公認心理師 2019-65

2019年08月07日水曜日

問65はそこまで状態の悪くないひきこもり事例、その家族への支援に関する内容です。
ひきこもりにも様々な状態像がありますから、それに沿った対応が重要になります。
一応「こういう状態のときには、こういう対応が良いだろう」というものはあるのですが、それが無数にあるという点が大変なのです。

問65 26歳の男性A。Aの両親がひきこもり地域支援センターに相談のため来所した。Aは3年前に大学を卒業したが、就職活動を途中で中断し就職はしていない。1年前まではたまにアルバイトに出かけていたが、それ以降は全く外出していない。インターネットを介して知人と交流しているが、長時間の使用はない。独語や空笑は観察されず、会話や行動にも不自然さはないという。Aは医療機関への受診を拒絶している。
 両親への対応として、最も適切なものを1つ選べ。
①家族教室への参加を勧める。
②インターネットの解約を助言する。
③地域包括支援センターを紹介する。
④精神保健福祉法に基づく移送制度の利用を助言する。
⑤精神障害者相談支援事業所の利用について情報を提供する。

ひきこもり支援に関しては様々な著作が出ています。
私がベースにしているのは斎藤環先生の著作です。
こちらは「理論編」となっていますが、実際に困っている家族にとっては有益な情報があふれています。
支援者になる人にも是非読んでほしいなと思います。

こちらの書籍には「実践編」もあります。
「実践編」では、より細やかにコミュニケーションの取り方、家庭内暴力といった状態への対処、経済的な問題への考え方、などが記されています。
これらの対応の背景にある、ひきこもり事例の心理的特徴、問題の仕組みなどを把握した上で支援にあたっていくことが大切になります。
ここでは、こうした著作の知見を踏まえつつ解説を進めていきます。


解答のポイント

事例のひきこもりの状態を見立て、それに沿った対応を選択できること。
ひきこもり事例において、家庭内における家族の関わりの重要性を把握していること。



選択肢の解説


①家族教室への参加を勧める。

家族教室では、家族に対して(本事例の場合は)ひきこもりに関しての理解を深め、時には本人への関わりの助言をもらうことができます
ひきこもり事例では、親が過度の自己否定や自信喪失に陥り、相談を躊躇し、本人と同様に孤立する場合があります。
このため、各支援センターでは家族教室等を通して、家族にも継続的な相談を勧め、丁寧に不安などを解消する相談支援を行うとともに、必要に応じて親子関係や本人とのコミュニケーションの取り方を見直すよう助言しています。
家族教室でのプログラムは様々ですが、互いの悩みを共有しながら「本人への接し方」や「精神疾患などの医療関連知識」などの学習機会を得るような形が多いと思われます

さて、ここで事例Aのひきこもりの状態について細やかに見ていきましょう。
ひきこもり事例としては、比較的安定した状態であることがわかります。
そのポイントを列挙していくと以下の通りです。
  1. インターネットの長時間の使用はない:
    ひきこもりでは家庭内暴力が見られる場合、インターネットゲームをしていて負けると叫んだり暴れたりするなどの可能性もあり、そういった問題が生じていないことが窺える。
    ひきこもり状態という枠組みの中で、ある程度の生活リズムができている。
  2. 独語や空笑は観察されず、会話や行動にも不自然さはない:
    おそらくは精神医学的な問題がないということを言いたいものと思われる。
    また、家庭内で「会話」があることも想定される。
    ひきこもり事例において家族間の「会話の有無」は、その後の支援の方針を決める上でも重要なファクターとなる(もちろん、会話があることが望ましい)。
こうした状態は比較的軽症例の特徴と思われます。
ただし、ひきこもり事例においては、こうした比較的軽症と思われる事例ほどアプローチが難しいという側面もあります。

強い精神症状もなく、会話も可能で、ひきこもり状態だけがある。
このように日常生活が普通にできているということになると、ひきこもり状態に対する葛藤が比較的小さいことも多く、さほど自分の状態に対して問題意識が持てなくても当然と言えます。
そのぶん、治療機関や相談機関に行く動機づけは低くなり、治療・支援というベースに乗りにくく、社会参加に至る時期も遅れがちです

