公認心理師 2019-77

2019年09月08日日曜日

問77は心的外傷的出来事のあとに生じた女児の反応を見立てる問題です。
やや味気ない言い方ですが、事例の文章から「これはこの障害の診断基準に該当する」「これはあの概念のことを指しているな」ということが大切ですね。
少なくとも「典型例を知っている」ということが重要です。

問77 12歳の女児A。祖父Bと散歩中に自動車にはねられた。Bは全身を打撲し、救命救急センターの集中治療室で治療を受けているが、意識障害が持続している。Aは下肢骨折により整形外科病棟に入院した。入院後、Aは夜間あまり眠れず、夜驚がある。日中は、ぼんやりとした状態がみられたり、急に苛立ち、理由もなくかんしゃくを起こしたりする。両親が自宅から持ってきたAの好きなぬいぐるみを叩いたり、壁に打ち付けたりする。
 Aの行動の説明として、適切なものを2つ選べ。
①素行障害
②解離性障害
③反応性アタッチメント障害
④トラウマティック・ボンディング
⑤ポストトラウマティック・プレイ

事例の事態はPTSDを生じさせるものであるということは理解できると思います。
事実、それらしい反応も見受けられますが、いくつかは別の障害だったり、別の概念として提出されているものもあり、それをしっかりと認識できるかが問われていますね。

正答になるものは、いずれもPTSDと関連させて覚えておいてよい反応であり、心的外傷状況ではよく生じる反応とも言えますね。



解答のポイント

PTSDと関連して生じやすい、子どもの心的外傷反応について理解している。



選択肢の解説


①素行障害

DSM-5の素行障害の診断基準を挙げておきましょう。

A. 他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12ヵ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヵ月の間に存在したことによって明らかとなる。
【人および動物に対する攻撃性】
  1. しばしば他人をいじめ、脅迫し、威嚇する。
  2. しばしば取っ組み合いのけんかを始める。
  3. 他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある(例:バット、煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)。
  4. 人に対して身体的に残酷であった。
  5. 動物に対して身体的に残酷であった。
  6. 被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、凶器を使っての強盗)。
  7. 性行為を強いたことがある。
【所有物の破壊】
  1. 重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。
  2. 故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)。
【虚偽性や窃盗】
  1. 他人の住居、建造物、または車に侵入したことがある。
  2. 物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(例:他人をだます)。
  3. 被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)
【重大な規則違反】
  1. 親の禁止にもかかわらず、しばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。
  2. 親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。
  3. しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる。
B. その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。
C. その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。

上記が素行障害の診断基準になります。
事例には上記のような基準を満たすような言動は見られないことがわかります
恐らくは「急に苛立ち、理由もなくかんしゃくを起こしたりする」などを指してだろうとは思いますが、こちらはPTSDの覚醒度と反応性の著しい変化と見なすのが自然ですね

よって、選択肢①は不適切と判断できます。



②解離性障害

解離性障害は、記憶、意識、人格の連続性に障害が生じ、記憶や意識の欠損、人格の交代などの症状を呈する疾患です。
解離性健忘、解離性同一性障害、他の特定される解離性障害などがあり、DSM-5ではそれに加えて離人感・現実感消失性障害が含まれます。

解離自体は防衛機制の一つであり、「外傷的な出来事に対して、それを他人事として体験することで乗り切ろう」とする生体の工夫です。
解離は生体を守ろうとする機能の一つではありますが、それが頻繁に発動することによって、生まれてから今の自分までの一貫した繋がりが失われ、自己の基盤が不安定になるという問題があります。

事例のようなトラウマティックな出来事により、子どもは様々な症状を示します。
再体験症状(ポストトラウマティックプレイ)、回避・麻痺、過覚醒、解離などが代表的な症状と言えます。

トラウマとなる出来事の際に、子どもは自分を守るためにその感覚や記憶、認知などを「切り離し(解離)」、それが自分に起こったことではないかのように位置づけます
その場合、以下のような状態が見られることがあります。
  • 重要な出来事を覚えていなかったり、思い出せない。
  • ぼんやりして、夢をみているかのように長時間過ごす。
  • 気分、性格、口調などが日により時間により大きく変化する。
  • 赤ちゃんのように振る舞う。
  • 自傷行為があるが覚えていない。
  • 誰か、空想の友達と話しているなどの独り言が見られる。
これらの一部は事例でも見られますね。

その他の「入院後、Aは夜間あまり眠れず、夜驚がある」ということについては、夜驚症というよりもPTSDの「過剰な驚愕反応」と見なすのが自然ですね。

以上より、選択肢②は適切と判断できます。



③反応性アタッチメント障害

DSM-5の反応性アタッチメント障害の診断基準は以下の通りです。

A. 以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:
  1. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
  2. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。
B. 以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害
  1. 他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
  2. 制限された陽性の感情
  3. 大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。
C. その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。
  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)
D. 基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。
E. 自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。
F. その障害は5歳以前に明らかである
G. その子どもは少なくとも9カ月の発達年齢である。

