公認心理師 2019-85

2019年09月13日金曜日

問85はSelmanの役割取得の発達段階に関するものです。
あまり聞いたことがない人も多かったのではないでしょうか。

問85 R.L.Selmanによる役割取得(社会的視点取得)の発達段階のうち、自他の視点の両方を考慮する第三者的視点をとれるようになる段階として、正しいものを1つ選べ。
①相互役割取得の段階
②主観的役割取得の段階
③自己中心的役割取得の段階
④自己内省的役割取得の段階
⑤象徴的相互交渉の役割取得の段階

役割取得理論としては、Katz&Kahnのものが知られています。
彼らはパーソナリティを「個人の生涯を通じて修正される、社会的相互作用の所産」と捉え、組織体の諸要因と対人関係の諸要因、パーソナリティの諸要因を統合することを企図した役割取得モデルを提唱しています。

本問のSelmanの役割取得は、それとはまた違った視点の理論になっており、道徳心の発達段階を示したものになっております。
道徳心といえば、ピアジェやコールバーグですが、そういったオーソドックスなものはさておき、という感じの問題でしたね。



解答のポイント

Selmanの役割取得の発達段階を把握している。



Selmanの役割取得

ここではSelmanの役割取得能力に関して概説していきます。
ここでの説明はこちらの論文をまとめる形で示します(ただし、こちらの論文では役割取得能力発達段階評定の基準をSelmanのそれとは異なる形でアレンジして表記してあるので、その辺だけはSelmanの理論に合わせました)。

道徳性発達理論の立場から、Selmanは役割取得能力(社会的視点取得能力)について、「他者の立場に立って心情を推し量り自分の考えや気持ちと同等に、他者の考えや気持ち
を受け入れ調整し、対人交渉に生かす能力」と定義しています。
その測定法としては、ジレンマ課題(木の上の猫)が有名です。

この課題は、ジレンマを含む社会的な対人葛藤場面の物語を子どもに提示し、物語の主人公の立場から見た事態の理解に関する質問、および他の登場人物の感情や考えなどを推論する質問を面接法で行うというものです。
面接者は子どもがそれらについてどの程度推論できているのかについて、質問に対する子どもの回答を検討することで、役割取得能力の発達段階を5段階で評定を行います。
代表的なジレンマ課題としては「木の上の猫」があります。
荒木によって翻訳され、日本においてそれに準拠する物語課題である「木のぼり課題」の妥当性および評定基準が確立されています。

検査として発売もされており、その中では役割取得について以下のように説明があります。
  • 相手の身になって考え、相手の気持ちや立場を正しく捉えながら、行動できることは子どもの社会でもきわめて大切なことです。小説や芝居の主人公の生き方や心情に共感できたり、相手の心の中に思いやりを感じることができるのは、他者の心の状態をよく知ればこそです。
  • このように、相手の立場に立って、心情を推し量り、それらを対人交渉に生かす能力のことを役割取得能力と言います。役割取得能力は発達します。道徳や国語、社会の授業では登場人物の心情を共感的に理解できている程度が学習の内容と深く関わってきます。ですから、役割取得能力の個人差を授業に生かしたり、役割取得能力を育てていくことが大切になります。
これを検証する「木の上の猫」課題は以下のようなものです。

じゅんこさんは、木のぼりが上手な女の子です。今日もじゅんこさんは木にのぼってあそんでいます。ところが、木からおりようとしたとき、うっかり足をすべらせて落ちてしまいました。運よく途中のえだにひっかかったので、けがはありませんでした。じゅんこさんが木から落ちるのを見ていたお父さんが、びっくりしてじゅんこさんをきつくしかりました。そして、「もう、木にのぼってはいけないよ。わかったかい。」とじゅんこさんに言いました。じゅんこさんは、「もうこれから木にのぼらないわ。」と、お父さんと約束しました。数日後のことです。となりのたろう君がかわいがっているこねこが、木に登っておりられなくなっています。たろう君はまだ小さくて木のぼりができません。たろう君は、「おねえちゃん、おねがい、こねこをおろしてやって。」とじゅんこさんにたのみました。ちかくにはだれもいません。こねこをおろしてやれるのは、木のぼり上手なじゅんこさんだけです。はやくしないと、こねこはおちてしまうかもしれません。じゅんこさんは、お父さんとの約束を思い出してこまってしまいました。