ただし、外的な刺激によって動機づけが高まるということは、ひきこもり事例に限らず一般に期待できません(他の問題では表面上は従っているけど、ちゃんとやらないという消極的反抗を見せる場合もありますが、ひきこもり事例ではシャットアウトすることの方が多い)。

こうした場合、日常生活や会話は正常に保ちながら、少しずつ治療に向けていくことが大切になります。
ただし、説得的に関わることは禁物であり、それでは本人が維持している生活リズムや親との関係が崩れてしまう恐れがあります。
そこで支援の第一歩となるのは、まずは両親が相談に通いつつ、本人を少しずつ支援に向けてほぐしていくことになります

両親だけでも相談に行くことの意義を思いつくまま述べると以下の通りです。
  1. そもそもひきこもり事例では、本人が最初から治療を望んだり、支援のベースに乗るという可能性は極めて低い。そういった状況における「次善の策」として、ある意味消極的に取られざるを得ない方針として家族の相談がある。
  2. ひきこもりは「精神医学的な問題を前提とするものではない」はずだが、やはり精神医学的問題を示す場合があり得る。そういう時には両親からの情報で、本人や家族全体の状態を見立てることが重要になる。
  3. 本人不在であっても両親の関わりを工夫するだけでも、状況が好転することがあり得る。よって、本人に先立って両親が相談・支援を受けることは一般に望ましいことである
こうした点から見ても、ひきこもり事例において両親が相談するということには支援的な意義が大きいと言えます。

以上の点からも、本選択肢にあるような家族教室への参加によって、ひきこもりへの理解を深め、家庭内での関わりを工夫したり見直したりする機会を持つことは大切なことになります。

ただし、家族が先に支援の場に入ることについては「親だけが支援の場に行くことを、本人はどう思うのか?」という懸念があるかと思います。
ひきこもりからの回復には、安心できる状況に加え、若干の葛藤体験が大切になります。
全く葛藤がない状態というのは、実は改善の糸口が無い状態でもあります。
もちろん、ひきこもり当事者は「そうは見えなくても」現状に対して、必ず不満を持っており、それが葛藤の種でもあります。
支援にあたっては、こうした葛藤を引き出しつつも、関わりが本人に恥をかかせるもの、侵襲的になってしまうものにならないようなバランスが重要になってきます

ひきこもり当事者は、両親がどのように動いているかは細大漏らさずに見ています。
両親が支援を受けに行っているという状況に対してはじめは拒否的であっても、だんだんと関心を示してきたり、カウンセラーについて質問してきたりすることが見られます。
特に両親が、本人を強制的に支援の場に来させようとする意思がないことがわかれば、両親のみの支援は受け入れられていくことがほとんどです

両親だけでも支援を受けること、相談の場に行くことは、本人からすると「自分は支援に行ってないけど、両親が行っている」「家庭内のやり取りは安心感があるものではあるし、両親とのやり取りは安心できるものだが、両親は100%このままで良いと思っているわけでもなさそうだ」という若干の葛藤を生じさせるような形になります。
そして、こういう若干の葛藤が、本人が将来的に支援の場に訪れるためには必要なことと言えます

以上をまとめると、
  1. ひきこもり支援では家族の相談から開始するのはスタンダードなことである。
  2. 家族による関わりを工夫することで好転することもある。
  3. また、家族が支援を受けていることによって、本人の支援への意欲が出現する前提となる「若干の葛藤」が生じやすくなる。
  4. いずれにしても、家族が本人にどのように関わるかは非常に重要になってくる。
…ということになります。

本選択肢の家族教室では、支援の肝となる「家庭内での本人へのアプローチ」をひきこもりという状態への理解を学ぶ中で話し合っていくという場になります。
よって、本事例の状況で家族会への参加を勧めることは支援の流れとしては自然であると考えることができます。
以上より、選択肢①が最も適切であると判断できます。



②インターネットの解約を助言する。

まず事例の現状として、インターネットにのめり込み、それによって大きな身体的・精神的問題を生じさせているという記述は見られません。
むしろ、自分でコントロールしながらインターネット利用をしているという形になっています。

