公認心理師 2019-151

2019年10月27日日曜日

問151は事例の状況からクライエントの状態を見立て、最も優先されるべき対応を選択する問題です。
優先すべき対応を選択する際には、公認心理師の職責の範囲を理解していることも求められています。

問151 50歳の男性A、外回りの医薬品営業職。最近急に同僚が大量退職したことにより、担当する顧客が増え、前月の時間外労働は100時間を超えた。深夜早朝の勤務も多く、睡眠不足で業務にも支障が出始めている。このまま仕事を続けていく自信が持てず、休日もよく眠れなくなってきた。人事部から配布された疲労蓄積度自己診断チェックリストに回答したところ、疲労の蓄積が認められるという判定を受けた。Aは会社の健康管理室を訪れ、公認心理師Bに詳しい事情を話した。
このときのBの対応として、最も優先されるものを1つ選べ。
①HAM-Dを実施する。
②産業医との面接を強く勧める。
③継続的にBに相談に来ることを勧める。
④仕事を休んでゆっくりするよう助言する。

本問のポイントは以下の2点です。
  1. 時間外労働が100時間を超えていること
  2. 現状の健康問題はあくまでも疲労の蓄積というレベルであること
つまり、組織上は大きな問題があると思われるが、事例の男性はそれほど健康問題を示していない、ということです。
この問題では、この状況を重大な問題ありと見なすか、それとも健康問題が軽微なのでまだまだ余裕があるだろうと見なすか、ということが問われています。

こうした見立ての上に、公認心理師としてできることの範囲を理解して対応を選択することが重要になっています。



解答のポイント

事例の状況からクライエントの状態を見立て、公認心理師の権限の範囲を理解しつつ、優先すべき対応を選択できること。



選択肢の解説


②産業医との面接を強く勧める。

先月の残業時間が100時間超えですから、これは明らかに過労死ラインを超えています。
厚生労働省は健康障害リスクが高まる「過労死ライン」を示しています。
1か月あたりの時間外労働時間が…
  • 発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間以内:業務と発症との関連性は弱い
  • 発症前1~6か月間にわたりだいたい45時間を超える:業務と発症との関連性が徐々に強まる
  • 100時間を超える、または2~6か月間にわたりだいたい80時間を超える:業務と発症との関連性は強い
研究データによれば、月に60~80時間残業をすると、脳や心疾患のリスクが2~3倍になるとのことです。

この事例では100時間を超えていますから、睡眠不足は否定的認知の表出もそうした要因と結び付けて考える必要があるだけでなく、この状態で何か健康問題が発生すれば、それは労災認定のための因果関係として使われ、当然労災認定される可能性が高まります
このような状況で男性が示している健康問題がたとえ軽微なものであっても、それがもっとよくない方向で進むと考えて対応するのがクライエントにとっても組織の危機管理にとっても重要です。
ただし、本問はそういった「感覚的」に解くものではなく、明確に定められた「ルール」に従って解いていく問題です(もちろん、上記のような理解の仕方も大切ではあるのですけど)。

産業医による面接には「保健指導」「健康相談」「医師による面接指導」の3種類あります。
最後の「医師による面接指導」は、労働安全衛生法の規定によるもので以下の2種類があります。
  1. 長時間労働者への面接指導:時間外・休日労働時間が1か月あたり100時間以上の者で、疲労の蓄積が認められる者が対象(第66条の8)
  2. 高ストレス者への面接指導:ストレスチェックの結果、高ストレスであり、面接指導が必要であると実施者が判断した者が対象(第66条の10)
本事例は上記の第1項に該当しますね。
この長時間労働者への面接指導は、脳・心臓疾患の発症予防が主な目的であり、長時間労働により疲労の蓄積した労働者に対し、事業者は医師による面接指導を行わなければなりません
面接をする産業医は、労働者に対して指導を行うだけでなく、事業者が就業上の措置を適切に講じることができるよう、医学的な見地から意見を述べることが求められます。
また、働きやすい職場作りを推進するため、面接指導から得られた情報を職場改善につなげるための意見を衛生委員会などで述べることも重要です。
なお、医師による面接指導の内容は事業者や衛生委員会に報告されることになっています(報告書・意見書も5年間保存する:労働安全衛生規則第52条の6第1項)。

このように、事例の状況は事業者が医師による面接指導を行わなければならない状況であることがわかります。
公認心理師はこうしたルールをしっかりと理解し、産業医との面接を勧めることが重要になります。
こうしたルールをしっかりと理解しておくことが、クライエントおよび会社組織を守ることにつながると言えるでしょう。
よって、選択肢②が最も優先させる事項であると判断できます。



①HAM-Dを実施する。

本事例では過労死ラインを超えた残業時間となっており、今のところ重篤な不調を訴えていなくても、現在の不眠や自信の喪失はそういった無理のある仕事状況による不調の始まりと捉え、労働安全衛生法に従い、産業医との面接を勧めることが重要になってきます。
即ち、本選択肢が選択肢②より優先されるためには、HAM-Dを行うことが産業医との面接に先立って行うべきという根拠なりルールが必要になります。

