくても、そのステージに留まっていても、次のステージに近づいている進歩(前進)しているとみなす
  4. 行動変容が順調に進んでいても、進歩が止まったり、前の行動変容ステージに後戻りしたりすることもふつうに起こる

行動変容ステージについては各選択肢の解説内で詳しく述べていきます。


「意思決定のバランス」では、健康行動に伴うメリットとデメリットのバランスとして定義づけられます。

こちらでは、前熟考期や熟考期などの行動変容ステージの初期は負担感が大きくてメリットが少なくなります。

実行期や維持期などの行動変容ステージの後期になると、デメリットよりもメリットの方が大きくなります。

そして次の行動変容ステージに進んでもらうためには、デメリットを減らし、メリットを増やす必要があります。

また、デメリットが大きくなり、メリットが少なくなると行動変容ステージは後戻りするとされています。

このように、健康行動ためには意思決定のバランスをこのように変化させることが大事となるわけです。


「自己効力感」とは、効果的なストレスマネジメント行動を習慣として続ける自信を指します。

人はある行動が望ましい結果をもたらすと思い、その行動をうまくやることができるという信念があるときに行動を起こす可能性が高くなるとされています。

前熟考期から維持期にかけて自己効力感が高まることを指します。

このことは、健康行動を継続できる自信と反健康行動をしたくなったときの誘惑に抵抗できる自信が大事であることが示唆されています。


「変容のプロセス」では、健康行動に有効な変容のプロセスとして、認知・感情的体験と行動的活動の2つが示されています。

前者の認知・感情的体験のプロセスには、意識化の高揚(健康行動に向けて意識を高め、情報収集するなど)、感情的体験(健康行動をしないことによるネガティブな感情を体験するなど)、環境の再評価(健康行動をしないことによる周囲の影響と、健康行動をしたことで周囲に与える影響を考えるなど)、自己の再評価(健康行動をする自分あるいは健康行動をしない自分をイメージして考えるなど)、自己の解放(健康行動をすることを強く決意し、それを周囲に宣言し、健康行動に向けて責任を明確にするなど)があります。

後者の行動的活動のプロセスには、強化マネジメント(健康行動をすることに対して内発的・外発的な報酬を自分にするなど)、援助的関係の利用(健康行動に役立つ人的資源を活用するなど)、拮抗条件づけ(反健康行動の誘惑に負けない健康的なやり方を学ぶなど)、刺激コントロール(健康行動をしやすいような手がかりを増やし、反健康行動につながる刺激を避けるなど)、社会的解放(世の中が健康行動社会になっていることに気づくなど)が含まれます。


本理論では、ある段階から次の段階へ移行させるために、健康心理学上の固有の理論が適宜活用されているので、通理論(多理論統合)モデル(Transtheoretical Model)と呼ばれているわけです。

これらを踏まえた上で、本理論における「行動変容ステージ」について理解していきましょう。



① 維持期

多理論統合モデルの行動変容ステージの最後、第5段階の時期を指しています。

これは健康行動を開始して6か月が過ぎた段階であり、明確な行動変容が観察されて、その持続に自信がある時期です。

このような人の特徴としては、①自己効力感はすべてのステージの中で最も高い水準にある、②後戻りしにくい状態になっている、③ストレスマネジメント行動を楽しんでいる様子が伺え、負担感よりも恩恵が大きい、などになります。

このステージにいる人への働きかけは、後戻りの防止とストレスのコントロールを中心として、ストレスを予測する(自己の再評価)、後戻りを予防する(拮抗条件づけ)、周囲の支援を再認識する(援助的関係の利用)、現在の実行状況を確認する(刺激コントロール)などが重要になります。

維持ステージは、自己効力感も上昇し、ストレスマネジメント行動を順調に続けている時期であるが、後戻りの原因となる要因を予測し、回避できるような対処法をしっかり考えておくことも必要です。

予測できない状況下で誰に頼るべきかなど、周囲の支援を見つめ直しておくことが大切になります。


事例の状態は「行動を起こしていない」ので、既に行動を起こした後の段階である「維持期」には該当しないと考えるのが妥当です。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。



② 実行期

多理論統合モデルの行動変容ステージの第4段階であり、健康行動を開始し、その期間が6か月以内の状態を指します。

明確な行動変容が観察されてはいますが、その継続に自信がない時期であると言えます。

行動変容に対して時間や労力を最も要し、前のステージに最も後戻りしやすいのが、実行期の特徴です。

特に、①実行し始めた最初の6か月は、行動変容を維持することが最も難しく、つまずきやすく、後戻りしてしまう可能性が高い、②自己効力感が高く、ストレスマネジメント行動のメリットを実感している、などが見られます。