ひきこもり支援では、家庭内を安全な状況に保ちつつ、本人に侵襲的にならないように配慮しつつの関わりが重要になります。
インターネットの解約を提案すること、それを強制的に行うことなどは、支援の前提となる家庭内の安全な状況を崩してしまう可能性が高いでしょう
事例の現状において、インターネット解約を提案するということはあり得ないと言えます

それでは「インターネットにのめり込んでいる事例だと、インターネット解約を行うことがあり得るのか?」という点についても考えていきましょう。
ひきこもり事例でインターネットにのめり込んでいる場合、それを断ち切ることによってどういう反応が出るか読めないという怖さがあります。
ひきこもり事例は家庭内暴力を併存することが多く、強制的にインターネットを切ることによってそういった暴力を引き出させる可能性があります。
特に、インターネットやゲームをしていて、負けたときに叫んだり暴れたりする事例では避けた方がよい対応と言えます。

インターネットやゲームに「依存」している場合、他の依存症と同様に「依存対象を断ち切る」という対応が浮かびやすいのも理解できるところです。
しかし、ひきこもり事例においては、インターネットやゲームは一時的に外界から逃避すること、傷ついた自己愛を刹那とはいえ満たすといった心理的意味合いが含まれているように思えます。
もちろん、それをし続けて良くなるかどうかは別の話ですが、急に断ち切ることで改善すると言えるほど単純な話でもありません。
先述の通り、安心感を維持しつつ支援にあたるという基本的な方針が保てなくなる可能性が高いと言えるでしょう。

以上より、ひきこもり事例に対してインターネット解約を行うことは基本的に控えた方が良いでしょうし、本事例のように自分でコントロールできているのであれば尚更しない方が良いと言えるでしょう
よって、選択肢②は不適切と判断できます。



③地域包括支援センターを紹介する。

地域包括支援センターは、介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関です

介護保険法第105条の46がその根拠です。
「地域包括支援センターは、第一号介護予防支援事業(居宅要支援被保険者に係るものを除く)及び第百十五条の四十五第二項各号に掲げる事業(以下「包括的支援事業」という)その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする」

上記の「第百十五条の四十五第二項」については以下の通りです。
「市町村は、介護予防・日常生活支援総合事業のほか、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うものとする」

また「第一号介護予防支援事業」については「居宅要支援被保険者等(指定介護予防支援又は特例介護予防サービス計画費に係る介護予防支援を受けている者を除く)の介護予防を目的として、厚生労働省令で定める基準に従って、その心身の状況、その置かれている環境その他の状況に応じて、その選択に基づき、第一号訪問事業、第一号通所事業又は第一号生活支援事業その他の適切な事業が包括的かつ効率的に提供されるよう必要な援助を行う事業」となります(第105条の45第1項二)。

有体にまとめてしまえば、地域で暮らす高齢者のみ身近な相談窓口であり、高齢者が健やかに住みなれた地域で生活していけるよう、介護、福祉、健康、医療などさまざまな面から総合的に支えていく機関となります

以上より、地域包括支援センターはひきこもり支援の機関としては不適切であることがわかります(独居老人、ひきこもり老人などはもちろんいるのでしょうけど)。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。



④精神保健福祉法に基づく移送制度の利用を助言する。

移送制度は、精神保健福祉法第34条第1項~第4項の規定に基づくもので、精神疾患を有し、精神障害のために患者さん自身が入院の必要性を理解できず、家族や主治医等が説得の努力を尽くしても本人が病院へ行くことを同意しないような場合に限り、知事は保護者の同意のもとに精神保健指定医の診察を受けさせ、診察の結果、要医療保護入院と判断された精神障害者を応急入院指定病院まで移送する制度です

前述したとおり、事例では精神医学的問題が現時点では否定できます。
その状況において精神保健福祉法に基づく移送制度を利用するということは考えにくいことです

また、ひきこもり事例において何らかの支援を本人が受けることは重要ではありますが、それは本人の意思において始められることが重要になります。
おそらくは移送制度が適用されることはありませんが、そのことを話題に出すというだけで家族と本人との関係が崩れることが懸念されます

以上より、本選択肢の助言は事例の現状にそぐわないものと考えるのが妥当です。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。



⑤精神障害者相談支援事業所の利用について情報を提供する。

相談支援事業では、障害福祉サービス等を申請した障害者(児)について、サービス等利用計画の作成、及び支給決定後のサービス等利用計画の見直し(モニタリング)を行います。