〈質問〉
  1. じゅんこさんはなぜ困っているのですか?
  2. じゅんこさんはどうするかな?木に登るのだろうか?登らないだろうか?なぜ、登る (登らない) と思うの?
  3. 実はね、じゅんこさんは木に登って行きました。もし、お父さんがそれを見つけたらどんな気持ちになると思いますか?なぜ、そう思うの?
  4. じゅんこさんは木に登る時お父さんのことを考えました。じゅんこさんは木に登っているところをお父さんが見たら、お父さんは自分のことをどう思うと考えていますか?
  5. 木に登る前に、じゅんこさんとお父さんでどうすればよいか話し合っていたら、どうなっていたと思いますか。じゅんこさんの気持ちとお父さんの気持ちの両方を考えて書いて下さい。
そして、Selmanが提起した発達段階は以下の通りです。

【段階0:自己中心的な役割取得 (4~6歳)】
他人の表面的な感情の理解や表情は理解するが、自分の感情と混同することが多い。
同じ状況にいても、他の人と自分では違った見方をすることに気づかない。

ここでは、自分と他人という区別がまだ未分化(僕が欲しいものを、彼にもあげよう、みたいな)。
実在としての自己と他者の区別はできるが、視点間の区別はできない。
視点間の区別ができないので、視点間の関連付けもできない。 

【段階1:主観的役割取得(5~9歳)】
泣く、笑うなどはっきりした手がかりがあると、相手の気持ちを判断することができる。
しかし、相手の心の奥にある本当の気持ちまでは考えが及ばない。

ここでは、自分の視点と他者の視点を区別できる。
ただし、表面的な行動から感情を予測しがち(泣いているから悲しい、笑っているから嬉しい、など)。
人はそれぞれ感じ方が違う、立場がちがう、考え方が違うということに気づいている。
しかし、権威者かもしくは自分の考えが正しいという一つの視点しかとれず、視点間の相互関係には気づかない。

【段階2:自己内省的役割取得(7~12歳)】
与えられた情報や状況が違うと、それぞれ違った感情を人は持ったり、異なった考え方をもつことが理解できる。

他人の視点から自分の思考や行動について考えることができる(笑っているけど、この状況だと自分は悲しいから、きっと悲しいんだろうなぁ)。
人は独自の価値観をもっているので、考え方や感じ方が違うということに気付いている。そのため、 絶対的に正しいという唯一の視点の存在はありえないという、相対的な信念をもち始める。

【段階3:相互的役割取得(10~15歳)】
第三者の視点をとることができる
自分を客観的に見ることができる。
自己と他者の両方が、同時に相互の視点を予想することができるということに気付く。
さらに、人はそれぞれ第三者の視点から状況をとらえ、他者の立場に立ち、自分が反応(行動)する前に、まず自分を内省することを理解する。 
また第三者の視点から、個々人の視点を想定して、それらの視点間の関係性を考えることができ、複数の視点を同時に調整することができることに気づいている。

【段階4:慣習的および象徴的役割取得(12歳~大人)】
自分がいろいろな社会的カテゴリーに属していることが分かる。
視点取得は、二者の関係性のレベルから、集団もしくは社会の視点を含む一般的な社会システムのレベルへと高まり、各個人が他者を理解したり、他者と正確な意志の疎通を促進するために、一般的他者(社会システム)の視点を共有していることを理解している。
そして、二者間の関係性より、集団の視点を優先するようになる。



選択肢の解説


①相互役割取得の段階

上記の通り、問題文にある「自他の視点の両方を考慮する第三者的視点をとれるようになる」というのは、本選択肢の相互役割取得段階であると見なすことができます。
よって、選択肢①が正しいと判断できます。



②主観的役割取得の段階
③自己中心的役割取得の段階
④自己内省的役割取得の段階
⑤象徴的相互交渉の役割取得の段階

上記の通り、これらは「自他の視点の両方を考慮する第三者的視点をとれるようになる段階」とは異なることがわかります。
よって、選択肢②~選択肢⑤は誤りと判断できます。

Share /

0 件のコメント

コメントを投稿

About Me

小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

Followers

CONTACT

名前

メール *

メッセージ *

© 公認心理師・臨床心理士の勉強会
designed by templatesZoo