公認心理師 2019-76

2019年08月28日水曜日

問76は糖尿病内科に受診したものの、治療に前向きでない事例への対応について問われています。
こちらは私は午前問題で一番迷った問題でした。
とりあえずまとめたので、解説を述べていこうと思います。

問76 58歳の女性A。1年前に会社の健康診断で軽度の肥満と高血糖を指摘されたが、そのままにしていた。最近、家族に促されて、総合病院の糖尿病内科を受診したが、自ら治療に取り組んでいくことに前向きになれない様子であった。そのため、多職種からなる治療チームで対応を検討することになり、そのメンバーである公認心理師にAに対する心理的支援が依頼された。
 Aに対する心理的支援を様々な職種と連携しながら進める上で、適切なものを2つ選べ。
①心理面接でAから得た情報は、他職種から得た情報よりも常に重要である。
②治療初期の心理的支援の主な目的は、服薬アドヒアランスを高めることである。
③生物心理社会モデルに基づき、Aの心理面だけでなく身体面や社会面も理解する。
④Aのセルフモニタリングから得られた情報を他職種と共有しながら、食事や運動の行動変容を進める。
⑤医師、看護師、管理栄養士など多くの職種の専門性を活かすために他職種の行っていることに意見しないようにする。

まず糖尿病とは、インスリン作用不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群のことです。
インスリン作用不足によって、主として糖質代謝異常が起こり、脂質・タンパク質代謝が障害されます。
糖尿病はその成因により、1型糖尿病と2型糖尿病に大きく分けることができます。

1型糖尿病は、インスリンを分泌・合成する膵β細胞の破壊によってインスリンの量が絶対的に不足して起こります。
患者は少数ですが、10代の若い世代に多く見られるタイプの糖尿病です。

2型糖尿病は、日本人の糖尿病の90%以上を占め、インスリン分泌の低下またはインスリン作用の低下(これをインスリン抵抗性と言います)により発症します。
こちらでは糖尿病の家族歴を認めることが多く、遺伝素因に加齢、過食、肥満などの環境因子が加わって発症するとされています。
中高年に多く見られますが、近年は若年化が進んでいます。

事例Aは2型糖尿病と推測することができますね。
他にも糖尿病の診断基準もありますが、本事例ではそれに該当するようなデータの記載がありません。
ただし、軽度の肥満、高血糖、総合病院の糖尿病内科を受診などの情報があるので、糖尿病もしくはその危険が高い状態であると見なして、以下の解説に進んでいきましょう。



解答のポイント

糖尿病治療の基本的な流れを把握している。
糖尿病治療が中断しないための対策を把握している。



選択肢の解説


①心理面接でAから得た情報は、他職種から得た情報よりも常に重要である。
③生物心理社会モデルに基づき、Aの心理面だけでなく身体面や社会面も理解する。
⑤医師、看護師、管理栄養士など多くの職種の専門性を活かすために他職種の行っていることに意見しないようにする。

糖尿病の治療にあたっては、患者本人の普段の生活や治療に対する意識が重要で、また、治療機関が長期に及ぶことから、治療、生活環境、精神面など多方面からのサポートが望まれます
よって、糖尿病療養指導士をはじめ、看護師、保健師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、理学療法士、公認心理師、ソーシャルワーカーがチームに参加し、それぞれの立場から患者をサポートすることが期待されています。
担当医を中心としたチーム内の連携が重要であり、医療チームのスタッフが患者個々の病態、生活・社会的背景を理解し、患者本人を含めて意思統一することで、個々人に適した治療の実現が可能になります

ちなみに、生物心理社会モデルに基づいた連携のイメージは以下の通りです。


もちろん生物心理社会の各システムに職種を分類していますが、実際はそれぞれの職種が互いのシステムを行き来していることも多いですね(特にPSWとかは社会システムに入れてもいいぐらいでしょうし)。
それぞれのシステムが連携して情報を共有し、患者の支援を行っていくことが、特に糖尿病のような生物・心理・社会にまたがる疾患には必要なことだと考えられます

チーム医療の中では、生物システムから見れば必要なことでも、心理システムから見たら時期尚早ということもあり得るでしょう。
それでも生物システムに則って対応しなければならない時に、患者の心理面の把握がされているだけで、患者の意向を無視した治療にはなりにくいものと考えられます。
互いの治療を把握し、意見し、共有していくことで、より良い患者への支援が可能になるということです。
当然ですが、どのシステムの情報が重要であるという重みづけがあるわけではなく、各情報の重要度はその時々の文脈によって異なってきます。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢③は適切と判断できます。



