臨床心理士 心理学史:H21-20

2020年02月24日月曜日

日本の心理臨床の発展に大きい業績を残した人物とその内容に関する次の組み合わせの正誤を問う内容になっています。
心理学史の問題は公認心理師でも出題されていますが、本問のような内容は出題されないかもしれないですね。
それでもやはり大切だと思うので、きちんと学んでおきましょう。



A.佐治守夫 ― 日本における論理情動行動療法の実践と普及活動

佐治守夫先生は1924年山形県生まれで、1948年に東京大学を卒業し、1952年に設立されたばかりの国立精神衛生研究所に入所し心理療法の道に入りました。
当時、心理学畑の人間が治療に携わることには強い批判があったが、佐治先生はカール・ロジャーズらの実践と理論を追試しながら、果敢にその道を切り開いていきました。
1960年代、日本の臨床心理学のいわゆる第1期興隆期の活動を中心的に担った一人でした。
「西の河合隼雄、東の佐治守夫」などと言われていましたね。

以来佐治先生は、日本における来談者中心療法のリーダーの一人として活躍するが、しかし決してロジャーズ一辺倒だったわけではありません。
佐治先生の出発点はあくまで面接場面におけるクライエントとの具体的な交流であり、面接を録音しては自ら、また仲間たちと、絶えずその相互作用を厳しく検討していきました。
本当に厳しかったとのこと。

1967年、東京大学助教授、1984年退官。
同じ年、日本精神技術研究所に併設された心理臨床センター長に就任。
1990年、同併設の心理臨床学院長。
自らも心理療法を続けながら、後進の指導・訓練にあたりました。
1996年11月急逝。

佐治先生は当初、ゴールドシュタインの仕事や、ラシュレーのネズミの大脳損傷実験などに強く惹かれていて、大脳の異常という実質的な、目に見える損傷のあり方が人間行動をどのように左右するかという点に関心がありました。
こうしたネズミの研究を重ねる中で、神経症の仕事に関心をもち始めました。
井村恒郎や加藤正明などの先輩の影響があったとされています。
何より、マイヤーの仕事を通じて、ネズミがフラストレーション状態において、脳の実質損傷の場合と同じような、けいれん発作を起こすという事実に興味をもち、マイヤーに倣ってネズミの実験神経症の研究に入りました。
ここまでは症状や問題行動そのものの解明が主な関心であったようです。
このときに一つの大きな示唆があって、人間の臨床への転回点となるが、それは次のような事実でした。

それは、ネズミを幼時からhandlingしていると、そのネズミが、他の個体に比べてフラストレーション耐性が高い、あるいは、たとえ神経症様状態になっても、他の個体が約100回もabortive responseを繰り返して正常な学習に戻れないのに、割合早く神経症様状態から脱却するらしい事実でした。
たまたま当時、精神科病院にてprefrontal lobotomyによるパーソナリティ変化を測定する仕事があったものの、その中で観察している患者の術前・術後の微妙な変化をとらえるのに不十分な感じがしてならなかったようです。
そこで、直接生活を共にしての行動観察、および彼らとの直接の話し合いの中でのinterationの諸様相を資料にしたいと考え、実施しました。
ここで初めて、患者同士でどのようなコミュニケーションをしているのかを知ったとのことです。
こうした体験が佐治先生の臨床は、handlingをうけたネズミの問題以来もち続けてきた疑問を解く方向に動き出したと言えます。

この前後から、佐治はロジャーズのクライエント中心療法の志向に共感を感じつつありました。
その中でも「個人は自己を中心とする現象的世界を生きている」ということを基礎に置いた、ユニークな人間関係の成立を目指すことが、治療者としての出発点であり、しかも究極点であることに共感していました。
彼は1960年代から1970年代に活躍した第1世代の臨床心理学の指導的立場に立ち、ロジャーズ派としてカール・ロジャーズの著書、論文を翻訳、紹介し、日本における来談者中心療法の普及に大きく貢献人物と言えるでしょう。
以上より、選択肢Aは×と判断できますね。



◎日本における論理情動行動療法

論理情動行動療法は、1950年代半ばごろから、アメリカのEllis,A.によって提唱された心理療法の一つで、アメリカを中心に急速に広まり、医療、教育、福祉、産業界などに多大な影響を与えている心理療法です。
日本でも、國分康孝や伊藤順康、澤田慶輔、橋口英俊らによって、エリスの代表的な著書が紹介され、徐々に浸透しつつあります。



B.土居健郎 ― 日本的性格を精神分析視点から解明

土居先生は、1920年東京麻布に歯科医の息子として誕生、1942年東京大学医学部を卒業しました。
「甘え」理論の研究者でもある熊倉によれば、土居の略歴は次のような5期に分けられます。