上記が反応性アタッチメント障害の診断基準になります。
まずは年齢の基準から反応性アタッチメント障害の可能性は除外されますね。

なお、反応性アタッチメント障害は、慢性反復性トラウマの反応として生じることが明らかにされています。
ですが、本事例では「慢性反復性」の外傷的体験ではないことが明らかですね

また、「好きなぬいぐるみ」への行動は、例えば「移行対象」という愛着の代理物への攻撃と見なすのではなく、心的外傷による行動と見なすのが自然な状況と言えますね

よって、選択肢③は不適切と判断できます。



④トラウマティック・ボンディング

「トラウマが起きている関係性の中で構築されるつながり」を意味する概念です。
トラウマのある関係の中で発生してしまう「相手と離れたくない」と感じてしまう特殊な心理状態を指しています
ストックホルム症候群の説明として示されてもいますね。

DV関係のような暴力などのトラウマティックな状況に置かれ続けることで、加害者を慕うような感情が出てくることが指摘されています
これに関しては様々な方向性から説明がなされていますが、私が考える理路を述べておきましょう。

人間は生理的早産で生まれてきます。
これは人間が食物連鎖の頂点に立っているということを意味しますが、それ故に「別種からの侵襲を防ぐこと」よりも「同種に気に入られること」が重要となります。
同種に気に入られなければ、文字通り生きていくことができませんから、同種から見捨てられることが強い恐怖を生じさせることは当然のことと言えます。

たとえば、児童虐待があっても子どもがなかなかその事実を口にしないのは、加害者から見捨てられることで、文字通り生きていくことが難しくなってしまうという恐怖心があるためだと捉えることができます。
客観的にはその場に居る方が命が危なくても、当人の主観ではその場から離れることが死を招くと本能的に感じているわけです。
虐待は親子で生じるということもあり、目の前の加害者に縋り付く・同調する、という状態が強く生じると考えられます。

ただし、もちろん、成長してくれば目の前の人に縋り付かなくても生きていけることを「知的には」理解できますし、事実加害者から離れることも可能でしょう。
しかし、ストックホルム症候群を生じさせるなどの「目の前の人が自分の生き死にを自由にできる」という状況に長時間曝されることは、こうした「目の前の人から見捨てられることで生きていけない」という根源的な恐怖を喚起されます。
目の前の同種(加害者)から見捨てられないように、加害者に好意を持ち、協力したり、守るように振る舞うなどの言動が見られるようになります。

メディアにおいては、被害者が犯人と心理的なつながりを築くことについて「好意をもつ心理状態」と解釈して表現しているものが多いですが、個人的にはそれだけで説明可能だとは思っていません。
もちろん、そういう面もあるのでしょうけど、少なくとも虐待状況で生じるような親への同調などは、それだけで説明できるものとは思えないのです。
そういったわかりやすい生存戦略ではなく、もっと本能的な何か、という印象があります(あくまでも印象にすぎませんけどね)。

さて、長くなりましたが、DVや虐待、その他の極限状況においてトラウマティック・ボンディングは生じることがあるとされています。
事例の状況は、トラウマティック・ボンディングを生じさせるような状況ではなく、PTSDやその近縁の問題が生じることが予想される事態と言えますね
よって、選択肢④は不適切と判断できます。



⑤ポストトラウマティック・プレイ

例えば「震災後、子どもたちが地震ごっこをする」「交通事故に遭った子どもがミニカーで衝突の遊びを繰り返す」「加害者に蹴られた子どもが人形を蹴る」「性虐待にあった子どもが人形の股を棒でつつく」などの行動がポストトラウマティック・プレイと言われます。
トラウマを受けた後、遊びに現われるこのような特有の再演行動をポストトラウマティック・プレイと呼びます

このときの子どもをよく観察すると、顔がこわばり、緊張し、決して楽しそうではないことがわかります。
これはプレイとはいっても、感情を解放しカタルシスをもたらす真の遊び(play)ではなく、加工されていない生々しいトラウマとなった記憶の再現(replay)です。

テアはポストトラウマティックの特徴を以下のように示しています。
  1. 反復強迫性
  2. 関連性が意識されていないこと
  3. 単純な防衛機制:攻撃者への同一化、転移、取消、ファンタジーによる否認
  4. 不安の低減がない
子どもはこれらの遊びを繰り返すが、遊んでも遊んでも緊張は緩和せず苦痛が続きます。
時には周囲の子どもを巻き込み、伝染病のように周囲に伝わることもあります。
このポストトラウマティック・プレイには能動的に介入し、「安全な場で再現をコントロールする」ことによって感情を解放できるように導く、ポストトラウマティック・プレイセラピーが重要とされています。

事例の「両親が自宅から持ってきたAの好きなぬいぐるみを叩いたり、壁に打ち付けたりする」という行動は、事故等の前後関係からポストトラウマティック・プレイと見なして矛盾はないと考えられます

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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