②治療初期の心理的支援の主な目的は、服薬アドヒアランスを高めることである。

多くの方は選択肢②と選択肢④で迷われたのではないかと思います。
本解説では選択肢④が適切と判断しました。
その判断の理路を説明していきます。

本事例では以下の点に留意することが大切です。
  • 1年前に会社の健康診断で軽度の肥満と高血糖を指摘されたが、そのままにしていた
  • 家族に促されて、総合病院の糖尿病内科を受診したが、自ら治療に取り組んでいくことに前向きになれない様子
これらから、治療に積極的ではない事例であると見なすことができますね。

さて、そうなると一見、この事例に対して必要なのはアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)ということになりそうです
しかし、本選択肢には「服薬アドヒアランス」となっており、単なるアドヒアランスと違う表記になっているのが重要ですね。

以下に、(2型)糖尿病治療の流れを概観していきます。

治療の第一歩は、患者自身が糖尿病の病態を十分に理解し、適切な食事療法や運動療法を行い、生活習慣を改善していくことにあります
まずは食事療法、運動療法、生活習慣改善に向けての患者教育(禁煙や禁酒など)が治療の基本となり、これらによって血糖コントロール目標が達成されれば、この方法を継続していくことになります。
なお、食事療法、運動療法、生活習慣改善に向けての患者教育は、すべての治療期間を通じて行われるものです

十分な食事療法・運動療法を2~3か月行っても良好な血糖コントロールが得られない場合、経口血糖降下薬が適応になります(もちろん、食事療法、運動療法、生活習慣改善に向けての患者教育は継続的に行われます)。
薬剤の選択は、合併症や副作用を考慮し、個々の患者の病態に応じて行います。
体重減少や生活習慣の改善、血糖値改善により、薬剤の減量や中止が可能になることもあります。
疲弊した膵臓を休める目的で、一時的にインスリン療法が行われることもあります。

第1選択の経口血糖降下薬の単独投与では良好な血糖コントロールが得られない場合、第1選択薬の増量、他剤への変更、作用機序の異なる薬剤の追加を考慮します。
必要があれば基礎インスリン製剤の併用、インスリン治療への変更などを行います。

上記によっても目標の血糖コントロールが達成できない場合には、躊躇せずインスリン治療を行います。
頻回注射による強化インスリン療法を含めた治療も考慮することになります。

このように新規糖尿病患者に対する治療の基本では、最初に薬物療法が行われるのではなく、食事療法や運動療法、生活習慣の見直し教育などが中心になっていくことがわかります
となると、本事例に対して「服薬アドヒアランス」を高めるという方針は不適切ということになります(薬物療法が第一選択ではないから)。

ただ、すぐに結論づけるのではなく、次は本事例が「服薬が必要な状態であるか否か?」の検証を行っていくことが必要になります
服薬が必要であると見なせるのであれば、本選択肢の「服薬アドヒアランスを高める」という対応は合理的なものと判断できるためです

1型糖尿病や糖尿病昏睡、重篤な感染症などのインスリン治療の絶対的適応ならインスリン治療を開始します。
インスリン非依存状態でも、空腹時血糖値250mg/dL以上または随時血糖値350mg/dL、尿ケトン体陽性以上時のインスリン治療の相対適応ならインスリン治療を開始します。
その他、血糖コントロールの評価が不可であれば、食事・運動療法に加えて薬物療法の治療を開始を検討することになります。
食後高血糖の場合でも薬物療法の開始を検討することになります。
※細かい薬剤名やその使用量は省いてあります。

重要なのは、事例がこうしたインスリン治療や薬物療法の適応であると見なせるか否かです。
現時点で示されているのは…
  • 1年前に会社の健康診断で軽度の肥満と高血糖を指摘された
  • 最近、家族に促されて、総合病院の糖尿病内科を受診した
  • 多職種からなる治療チームで対応を検討する
…ということになります。
このように、事例には血糖値等の情報はなく、あくまでも周辺情報のみということになっています
もちろん「健康診断で軽度の肥満と高血糖を指摘された人が1年間放置すれば、即薬物療法の適応である」という情報があれば本選択肢が適切と判断できるのですが、その手の情報は見当たりませんでした。
家族に促されて、糖尿病内科を受診、治療チームが組まれた、などもあくまでも周辺情報に留まるものであり、それによって即薬物療法適応であるとは見なせないでしょう。