この時期には、報酬を考える(強化マネジメント)、後戻りを予防する(拮抗条件づけ)、継続的にストレスマネジメント行動を行えるよう環境を整備する(刺激コントロール・環境の再評価)、周囲の支援をもう一度認識する(援助的関係の利用)、現在の実行状況を確認する、などのアプローチが効果的とされています。

実行ステージは、継続が難しくなる時期ですが、自己効力感は上昇し続けているとされています。

報酬を用意するなど、後戻りにいかに対処するかがポイントとなる段階です。

そのためにも、後戻りの原因となりそうな要因を予測し、回避できるような対処法を予めしっかり考えておくことが重要となります。


選択肢①と同じく、こちらも実際に行動を起こした後の段階ですから、行動を起こしていない本事例は実行期に当たらないと言えますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。



③ 準備期

準備期は、健康行動を決心して計画を立てる準備段階であることを指します。

1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期であり、行動変容の準備ができている状態ではあるが、同時に行動変容に対して失敗を恐れている段階といえます。

この段階では、①ストレスマネジメント行動に前向きに取り組もうと考えている、②ストレスマネジメント行動を実行するだけの自信が持てず始めることを躊躇している、③ターゲット行動は決まっており、あとは実行するだけの状態にある、④恩恵と負担感のバランスが恩恵の方に少しずつ傾き始めている、などの特徴があります。

このステージにある人には、目標を設定して、行動のための具体的計画を立てることが有効で、適切な目標と行動計画を立ててもらうことによって、自己効力感を高めてもらいながら、実行に移してもらう援助が必要となります。

具体的には、決意表明をする(自己の解放)、新しい自分をイメージする(自己の再評価、環境の再評価)、代替行動について考え具体策を計画する(拮抗条件づけ)、周りの人の支援を受ける(援助的関係の利用)、などが有効とされています。

特に具体的な行動を計画することは、このステージにおいて一番重要なプロセスであり、ストレスマネジメント行動によって健康的なライフスタイルへと生活を変える方略となります。

やる気が高まっているときはたくさんの計画を立ててしまいがちですが、ここでのポイントは、あれもこれもとたくさん計画を立てないことで、実行可能な具体策を計画することが求められます(実行できなければ後にそれが失敗体験となり自己効力感を下げることにつながってしまいます)。


この段階は事例の状態と非常に近いと言えますが、本事例は「中断していたジム通いを半年以内に再開するべきかどうか迷っていた」とありますので、「1カ月以内の実行を考えている」という準備期の定義とは合致しないと言えますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



④ 関心期(熟考期)

行動変容ステージの第2段階で、6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期であり、行動変容に関心はあるが実行する意思がない時期と言えます。

特徴としては、①ストレスマネジメント行動の恩恵には興味を持っているが、すぐに実行する気にはなっていない、②何から始めればいいかよく分からない、また自分にできるかどうか不安に思っている、③ストレスマネジメント行動を実行するよりも、今のままがいいと思っている、などです。

具体的には、取り組むべきターゲット行動を決める、負担感を軽減して恩恵を高める(意思決定のバランス)、さらに気づきを高める(意識化の高揚、感情的な体験)、自己イメージを変える(自己の再評価、自己効力感)などが重要になります。

この時期からは、傾聴しながら受容的・共感的に接して、信頼関係を築いていくことが特に大切となり、そのためにカウンセリングの技術が必要となります。

行動変容に伴う負担がある時期と言えるので、行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことが大切であり、そのために情報提供としてのティーチングを行います。


関心期は、本事例で示されている「このままではいけないと薄々感じていたAは、中断していたジム通いを半年以内に再開するべきかどうか迷っていた」という状況と一致することがわかります。

よって、選択肢④が適切と判断できます。



⑤ 前関心期(前熟考期)

行動変容ステージの第1段階で、6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期を指します。

特徴としては、①ストレスマネジメント行動の必要性をあまり感じていない、②効果的なストレスマネジメント行動がどういうものかよく分からない、③ストレスマネジメント行動を行ったときの恩恵と、行わないときの負担を知らない、④ストレス対処のために何かしようと考えていない、⑤ストレスマネジメント行動に対して負担感の方が大きいと考えている、などが挙げられます。

行動変容の必要性を正しく理解してもらい、関心を持ってもらう援助が必要であり、考えや感情を聴きながら、情報提供としてのティーチングを根気強く繰り返す時期です。

ただし、脳梗塞、心疾患、癌などになる確率(ネガティブ情報)を伝えて脅すだけでは、防衛的態度や反感を強める結果になりかねませんので、生活習慣を変えることで健やかな生活を実現している人の成功例(ポジティブ情報)も、同時に伝えていく必要があります。


前関心期は、「中断していたジム通いを半年以内に再開するべきかどうか迷っていた」という本事例の状態より更に前の段階であると言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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