第1期は、1950年代までの「内科医時代」です。
この頃に、「阿闍世コンプレックス」の提唱者である古澤平作との出会いがありました。
第2期は「精神科医への道」と称される、アメリカメニンガークリニックへの留学や、東大病院精神科助手を含む時代です。
第3期は病院精神科医長としての1957年から1971年であり「甘え理論の形成期」とされます。
また、前半は「自己分析を通して理論形成をする時期」、後半を「スーパーバイザーとしての時代」と言えます。
第4期は「精神医学教育者の時代」、すなわち東大医学部教授の時期です。
それ以降の第5期には、国際基督教大学教授と国立精神衛生研究所所長の歴任を含んでおり、熊倉先生は「思索者として」の時期と位置付けています。

自己分析を通して、人間の心のもつ普遍性と特殊性を探求した土居先生は、その感性をもって、人間の真実に迫り、思索を深め、後輩を指導しました。
そして、臨床家の「甘え」を鋭く訓諭する往年の厳父は、今や包みこむことで隠れた「甘え」を自覚させる慈父の雰囲気も醸し出される、とされています。

土居先生の仕事で最も有名なのは「甘え」理論の構築でしょう。
日本人の日常語による人間認識を欧米の精神分析学に接ぎ木する可能性に思い至り、とくに日本語の「甘え」によって表わされる心理状態が、Balint,M.(バリント)のいうところの一次対象に対する一次愛に相当するという指摘はバリント自身によっても承認されています。
かくして「甘え」を中心とする一群の語彙が対人関係を理解する鍵言葉になり得るという洞察のもと、著書を著しました。
「甘え理論」は『甘えの構造』(1971)によって初めて知的公衆に示され、当時関心が沸騰していた「日本人とは何か」に答えるものとして評価され、今日まで版を重ねています。
以上より、選択肢Bは〇と判断できますね。



C.古澤平作 ― 東洋思想に基づいた阿闍世コンプレックスの提唱

古澤先生は、我が国における臨床的精神分析の基礎を作った精神分析学者です。
1932年~1933年にウィーン精神分析研究所に留学し、フロイトと出会います。
彼はウィーン留学を通して、臨床精神療法としての精神分析、とくに自由連想法の意義をわが国の学会に認識させるとともに、その後20年間、欧米の精神分析の発達を臨床的に追跡し、その基礎経験を系統的にわが国に再生産するという、多難な歩みをただ一人続けました。

古澤が摂取統合した技法としては、ライヒの性格分析、フェレンツィの能動・弛緩療法、アンナ・フロイトの児童分析、クラインの直接観察法、フェダーンの分裂病の精神分析療法、アレキサンダーの修正感情体験および簡便法などがあげられます。
理論面では、日本人患者が、欧米患者に比べ、容易に母・子の依存関係の水準に退行しやすいこと、その基本的葛藤は、母に対するアンビヴァレントにある事実に注目し、アジャセ・コンプレックスの理論を提唱したが、その背景には彼の仏教的な人間観が強く働いていました。
さらに境界例の治療を主題とするとともに、「愛を向けると憎しみがおこる」という分裂的機制、去勢不安と去勢治療の区別に発する自我分裂への注目などをその治療理論と技術の核心においています。

阿闍世コンプレックスについても少し述べていきましょう。
父親との関係における葛藤として取り上げられているエディプス・コンプレックスに対して、母と子の結びつきにおける心の深層に存在する錯綜した感情について、古澤先生によって提起された概念です。
古澤先生はフロイトのもとで精神分析を学んだ唯一の日本人であるが、精神分析を一開業医として日本人に治療実践する中で、その中核的問題として、フロイトが言っている両親との三角関係の中から起きてくる葛藤よりも、むしろ母親との二者関係にその中心的問題があることを見出しています。
その問題について、古澤は特に罪悪感の問題を中心に、アジャセ(阿闍世)王の話を引いて説明しています。

臨床的な事例としては、子どもにとって母親は自分を愛しているから産んでくれたのではなく、母親自身のエゴで産んだのだという事実に気づいたとき、激しく怨み、憎しみの感情が起きると考えられます。
子どもの母親に対するこのような怨みの問題を説明するために、アジャセ王の物語を改編したと思われます。
このような母親への怨みは、母親を愛するがゆえに、その母親のエゴは、自分の出生にかかわる裏切りに等しく思われるところから、未生怨と呼ばれています。

