公認心理師 2019-71

2019年09月06日金曜日

問71は高齢期に生じやすい心理的反応や、出来事への反応を問う内容になっています。
事例の記述から、各概念が連想されることが重要ですね。

問71 79歳の男性A。3人の子どもが独立した後、Aは妻と二人暮らしだったが、1年前にその妻に先立たれた。妻の死後しばらくは、なぜ丈夫だった妻が自分よりも早く死んだのかという思いが強く、怒りのような感情を覚えることが多かったが、最近はむしろ抑うつ感情が目立つようになってきている。近くに住む娘に、20歳から30歳代だった頃の話を突然し始めたり、その一方で「自分のこれまでの人生は無駄だった、もう生きていてもしょうがない」というような発言が増えてきたりしている。また、本人は自覚していないが、既にやり終えたことを忘れてしまうことも少しずつ生じてきている。
 Aの心理状態の説明として、不適切なものを1つ選べ。
①絶望
②認知機能の低下
③レミニセンスバンプ
④補償を伴う選択的最適化
⑤妻の死の受容過程の初期段階

実は上記の事例情報の記述は、各選択肢の状態を示しているものになっております。
読んでいて、そのことに気づくことが大切です。



解答のポイント

高齢期に生じやすい現象や出会いやすい事態にまつわる心理的反応を理解していること。



選択肢の解説


①絶望

この「絶望」を一般的な意味で捉えてはいけません。
絶望は、エリクソンの発達段階における老年期の課題となっています

エリクソンによれば、一生は「乳児期」「幼児期」「児童期」「学童期」「青年期」「成人期」「壮年期」「高齢期」という8つの段階に分類されます。
時期(大まかな年齢)、心理・社会的危機、危機を通して獲得されるものは以下の通りです。
  1. 乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):基本的信頼感 vs 不信感;希望
  2. 幼児前期(単に幼児期とも)(1歳6ヶ月頃~4歳):自律性 vs 恥・疑惑;意思
  3. 幼児後期(遊戯期とも)(4歳~6歳):積極性(自発性) vs 罪悪感;目的
  4. 児童期・学齢期・学童期(6歳~12歳):勤勉性vs劣等感;有能感
  5. 青年期(12歳~22歳):同一性(アイデンティティ) vs 同一性の拡散;忠誠性
  6. 成人期前期(前成人期)(就職して結婚するまでの時期):親密性 vs 孤立;愛
  7. 成人期後期(成人期)(子供を産み育てる時期):世代性 vs 停滞性;世話
  8. 老年期(子育てを終え、退職する時期~、一般的には65歳以上とされている):自己統合(統合性) vs 絶望;英知
エリクソンは上記の通り、各段階で達成されなければならない発達課題を定め、これを心理・社会的危機と呼ぶ葛藤を示しました。
各段階ごとに「肯定的側面 対 否定的側面」と対になって設定されています。
エリクソンは、それぞれの発達段階には成長や健康に向かうプラスの力(発達課題:肯定的側面)と、衰退や病理に向かうネガティブな力(危機:否定的側面)がせめぎ合っており、その両方の関係性が人の発達に大きく影響すると仮定しています
こうしたせめぎ合いの末、さまざまなものが獲得されるとしています。

老年期には、これまで歩んできた人生の振り返りの時期でもあり、人生を自らの納得に基づいて歩んでくることができたか否かを見つめ直す時期でもあります。
ここでの統合とは「秩序を求め意味を探す自我の性向に対する、自我の中に蓄積された確信」であり、それまでの人生を唯一の人生として、またそうあらねばならなかったものとして受け容れることを指します。
これによって、来るべき「死」を恐れることなく受けいれることができるようになります。

しかし、ただ1つの人生周期を人生の究極のものとして受け容れることができないが、既にやり直す時間はない、という感情が強くなるとその焦りが絶望となって表現され、死の恐怖に襲われることになります
事例の「「自分のこれまでの人生は無駄だった、もう生きていてもしょうがない」というような発言が増えてきたりしている」という記述は、Aがこれまでの人生を振り返っての満足感・納得感の薄さからくる「絶望」であると見なすことができます。

よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することが求められます。



②認知機能の低下

認知とは、理解、判断、論理などの知的機能のことを言い、五感(視る、聴く、触る、嗅ぐ、味わう)を通じて外部から入ってきた情報から…
  • 物事や自分の置かれている状況を認識する
  • 言葉を自由に操る
  • 計算する、学習する
  • 何かを記憶する
  • 問題解決のために深く考える
…などといった、人の知的機能を総称した概念です。
心理学的には知覚以外にも判断や想像・記憶・言語理解などを含んだすべてを包括して「認知」と呼びます。

認知機能の低下とは、理解力や判断力、記憶力や言語理解能力など、認知機能に係る能力が低下している状態のことを指します
認知機能が低下することで日常生活に様々な影響を及ぼしますが、この認知機能の低下が特に著しく、日常生活に影響を及ぼしている状態が6か月以上継続している状態を「認知症」と呼びます。
事例内の「本人は自覚していないが、既にやり終えたことを忘れてしまうことも少しずつ生じてきている」という点は、認知機能の低下と見なすのに矛盾はありません

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することが求められます。



③レミニセンスバンプ

Rubinらは、単語手がかり法を用いた自伝的記憶研究の中から、高齢対象者の結果を取り上げて示しています。
ライフスパンを通して思い出される自伝的記憶の頻度は、最近のものを除いては10~30代の出来事が多く想起される傾向にあり、レミニセンス・バンプと呼ばれています

これは、この時期の出来事がアイデンティティの確立と密接に結びついているためと指摘されています。
高齢期から振り返ってみても、この時期の体験は、現在の自己を説明する重要な要素と認識されていると言えます。

事例の「近くに住む娘に、20歳から30歳代だった頃の話を突然し始めたり」という記述は、レミニセンスバンプによって生じていると見なすことに不自然さはありません
よって、選択肢③は適切と判断でき、除外することが求められます。



④補償を伴う選択的最適化

補償を伴う選択的最適化理論はSOC理論と呼ばれ、Baltesが提唱した高齢期の自己制御方略に関する理論です。

この理論では、加齢に伴う喪失に対する適応的発達のあり方として、獲得を最大化し、喪失を最小化するために自己の資源を最適化すると主張されています。
すなわち、若い頃よりも狭い領域を探索し、特定の目標に絞る(選択)機能低下を補う手段や方法を獲得して喪失を補う(補償)、そして、その狭い領域や特定の目標に最適な方略を取り、適応の機会を増やす(最適化)とされています。

具体的には以下の通りです。
  • 喪失に基づく目標の選択(Loss-based Selection):
    若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに、若い頃よりも目標を下げる行為を指す。
    例:ボーリングで120取れていたけど、80を目標にしよう!
  • 資源の最適化(Optimization):
    選んだ目標に対して、自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。
    例:週に3回はボーリングに行っていたけど、週に1回に減らそう。
  • 補償(Compensation):
    他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。
    例:自分でボーリングに行っていたけど、息子に送ってもらおう。
上記の頭文字(?)を取って「SOC理論」とされています。

事例Aの言動には、こうした若い頃よりも狭い領域を探索し、特定の目標に絞る(選択)、機能低下を補う手段や方法を獲得して喪失を補う(補償)、そして、その狭い領域や特定の目標に最適な方略を取り、適応の機会を増やす(最適化)などは見られません
よって、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することが求められます。



⑤妻の死の受容過程の初期段階

愛する家族や親しい友を亡くした後に体験する複雑な情緒的状態を「グリーフ(悲嘆)」と呼びます
悲嘆反応は、愛する人を亡くした場合に生じる正常なストレス反応であり、それ自体は病的なものではありません。
そして悲嘆反応は時間的経過に伴って通常の生活に戻る道筋を辿るのが一般的です。

