公認心理師 2020-16

2020年12月23日水曜日

 心理検査に関する問題です。

ロールシャッハ・テストは初めて出題されましたね。

歴史的な背景に関する理解を問う内容になっていますが、やや深めの知識がないと間違えてしまう可能性があります。


問16 精神分析理論の防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展した心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。

① SCT

② TAT

③ MMPI

④ P-Fスタディ

⑤ ロールシャッハ・テスト



解答のポイント

各心理検査の成立の経緯について理解していること。



選択肢の解説


① SCT

SCTは一般に言語連想テストから派生したと考えられています。

確かに、この両テストは共通点は多いのですが、その目的においては次元が異なっています。

言語連想テストは無意識にあるコンプレックスを探るのが目的ですが、SCTはより広範な情報収集が目的です。

つまり、単語刺激に単語で答える言語連想テストでは、パーソナリティ全般を把握するためには無駄が多くなってしまうので、刺激を文章にして、被検査者に関する情報を効率的かつ豊富に得られるようにしたのがSCTということになります。


文章完成法という形式自体は古くから存在が認められており、記憶研究で有名なエビングハウスもこの形式をもって知能を測定しています。

ただし、エビングハウスの検査は、文章を完成させるという方法は同じでも、「反応の適切さ」が問題とされていた点で大きく異なっており、どちらかというと現在の穴埋め問題に近いものでした。


現在のようにSCTをパーソナリティと関連させた最初の試みは、ペインがキャリア・ガイダンスの領域において用いた50項目からなる検査の作成です。

隠された反応を引き出すことで人格特性を明らかにする検査として考案され、大学生の職業相談に広く用いられました。


また、テンドラーの「情緒洞察検査」は、パーソナリティ検査として心理学の領域にSCTを導入した最初の研究であるとされています。

この検査では情緒表出に関連した20項目の刺激文が用いられています。

SCTが採用された理由としては、情動反応が直接的に引き出すことができ、しかも、質問紙法などの選択肢による回答と異なり、被検査者の反応に自由性が保持できることが挙げられています。


この後、1940年代には集中してSCTの研究報告がありました。

この背景には、第二次世界大戦における軍人動員のためのスクリーニング検査としてSCTが採用されたことと関連しています。


このように他の検査と違ってSCTは特定の理論的背景のもとで作成されたものではなく、多くの文章完成法という方法を活用した研究の蓄積によって広まっていきました。

よって、問題文にある「防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展した」という点には該当しません。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



② TAT

TATは精神力動的な立場に立つ人格診断法として知られています。

1935年にマレーとモーガンによって「空想研究の一方法」という論文で報告されたのが最初です。

つまり、「空想」という明らかにフロイトの精神分析学の理論を基礎とした現象を踏まえた検査であることがわかります。


フロイトは、空想を神経症発生のメカニズムや夢や芸術作品の形成にあずかる重要な心理現象であると主張し、理論づけました。

マレーはこれを受けて、一連の絵画を被検査者に示し、それについて自由な空想を交えた物語を作らせ、結果を力動的な人格論の立場から分析・解釈する方法としてTATを考案しました。

マレーはTATについて「訓練された解釈者にパーソナリティの主な衝動、感情、情緒、コンプレックスおよび葛藤を明らかにする一つの方法である。特別な価値としては、潜在的に禁止されたもろもろの傾向を明らかにする効力がある」と述べています。

つまり、TATとは絵画を手がかりとして作られた空想的な物語をとおして、被検査者の人格を診断する精神力動的な心理検査ということです。


このように、TATは精神分析の影響を大きく受けているのは間違いありませんが、問題文にある「防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展した」という点には該当しません。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



③ MMPI

MMPIはミネソタ大学のハザウェイとマッキンレイが1930年代後半から開発を進めてきた人格目録であって、現在でも世界で広く使用されています。

MMPIが作成された時代は投影法が盛んで、多くの投影法が考案されていました。

こんな中、もっと客観的に精神医学的診断ができる検査を作ることを目指して作成されたのがMMPIです。


しかし、MMPIで精神医学的診断をするという目的は果たすことができませんでした。

なぜなら、ある尺度に該当する被検査者が、他の尺度にも該当するということが多々見られたのです。

つまり、MMPIの各臨床尺度は、その尺度名が示す症状や基準群が示す疾患を表す純粋な測度とは言えないということです。


そこで研究者の関心は複数の臨床尺度の得点パターンと種々の精神疾患群との関係を確かめる方向に移っていき、更にMMPIから精神疾患の診断資料を求めるよりは被検査者の人格特徴を査定する方向へと向かっていきました。

つまり、例えばD尺度だと、うつ病だと診断するのではなく、うつ病患者に典型的に示されているような人格特徴の程度を査定しているということになります。

要するにMMPIは、「精神疾患を見分ける」という検査ではありませんが、その人の「現在の状態」や「その程度」を査定するのに優れていると言えます。


その他のMMPIの特色の一つとして、この件は特定の人格理論に拠っていないということが挙げられます。

そのため、MMPIの利用者の幅は広く、行動論から精神力動論に至るまで様々な立場の臨床家や研究者がMMPIを活用しています。


このように、MMPIの成立において防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展したとは言い難いです。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。



