公認心理師 2020-13

2020年12月26日土曜日

 摂食行動の神経学的理解が問われている問題です。

本問はまさに「知らないと解けない」問題になっています。

選択肢間の矛盾を説明する論理を理解していないと解けないためです(何を指して言っているかは、解説内に示してあります)。


問13 摂食行動を制御する分子について、正しいものを1つ選べ。

① グレリンは、食欲を抑制する。

② レプチンは、食欲を促進する。

③ オレキシンは、食欲を抑制する。

④ 肥満症では、血液中のグレリン濃度が上昇する。

⑤ 肥満症では、血液中のレプチン濃度が上昇する。



解答のポイント

摂食調節に関わる神経ペプチドについて理解している。



選択肢の解説


① グレリンは、食欲を抑制する。
④ 肥満症では、血液中のグレリン濃度が上昇する。

グレリンは、1999年に久留米大学分子生命科学研究所の児島将康教授らが発見したとされています。

同大学の研究グループが発表した2019年の研究では、グレリンはドーパミンと関係が深い脳内報酬系に作用し、運動へのモチベーションを高めていることが明らかになりました。

内因性の成長ホルモンアナログ受容体の内因性リガンドとして同定されたグレリンは、主に胃で大量に産生されていますが、他にも大腸、下垂体、腎臓、胎盤、視床下部でも産生されています。

グレリンは、成長ホルモン放出促進作用を有してはいますが、それとは別にヒトやラットなどの動物で空腹感を誘発し摂食を亢進させる効果があります。

即ち、食欲を亢進する効果があるということですね。


空腹になると胃から血液中にグレリンが分泌され、血液を流れたグレリンが脳の摂食調節部位に作用することで、食欲が刺激され、空腹感が生まれます。

グレリンの分泌に異常が起こると、食事をした後でも短時間で食欲を感じやすくなるなど、肥満やメタボリックシンドロームの発症リスクが高まると考えられています。


なお、肥満あるいは摂食により血中グレリンは減少し(つまり食欲が抑制され)、逆に空腹時や飢餓、摂食障害で増加する(つまり食欲が亢進される)ことが確認されています。

血中グレリン濃度は肥満モデル動物やヒトの肥満者において低値で、体格指数(BMI)と負の相関を示すことが明らかとなっています。

これらのことから、グレリンは負のエネルギーバランス時に活性化され、摂食刺激、脂肪蓄積などによる同化作用により生体の恒常性を維持するために働いていると考えられます。

以上より、選択肢①および選択肢④は誤りと判断できます。



② レプチンは、食欲を促進する。
⑤ 肥満症では、血液中のレプチン濃度が上昇する。

レプチン(leptin)はギリシャ語で「痩せ」を意味する「レプトス(leptos))という言葉に由来しています。

遺伝的に肥満を示すマウスではレプチンの遺伝子に異常があり、レプチン産生に問題が生じることから肥満が誘発されます。

同様に遺伝性肥満を呈する糖尿病マウスでは、レプチン受容体の遺伝子に異常があることも報告されています。

上記のような研究結果から、グルコースに加えて、レプチンも末梢のエネルギーバランス情報を伝える重要な伝達物質として考えられるようになりました。


レプチンは脂肪細胞で産生され、血中に分泌されます。

また、レプチンの分泌量は脂肪組織の量に比例します。

レプチンは視床下部腹内側核、視床下部背内側核、弓状核に作用して摂食を抑制すると考えられています(これらの部位にはレプチン受容体がある)。

弓状核の摂食更新作用をもつNPYニューロンと摂食抑制作用をもつPOMCニューロンは、両方ともにレプチン受容体を発現しており、レプチンで前者は抑制、後者は賦活化されることが明らかになっています。


簡単に述べると、レプチンは生体の栄養状態あるいは体脂肪を反映して血中を循環し、視床下部に作用して満腹感を感じさせることで摂食を抑制させたり、エネルギー代謝亢進によって体脂肪を減少させて体重を適正に保つように作用しています。

つまり、血中レプチンが多いと痩せる仕組みになっているということです。

このように、レプチンは摂食行動の調節にきわめて重要な働きをしていることがわかります。

ちなみに「早食いは太る」と言われますが、これはレプチンの分泌が食べ始めてから20~30分後であるため、早食いだと肥満細胞がレプチンを分泌する前に食べ終えてしまうため、結果として大食いになってしまうのです。