このような状況を踏まえると、やはり本事例に対しては食事療法、運動療法を含めた生活習慣の改善、及び肥満がある場合にはその是正が治療の第一選択として考えていくのが適切なように思います。
食事療法と運動療法開始2~3か月後を目安とし、血糖コントロールの改善が認められない場合に、薬物療法の追加を検討していくことになります

よって、本選択肢にある公認心理師が「服薬アドヒアランスを高める」ことを目的とするのは、性急であると考えられます
服薬アドヒアランスは、まずは食事療法や運動療法の効果を見てから検討していくことになるでしょう
もしかしたら「先々、薬物療法の可能性もあるから、早めに服薬アドヒアランスを…」という意見もあるかもしれませんが、クライエントの「今ここの治療」から離れたところについて話題にするというのも、あまり臨床実践としては適切なように思えませんね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



④Aのセルフモニタリングから得られた情報を他職種と共有しながら、食事や運動の行動変容を進める。

すでに述べたように、本事例に対して食事や運動の行動療法を進めていくことは大切なことです
また、Aとの面接で行ったセルフモニタリングの情報を他職種と共有しながら、それらの支援を行っていくことも適切と言えるでしょう(もちろん、その辺のインフォームド・コンセントはできているという前提で)

ただ引っかかるのが、本事例が「自ら治療に取り組んでいくことに前向きになれない様子であった」という情報があることです
治療に対して前向きになれていない状況で、果たしてAが本選択肢にある「セルフモニタリング」をしてくれるのかは大いに疑問ですよね

ちなみに、単に「食事療法や運動療法が優先だから選択肢④が適切だ」と判断することは、それこそ適切な理路ではないと思います。
臨床家として「意欲的でないクライエントに対して、食事や行動の行動変容を進めていく」ということへの理論的な整合性が取れないと、選択肢④を適切と見なすことは難しいはずです。
以下では、その辺をまとめていきましょう。

ここで一旦視野を広げて、糖尿病の治療中断の現状について見ていきましょう。
2012年の国民健康・栄養調査では、高血糖や糖尿病を指摘されたことがある人のうち、治療を受けていない人の割合は38%と報告されています。
また、治療をこれまで受けたことがある人のうち、受診中断率は13.5%とされています。
一応、減少傾向にあるようですが、日本の糖尿病有病者数が増加の一途をたどっていることを踏まえると、実人数は依然として多く、糖尿病診療において重要な問題であると考えられています。

さて、受診中断の理由として多くものとして「多忙などの診療の優先度への理解が十分でない」「診療の必要性そのものの理解が十分でない」などが挙げられます
こうした事例に対しては、通常、患者教育が最も直接的な対応になりますが、こちらは従来から実施されている事項となります。
患者教育を受診中断の抑制につなげるには、従来とは異なった方法や内容を検討していくことが必要だと考えられます
こちらの書籍には以下のようなデータが示されていました。
「2006年の国際糖尿病連合のコンセンサスワーク・ショップにおいて、糖尿病の発症予防のための生活習慣改善については、単純に情報を広めるだけのアプローチでは効果が十分ではなく、理想的な栄養摂取や身体活動を促進するような環境を構築することの重要性が指摘されています
例えば、電話やハガキ、メールによる受診勧奨はそのような中で最も手軽な手段かもしれません。診療している医療施設が行うことが最も簡便ですが、自施設の利益のための活動の一環と誤解されてしまうことも懸念されます。医療保険者や産業医など、直接に診療に当たらない第三者が実施することは、そういった懸念の解決につながるかもしれません」
「(受診中断の減少につなげるために)年に2~3回、尿アルブミンの検査を行い、結果を伝える。眼科受診(年に一度程度)を勧める。足の診察を行う(年に一度程度)。禁煙を勧めたり、禁煙指導を行ったりする

これらのように、栄養指導や療養指導は受診中断の減少に有効であるという知見が示されており、これは選択肢④の対応を支持するものと捉えることが可能です
当人の意欲の高まりを待つというスタンスよりむしろ、治療チームからの積極的な治療への促しがドロップアウトを防ぐ結果になりやすいということです

この辺は糖尿病という「現状ではあまり不都合は感じないけど、放っておくとエライことになる」という特徴を反映しているのかもしれません。
つまり、実感が湧かないから現時点では意欲的になれないけど、周囲が一所懸命必要性を実践を通して伝えていく中で「やらなきゃまずいんだな」という意識が徐々に芽生えてくるということなのかもしれないです(単純に考え過ぎだろうか)。
その辺は糖尿病治療に詳しい公認心理師に補完してほしいところです。

以上より、選択肢④は適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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