④ P-Fスタディ

P-Fスタディの考案者であるローゼンツァイクは、1920年代にハーバード大学においてショーペンハウエル、ニーチェ、ベルグソンなどの哲学者の創造的な業績と彼らの欲求やフラストレーションとの関係について研究をはじめました。

続いて、フロイトが臨床的に見出してきた精神分析の概念である、防衛機制の抑圧、置き換え、投射などについての実験的研究を行いました。

それらの研究を通して、心理力動の実験的研究にとってフラストレーション現象が最もふさわしい対象であると考えたという経緯があります。


この知見を基盤に、ローゼンツァイクはフラストレーションに対する典型的な反応や欲求不満体制を査定するための検査(F-テスト:Frustration)を考案しました。

これには4種類の検査が含まれており、1つ目は行動検査(B-テスト:Behavior)、2つ目と3つ目はフラストレーションに対する典型的な反応を選択肢とした質問紙検査で、フラストレーション場面で被検査者が実際に言うと思う言葉を選択する現実検査(R-テスト:Real)と、同じフラストレーション場面で被検査者が言いたいと思う反応を選択する理想検査(I-テスト:Ideal)、4つ目はマンガ風に描かれたフラストレーション場面の中の人物がどのように答えるかを問うもの投影検査(=P-テスト:Projective)です。

最後の「P-テスト」初めて体系的に用いられ、これが最も有効と認められたので、発展させて現在のP-Fスタディを作成しました。


このように、P-Fスタディは「防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展した心理検査」であると考えることができます。

これはP-Fスタディの検査中にも見て取ることができて、例えば、アグレッションの方向が他責の場合、他人から非難されたり、攻撃されたりするのを恐れて、相手を非難して敵意を示すことから、防衛機制は投射を使っていると見ることができますね。

よって、選択肢④が最も適切と判断できます。



⑤ ロールシャッハ・テスト

ロールシャッハ・テストは、他の検査には類を見ないほど、多くの領域から知見が集まりブラッシュアップされてきたという経緯があります。

それの背景にあるのは、ロールシャッハ・テストの生みの親であるヘルマン・ロールシャッハが夭折したという事実です(確か37歳で他界しています。盲腸で。正確には盲腸に伴う腹膜炎で)。

ヘルマン・ロールシャッハが、「ロールシャッハ・テストの決定版」とも言うべきものを一切発表することなくこの世を去ったことにより、理論的枠組みや領域を超えて、さまざまな方面で活用されるに至ったと考えられます(中井久夫先生はそのことを踏まえて、ご自身が考案された風景構成法の「決定版」を著していません)。


ロールシャッハ・テストの発展に寄与したものの一つとして精神分析学があることは間違いありませんが、ロールシャッハ・テストは精神分析学の理論を前提として生み出されたものではありません。

例えば、TATであればマレーの欲求-圧力理論に基づいて、P-Fスタディであればローゼンツァイクの欲求不満-攻撃理論に基づいて発展しており、これらは、それぞれの理論がその検査の生みの親であると同時に育ての親であると言えます。

しかし、ロールシャッハ・テストにとって精神分析学は育ての親ではあり得ても、生みの親ではないのです。


そもそも、ヘルマン・ロールシャッハの「精神診断学」の中には、ロールシャッハ・テストの本質として「偶然にできあがった図形の判断は、むしろ知覚や統覚の概念に属するものである」という考えが示されており、これはヘルマン・ロールシャッハの師であったブロイラーの連合心理学の考え方が反映されていますが、精神分析学には全く言及していません。


また、ロールシャッハ・テストが精神分析学を基盤にしているのであれば、もっとフロイトの理論を取り入れてもよいはずですが、「精神診断学」を通読してもフロイトの名前はほとんど出てきません。

フロイトの理論を取り入れているならば、反応内容を分析する際には象徴的解釈に重点を置かれているはずですが、その痕跡も見られません(そもそも、ヘルマン・ロールシャッハは、反応内容自体にそれほどの価値を置いていなかった)。


ヘルマン・ロールシャッハが最も重点を置いたのは体験型で、この構想はユングの外向-内向という精神分析学的な方向ではあります(ただし、当時のユングはフロイトと決別していました)。

しかし、正確には、運動感覚は生理学者の理論、色彩に関してはヴントの影響を受けた精神医学者の考え方が本質的な影響であり、これら2人は精神分析学とは何の関係も持っていない人物です。


先ほど「育ての親ではあり得る」と述べましたが、その知見については多く存在します。

例えば、ラーナーのLerner Defence Scaleは、評定者間信頼性を高めるための工夫がなされた評定方法です。

本邦でも、小此木先生と馬場先生の「精神力動論」には、防衛機制ごとに生じやすい反応が示されております。


このようにロールシャッハ・テストには多くの精神分析学、防衛機制に関する知見がありますが、問題文にある「精神分析理論の防衛機制に関する実験的研究の結果を基盤に発展した」とまで言うことは難しいだろうと思います。

「基盤」という言葉からは、ロールシャッハ・テストの草創期に「精神分析理論の防衛機制に関する実験的研究」があり、それを礎にして発展してきたという意味が含まれていると捉えることができますが、そのような事実は認められません。

以上より、選択肢⑤は最も適切とは言えないと判断できます。


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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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