続いて、HAM-Dについて詳しく見ていきましょう。
HAM-Dとは、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Rating Scale:HDRS)が正式名称となります。
検査項目の特徴として、睡眠の評価に重点が置かれており、睡眠状態が改善すれば高評価になりやすいという特徴があります(ちなみにHAM-Dには17項目版と21項目版があります)。
本事例のクライエントは睡眠不足ですから、その分悪く出る可能性はありますね。

HAM-Dは自己評価式の心理検査ではなく、うつ病の症状に特徴的な項目について専門家が項目ごとに評価をしていく心理検査です。
それぞれの項目で最もクライエントに近いと思われる点数をチェックし、合計点からうつ症状の程度を割り出します。
HAM-Dは単に重症度を評価するだけでなく、うつ病からの回復の度合いを知るためにも広く用いられる検査になります。

HAM-Dの総得点から重症度を評価するとき、いくつかの提案があり17項目版においては、「23点以上」は最重症、「19~22点」は重症、「14~18点」は中等症、「8~13点」は軽症うつ病とされ、「7点以下」を正常範囲とします。
また、21項目版では「20点以上」を重度、「11~19点」を中等度、「5~10点」を軽度とする報告もあります。
この総合的な重症度評価における境界点は、必ずしも未だ確立されておらず、同じ21項目版で「25点以上」「17~24点」「16点以下」に分ける考え方もあります。

さて、HAM-Dは抑うつ状態を査定するのに適した検査であると言えますが、選択肢②よりも優先して行う必要があるか否かの判断が必要です。
事例ではすでに、「前月の時間外労働は100時間を超えた」「深夜早朝の勤務も多く、睡眠不足で業務にも支障が出始めている」「このまま仕事を続けていく自信が持てず、休日もよく眠れなくなってきた」「人事部から配布された疲労蓄積度自己診断チェックリストに回答したところ、疲労の蓄積が認められるという判定を受けた」などの状況やそれに伴う不調の判定がなされております。
人事部が行ったのが「疲労蓄積度自己診断チェックリスト」ですから、HAM-Dという「専門家が評価するスケール」で査定することも重要と言えなくもありませんが、労働安全衛生法の規則よりも優先してHAM-Dを実施することの合理性はないと言えるでしょう。

以上より、選択肢①は最も優先される対応とは言えないと判断できます。



③継続的にBに相談に来ることを勧める。

選択肢②でも述べたとおり、クライエントAの状況は産業医との面接を「行わなければならない」状況であると言えます。
また、そういった規則がなくても、症状が軽いから「まだ大丈夫」と軽視してしまうことで気がついたら手遅れということもあり、支援者としては危機感をもって対応することが大切です

この状況で「継続的にBに相談に来ることを勧める」という対応は、労働安全衛生法の規則を理解していないことに加え、Aの置かれた状況を軽く見た対応と言え、見立ての甘さや組織の一員としての危機管理の杜撰さが認められる対応と言えるでしょう。

以上より、選択肢③は最も優先される対応とは言えないと判断できます。

正誤判断とは関係ありませんが、この選択肢の表現に違和感を覚えます(言いたいことはわかるのですが)。
「継続的にBのもとに相談に来るようAに勧める」が良い気がします。
もちろん現選択肢の表現でも、文脈として「Bのもとに相談に来ることを勧める」と脳内で読み替えることも可能でしょうけど、それならば「継続的にBのもとに相談に来るようAに勧める」と明確に理解できるような表現にした方が良いような気がします。



④仕事を休んでゆっくりするよう助言する。

他選択肢で述べたとおり、労働安全衛生法第66条の8には以下のように規定があります。
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない

上記の「厚生労働省令で定める要件に該当する労働者」については、労働安全衛生規則第52条の7の2に以下の通り定められております。
「法第六十六条の八の二第一項の厚生労働省令で定める時間は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、一月当たり百時間とする

つまりは、クライエントの現状は、事業者が医師との面接を受けるよう義務付けられた状況であり、公認心理師はそれを勧めることが重要になります。
そして、本選択肢にある「仕事を休んでゆっくりするよう助言する」という対応は、面接指導を行った産業医が行うべきものであり、公認心理師の立場で行って良いことではありません。
即ち、この対応は公認心理師の職権を超えた助言となり、不適切であると言えます

なお、産業医はできる限り面接当日に意見具申すべきですが、法律では1か月以内に意見具申することになっていますね(法規上は事業所が医師に意見聴取することになっている)。
そして、翌月の衛生委員会で、面接指導の対象者数や事後措置を行った者について報告し、検討を行っていくことになります。

以上より、選択肢④は最も優先される対応とは言えないと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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