悲嘆の時間軸の区分は便宜的なものであり、現実的にはどのくらい経ったら慢性期であるとか、ここからが再適応期であるなどははっきりと分けることはできません。
ここでは大まかに「急性期」「慢性期」「再適応・再構築期」と分けて、一般的に生じやすい悲嘆反応を挙げていきます。

まずは死別直後の「急性期」です。
主な反応は以下の通りです。
  1. ショックと否認:
    心理的に麻痺し、無感覚になる。この状態はしばしば「気丈に」対応していると周囲から評価される。持続時間は数時間から数週間までまちまちである。
  2. 悲嘆の苦痛の発作:
    ショックと否認の段階が過ぎ、死別を現実として受け容れたときに生じる激しい感情の波を指す。
これらは数週間から数カ月続くとされています。

続いて死別後数か月からの「慢性期」です。
こちらは心理的・身体的・社会的と反応を分けることができます。
  1. 心理的反応-抑うつ感、悲哀感
    きっかけの有無にかかわらず悲しみの波に襲われる。無感動になり、喜びを感じない。物事に興味を持てない
  2. 心理的反応-死者への探索行動・追慕・切望:
    死者のイメージへのとらわれ。死者が未だ生きているかのように感じ、行動する。死者のことが頭から離れない。
  3. 心理的反応-罪悪感・罪責感:
    サイバーズギルトと、自分が死に責任があると感じることによる罪責感とがある。とくに子どもを亡くした親には頻繁に生じる。
  4. 心理的反応-怒り
    事件や事故に巻き込まれた被害者遺族には特に生じやすい。生きている家族、友人や知人、医者や援助者、被害者遺族では加害者、警察官、司法関係者、さらには死者自身に向けられる。死に対する反応の相違から怒りが家族に向けられる場合、遺族同士が傷つけあう結果になる。怒りの感情は非常に激しく、周囲の理解を得にくいため、遺族の孤立を招く。
  5. 身体的反応-睡眠障害、夢:
    遺族の睡眠障害は、眠りにつく前の空白の時間に生じる死者や市に関するイメージへの恐れのために生じることがある。「眠れない」「眠りが浅い」「夜中に目が覚める」などさまざまなタイプの問題が見られる。夢の内容は、死そのものや死者の苦しみに関することも多く、遺族に苦しみをもたらす。
  6. 身体的反応-その他:
    喉が締め付けられる感じ、息切れを伴う窒息感などの呼吸器反応。
    動機や不整脈などの循環器反応。
    腹痛や胃もたれ、食欲不振、吐気、嘔吐、下痢・便秘などの消化器反応。
    頭痛、四肢の脱力感、虚脱感など。
  7. 社会的な反応:
    社会からのひきこもり。死別直後のひきこもりは、刺激をもたらす社会からの一時的な逃避となり、傷つきを癒す役割を果たすこともある。しかし、長期にわたるひきこもりが続くと、回復の過程に問題を来たすことも。
これらは死別後数か月より持続期間には個人差があるとされています。

最後の「再適応・再構築期」では、死者が重要な役割を果たしていた死別前の世界観が過去のものとなり、死者のいない世界に適応して生活することができます。
新しい考え方、興味の対象が生じるなどが起こります。
現状を受け容れて未来の計画を立てることが可能になってくるとされています。

事例の「妻の死後しばらくは、なぜ丈夫だった妻が自分よりも早く死んだのかという思いが強く、怒りのような感情を覚えることが多かったが、最近はむしろ抑うつ感情が目立つようになってきている」という記述は、上記の慢性期の内容と合致していると思われます

なお、キューブラーロスはがん患者の心の動きに目を向けて、否認→怒り→取引→抑うつ→受容という流れを示しています。
こちらはあくまでも「がん患者自身のこころの動き」ですが、「人が受け容れたくないことを受け容れていく流れ」はこれと類似の推移を見せることが多いです
そのことを思いあわせても、本事例の流れは「妻の死」という受け容れ難いことを受け容れる途中にいるのだと見なすことも可能ですね。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することが求められます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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