臨床心理士 教育領域:H20-59

2020年07月01日水曜日

学校で教師から相談された時の対応の適否について問うている内容です。
感覚的に解ける人も多いでしょうけど、きちんと正誤判断の根拠を説明できるようにしておきましょう。
プロフェッショナルは自分の言動に理由をもっておくことが大切ですからね。


 ある小学校の学校臨床心理士(スクールカウンセラー)が、教師のD先生からクラスの児童のことで相談を受けた。D先生によると、クラスの中に、「発達障害と思われる児童が4人いる」とのことであった。D先生は、普段から心理学にも関心をもち、勉強熱心な先生である。D先生が、これらの児童の対応について、学校臨床心理士の助言を求めてきた。

この状況で学校臨床心理士が取るべき対応に関する記述として、正しいか否かを判断する問題となっています。

問題の解説からはちょっとずれますが、「心理学を勉強している相談者」に対して気後れするカウンセラーも多いのではないかなと思います(この類のクライエントはずいぶん減ってきたような気がします。私の前には現れないだけかもしれないけど)。
この気後れの背景には「自分が占有していたはずの情報を相手が持っている」というのがあるんじゃないのかな、と感じます。
情報って力なんですよね。
それが奪われると途端に人って不安になっちゃうものです。
上記はカウンセラーの話ですが、クライエントは常に圧倒的に情報が少ない立場に置かれがちです。
この点はカウンセラーとして工夫する必要があると思います。

私は、こちらの判断の背景にある「理論」「経験」を全て伝えた上で、クライエントがこちらの判断にどう考えるかを問います。
つまり、私がクライエントに採る対応の背景情報を全て明かした上で、やりとりを行うようにしています。
いわば、カウンセラーとしての「情報のアドバンテージ」を放棄してカウンセリングを行うようにしています。
こういうアプローチってどの程度効果があるのかわかりませんが、まずクライエントと対等な状況に近いこと(近いだけであって対等ではないが、対等に近づこうとすること)、クライエントから見て「何かを隠し持ってる感じ」がなくなること、人格の素の部分を見せることになること、カウンセラーとして何かを準備するのではなく「そこで起こる体験」に沿ってカウンセリングを行おうとすること、などが良い影響をもたらすのではないかな、と思っています。

さて、脱線はこの辺にして解説に入っていきましょう。



A.発達障害の児童が4人もいるのであれば、担任には対応しがたいと判断して、すぐに校長に伝える。

まず本選択肢の論理の道筋について考えてみましょう。
「発達障害児が4人いる教室」=「担任には対応できない」という理路と読み取れるのですが、論理的に説得力のあるものとは思えませんね。
もちろん、発達障害児が多いとそれぞれの特徴が増幅されるような現象はあり得ます。
音叉のイメージで、一方が震えるともう一方も震えるような。

すなわち、発達障害児が多い教室というのは大変であるとは言えるかもしれません。
しかし、その障害の程度やその組み合わせ次第でその大変さはかなり違ってきます。
本問ではそこまで詳細に発達障害の程度が述べられていないこと、そもそも担任Dから見て「発達障害と思われる」というだけであること等から、彼らが発達障害児であるかどうかがそもそも不確定な状況ですね。

「担任には対応しがたい」と判断するためには、発達障害の有無やその障害の程度、児童同士の組み合わせによってどのような力動が生じているのかを精査してからになります。
本問の状況はそれができていませんから、本選択肢の内容が正しいと判断することは難しいでしょう。

他の理屈も考えていきましょう。
本問の状況は担任Dから相談された段階であって、SCがその状況を見て、体感しているわけではありませんね。
この実際には何も見ていない段階で「担任には対応しがたいと判断」することはできないはずです。
そもそも「担任には対応しがたいと判断」する主体はSCでは無いと考えるのが妥当です。
担任に対応が可能かどうかは、原則として管理職らと状況を把握して判断されるべき内容でしょうから、この選択肢自体が物事の順序を間違ったものになっているということです。

以上から、本選択肢は誤りと判断できます。



B.それぞれの児童の様子をD先生からよく聞くとともに、クラスにも赴いて、自らの目で確かめる。

「発達障害と思われる児童が4人いる」という訴えに対して、それを事実として見なすか、担任Dの苦慮感の表出と見なすか、難しいところです(実践では、その両方が混ざり合った形で複雑に展開されるのが自然です)。
いずれにしても、現在クラスがどういう状況なのか、対象児童がクラスでどのような様子を見せているのか、をしっかりと把握することから開始することになるでしょう。

その方法は主に2つ。
目の前の担任Dから細やかに話を聞くことと、実際にクラスに赴いて状況を確認することになるでしょう。
他にも、隣のクラスの先生や学年主任の先生から、客観的な意見を聞くこともあり得ますね。
いずれにせよ、そのようにして状況を把握することが、本事例ではまず優先することになるだろうと思います。
その結果として、担任Dへの支援が中心になることだってあり得るでしょう。
そういう可能性も考慮しつつ動き、得られた情報を踏まえて次なる対応を考えていく…ということの繰り返しですね。