一方、ヒトにおける肥満では、血中レプチンレベルは上昇しており、レプチン抵抗性の存在が示唆されています(肥満症では一般に血中レプチン濃度は高値(大半は100ng/ml以下))。

レプチン抵抗性があると、レプチンの「食欲を抑える」「脂肪を燃焼させる」といったレプチンからの指令に生体が反応しなくなるので、肥満の人では血中のレプチン濃度が高くても摂食の抑制が起きにくくなります。

治療薬として、脂肪萎縮性糖尿病などの低レプチン血症や、高度のインスリン抵抗性糖尿病に対してのレプチンの効果が報告されています。

レプチン遺伝子や受容体異常症も含め、レプチン抵抗性肥満のメカニズムのさらなる解明とメタボリックシンドロームへの臨床応用が期待されています。


このように、レプチン分泌は食欲を抑制しますが、肥満症では血中レプチン濃度が高くなっているにも関わらず、その抑制が生じにくくなっていると言えます。

本問はここにミソがあると思います。

つまり、何も知らない状態で選択肢だけを読むと「選択肢②が○だと選択肢⑤も○になるから除外できるな…(正しいものは一つだけなので)」と考えてしまいます。

よって、この選択肢間の矛盾を説明する論理を理解していないと正答を導くのが困難な問題だったと言えるでしょう。

以上より、選択肢②は誤りであり、選択肢⑤が正しいと判断できます。



③ オレキシンは、食欲を抑制する。

オレキシンは、視床下部で作用する食欲や睡眠、体内リズムなどに関わるホルモンです。

オレキシンが発見された当初、摂食中枢である視床下部外側野とその周辺部に局在することから、摂食に関連する研究が多く行われました。

ラットやマウスの脳室内にオレキシンを投与すると摂食を誘発すること、絶食によりオレキシンが増加すること、オレキシン遺伝子ノックアウトマウスの食餌量が減少することなどが明らかにされています。


また、マウスに甘い味のついた水を毎日決まった時刻に与えると、オレキシンを作り出す神経の活動が盛んになることがわかっています。

このことは、なにか動機があり(○○が食べたい、飲みたいなど)、それが達成されると、オレキシンの産生が多くなるということを示しています。

そのためかオレキシンを放出するオレキシン神経が「食事をよく味わいながら、美味しく、規則正しく摂る」ことにより活性化するなどと説明がなされています。


ただし、オレキシンの摂食促進作用は短時間であり、24時間の総食餌量も体重も対照群と比較して差がないことが示されています。

現在、オレキシンの摂食促進作用は、オレキシンニューロンの軸索が投射先の一つである弓状核NPY産生ニューロンでのオレキシンによる活動亢進によりなされると考えられています。

また、オレキシン産生ニューロンの多くはレプチン受容体を発現しており、レプチンによりオレキシン産生ニューロンの活動が抑制されることが明らかになっています。


この他、オレキシンには睡眠と覚醒のコントロールと関わっており睡眠中は活動が抑えられているので、夜中に食事をしてすぐ寝てしまうと、オレキシンによって促される筋肉での糖の利用が抑制され血糖がより上昇し、上昇した血糖は筋肉ではなく脂肪組織などに蓄えられ、肥満の原因になる可能性が出てきます。

また、交感神経の活動を促進して体のエネルギー消費を促進する、などの重要な役割を多く担っているので、体の中で産生されないとナルコレプシーを引き起こす原因になる可能性も示唆されています(ナルコレプシー患者の脳脊髄液を検査すると、9割以上の症例でオレキシンの量が測定できないほど低下しています。死後に脳を調べるとオレキシンを産生する神経細胞が消失しています)。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。


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1 件のコメント

  1. この問題は全くわかりませんでした。
    レプチン(leptin)はギリシャ語語源で「痩せ」ですか。英単語でlepto-が付くと,「小さい, 細かい, 薄い」などの意味になるようですね。
    どうやらグレリン(ghrelin)の方は,「英語のgrowがインド・ヨーロッパ基語でghreであることからグレリンghrelinと命名され,また成長ホルモン(GH:Growth Hormone)を放出する(release)という意味も含まれている」ようですね。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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