アジャセ王の物語は、エディプスの物語と同様、父親殺しの話でもあります。
しかし、エディプスが自らの目を刺したのに対し、アジャセの場合は、その犯した罪に対して許された形で描かれています。
この違いに注目した古澤は、自分の犯した罪について罰せられるのではと恐れる罪悪感と、犯した罪が許されることによって心からすまなかったと思うところから起きてくる罪悪感との違いを明らかにしています。
そして、後者の考えを取り入れた形で、独自の精神分析治療の在り方を示しています。
それは、来談者に対して、問題の背後にある心的事実を、あくまで直視させる治療的姿勢に対し、悩み苦しんでいる来談者すべて受け入れる「とろかし」の姿勢と言われています。

以上より、選択肢Cは○と判断できますね。



D.片口安史 ― 日本人用に改良したTATによる心理診断法の確立

片口安史先生は1927年金沢に生まれ、1951年東京大学を卒業後、東京少年鑑別所に入職しました。
翌年設立されたばかりの国立精神衛生研究所に移り、本格的にロールシャッハ法に取り組むようになります。
片口は、ある統合失調症者のロールシャッハの反応に衝撃的な驚きを受け、このテストに魅入られるようになります。

1956年には最初の著書である赤い表紙の「心理診断法」を出版したが、これはクロッパー法をわが国で紹介することを目的としたものでした。
1957年には同学の士と、東京ロールシャッハ研究会を創設し、事例検討のほか、A-B-Cシリーズ(濃淡・黒色・輪郭図版)による比較研究、ヘルマン・ロールシャッハの訳出など行いました。
同じ58年に「ロールシャッハ研究」を創刊した功績は大きく、これはその後、ロールシャッハ学会の機関誌となっています。

1960年には、片口先生自身の経験や知識を結実させた「心理診断法詳説」を刊行しています。
61年にはロールシャッハ法に関する論文で文学博士、医学博士を授与されました。
その後、スモンの発症や、それに伴う合併症と闘いながら「新・心理診断法」を著しています。
合併症により目が見えなくなったが、常に新しい知識をもつ努力を怠らなかったそうです。
片口先生の「目」の代わりを務められた奥様が急逝されると、その翌年後を追うようにして亡くなられました(享年68歳)。

片口法の基礎は、クロッパー法にあります。
彼はブルーノ・クロッパーを師と仰ぐが、その後の多くの研究をもとにして独自の方法を確立していきます。
クロッパーとの関わりとしては、河合隼雄先生もありますね(河合先生の博士論文はロールシャッハに関してのもので、京大でロールシャッハの講義をしていた時期もありました)。

片口法とクロッパー法と大きく異なる点は以下の2点です。
1つは形態水準で、クロッパー法の0.5きざみによる15段階尺度は、評定法としては妥当性があるが実際の臨床の場では煩雑と考え、新たに+±マイナスプラス-の4段階にしたことです。
2つ目は、クロッパーが自我統制の解釈仮説を打ち立てたのに対して、片口は既存の理論を組み入れることはしませんでした。
ロールシャッハ自身が、ロールシャッハテストについて「形式性にねらいがある」とし「無意識に迫るものではない」としています。
片口はこの考え方をかたくなに守り、ロールシャッハ図版の把握・処理に際して見られる意識下の防衛を「抑圧投影」、被検者の日常的・常識的行動様式によるものを「同化投影」と分けたものの、自我と防衛などの用語を使わず、結局どのような理論に依拠してもよいという立場をとっていました。
片口法はあくまでも実証的研究の積み上げを主とした解釈法であり、その技法は臨床の場で使いやすいように考慮されています。

以上より、選択肢Dは×と判断できます。



◎日本人用に改良したTATによる心理診断法の確立

「TAT日本版 絵画統覚検査解説」を著した早稲田大学教授・戸川行男は、その序文で以下のように述べています。
「TATの図版に日本版を作るべきか否かについては、学会に異論がないわけではない。しかしHarvard版の図版は、きわめて優れたものであるが、これを本邦の青少年児童に用いた場合、いろいろな点の不便がある。その上、TATでは、Rorschach検査などと異なって、特定の図版を研究者が共通に使用しないと解釈や診断やに困難がおこるということは少ない。我々としては、さらに、家族関係の欲求や圧力やの現れやすい図版がほしかったのであって、こうした事情から、ここに日本版試案1を公刊する次第である。…我々はTATの諸問題について、いまだ一致した結論的見解をえていない。本解説は、戸川が執筆したが、この中の意見がすべて、われわれ共同研究者全員の一致した意見であるわけではなく、最後的意見でもない」
従って、日本人用に改良したTATを作成したのは戸川行男先生であるといえそうです。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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