以上より、本選択肢の内容は正しいと言えるでしょう。



C.教師が「発達障害」の診断を下すことの非を指摘する。

この選択肢の正誤判断は問題文を読むことで容易に可能だと思います。
担任Dは「発達障害と思われる児童が4人いる」と述べただけであって「診断」をしたわけではありません。
ちなみにこの過去問が載っている「臨床心理士資格試験問題集2」には、「教師の「診断」を鵜呑みにし…」とされていますが、この解説は誤りです。
担任Dは「発達障害と「思われる」児童」と言っているのですから、これを「診断」と捉えるのはあまりに言葉を聞けていないと私は思います。
これはあくまでも「心理学に興味があって勉強している人」が行なった「予測」「判断」出あって、「診断」と見なすのは過剰反応です。
医師以外は診断すべからず、という臨床心理士教育の原則に基づいた解説なのでしょうけど、それを他職種にまで押し付ける道理はありません。

もしもSCが本選択肢のような対応をしたときには「あぁ、このSCはちゃんと言葉を聞くことができないんだな」「自分の内側にある「診断したい欲求」を必死に抑えている人なのかもー(だから、人がちょっと診断的なことを言うと過剰反応しちゃう)」などと思われてしまいますね。

まずはちゃんと人の言葉を聞くということ、そこから勝手に解釈して話を展開させないこと、目の前の人が語っている文脈を読み取りながらやりとりをすること。
こういうことって簡単なようで意外と難しいみたいですね。
コンプレックスの存在などによって、風通しが良い対話というものは阻害されてしまうのです。

さて、仮に担任Dが「発達障害に違いない」と断定的な言い方をした場合ではどうでしょうか?
この場合であっても、本選択肢のように「非を指摘する」という対応は誤りです。
なぜ担任Dがそこまで思うのか、について細やかに聞いていくことが大切です。

その発達障害だと思う根拠が正当性のあるものであれば、それを本人や保護者にどうやって伝えていくか、彼らに困ったという感覚があるか否か、などを確認しつつ支援につなげていくことになるでしょう。

一方で、担任Dが発達障害と思う根拠が薄弱な場合もあり得ますね。
その場合であっても、もしかしたら担任Dがクラス運営の大変さを形を変えて表現しているということも考えられます。
このときに必要なのは、担任の大変さを汲むことであって、言葉尻を捉えて非難することではありません。
こういう相談をきっかけにして、担任の支援に当たるのもSCの大切な仕事の一つです。
目の前の人の内なるニーズを理解して、適切に支援につなげることが臨床実践では大切ですね。

カウンセリングって「相談の意欲のある人」を対象とするだけでなく、「自分の内にある相談の意欲に気付いていない人」をどう対象としていくかも大切ですからね。
そういう人たちの相談の意欲を高め、問題や課題に早めに手をつけることができるようにすることで、大局的にはややこしい事態を避け、組織やカウンセラー自身の負担を軽減することにもつながるのです。
本当にカウンセリングが上手な人って、問題・課題が「芽」の段階で気づき、派手なことをすることなく対応し、周囲からは「あの人がいると、何がいいのかわからないけど、安定するね」と思われるような人なんです。
そんな人に私はなりたい。

というわけで、本選択肢は誤りと判断できます。



D.D先生の考える「発達障害」はどのようなものなのかを聞く。

この選択肢が正しい理由は上記の選択肢の解説内で述べているだろうと思います。
選択肢Bの「それぞれの児童の様子をD先生からよく聞く」という範疇の行為と言えますね。
選択肢Bが現場での感じ方から聞いていく聞き方だとすれば、本選択肢のアプローチは担任が持っている概念から入っていくというやり方でしょうか。

ただ、正しいのでしょうけど実践での聞き方を考えておく必要があります。
そのまま「先生の考えておられる「発達障害」って何ですか?」というのは止めておいた方が良いんじゃないかな…というのは私の個人的な意見です。
何となく「試されている感」があるような気がして、こういう聞き方は好きじゃないんです。
けど、どうやらこの感じ方には個人差・文化差があるように思います。
少なくとも私は相手に不必要にプレッシャーを与えたくないという思いがあるので、こういう聞き方はしません。

ではどういう聞き方をするのか?
結構簡単で、「どういうところが気になります?教室で見ていて」という感じの聞き方をします。
わざわざ発達障害というワードを出さなくても、担任Dが感じている「気になるポイント」を把握することで自然と「担任が考えている発達障害」が見えてくると思います。
端的な聞き方も良いのですが、同じ学校で働く同僚どうしの会話でもあるので、自然なやりとりをベースとしながら「担任Dが考えている発達障害」を掴んでいく方が良かろうというのが私の考え方です。

いずれにせよ、本選択肢が正しいというのは変わりません。


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2 件のコメント

  1. 読んでるだけでもためになる良いサイトだと思います!

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About Me

小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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