障害者総合支援法第51条の22に記載があります。
「指定一般相談支援事業者及び指定特定相談支援事業者(以下「指定相談支援事業者」という)は、障害者等が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者等の意思決定の支援に配慮するとともに、市町村、公共職業安定所その他の職業リハビリテーションの措置を実施する機関、教育機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、相談支援を当該障害者等の意向、適性、障害の特性その他の事情に応じ、常に障害者等の立場に立って効果的に行うように努めなければならない

この法律における相談支援とは、「基本相談支援、地域相談支援及び計画相談支援をいい、「地域相談支援」とは、地域移行支援及び地域定着支援をいい、「計画相談支援」とは、サービス利用支援及び継続サービス利用支援をいい、「一般相談支援事業」とは、基本相談支援及び地域相談支援のいずれも行う事業をいい、「特定相談支援事業」とは、基本相談支援及び計画相談支援のいずれも行う事業をいう」とされています。
このことからもわかるとおり、地域移行支援を行っているわけです。

上記の地域移行支援の対象となるのは、「居宅において単身で生活する障害者」および「居宅において同居している家族等が障害、疾病等のため、緊急時等の支援が見込まれない状況にある障害者」となります。
ひきこもり事例では精神障害が認められることも多く、そういう事例では本事業が対象となることもあり得るでしょう

また「一般相談支援事業」では、障害のある人やその保護者などが対象となるので、事例Aが将来的に精神医学的な問題に関する診断を受ければ該当する可能性はあります。
本事例においては精神障害の存在が否定されるような記述がなされておりますし、その診断もなされていないということです

おそらくは、本事例を読んで精神障害的な問題が発生していないことは誰もがわかると思います。
だけど「情報を提供するということはあって良いのではないか」「将来的に医療機関を受診する可能性もある」「今後の流れによっては精神医学的な問題を示す可能性があるので、それを踏まえて情報提供はありだろう」と考えて、本選択肢を選んだ方もおられると思います

ですが、この「情報を提供する」については懸念があります。
「精神障害者相談支援事業所の利用」に関する情報を提供するということは、両親に精神医学的な問題が生じる可能性を示唆することになります。

「ひきこもり事例に精神医学的問題が生じ得る」というのはあくまでも一般論です。
本事例では現状として精神医学的問題が示されていないにも関わらず、それが生じる可能性があると伝えることは、あまりふさわしくないと思われます(それが予見されるような情報もない)
こういうのは社会心理学では「自己実現性予言」と呼ばれており、これは、ある内容を伝えることでそれが実現する可能性を高める予言のことです。

両親に精神医学的問題が生じる可能性を伝えることは、プラスに見れば前もって支援の方向性を可視化するという意味もあるのでしょうけど、こういったマイナスの面にも目を向けておくことが大切です
何度も述べているように、家庭内で大切なのは本人が安全と感じる状況の構築です。
両親に過度な不安を与えること、精神医学的な問題が生じてくることへの恐れは、こうした安全感を揺さぶるものになりかねません。

両親を不安な状態におくことで、焦って本人に受診を勧めてしまう恐れもあります。
問題文にもあるように、本人は受診を拒否しているにも関わらず、です。
ですが、こちらにもあるように支援者や家族としては「焦りに基づく行動は避ける」ことが大切です。

焦りを主体とした行動には、必ずといっていいほど瑕疵があり、その多くは本人と周囲との思いのずれという形で現れます
確かに本事例のような場合、前述したような「軽い葛藤」が生じるようなアプローチは必要かもしれません。
しかし、本選択肢にあるようなアプローチは、むしろ家庭内の安全感自体を揺さぶりかねないほど強いものです。

以上をまとめると、

  1. 精神障害者相談支援事業所については、精神医学的問題を示しておらず、医療機関も拒否している状態ですぐに利用できるものではない。
  2. ただし、「情報提供を行う」という程度ならば良いのではないかという意見が考えられる。
  3. しかし、精神医学的問題を示しておらず、それを予見するような情報がない中でそれを伝えることには、やはりマイナスもあることを理解しておかねばならない。

…という感じでしょうか。

長々と書きましたが、要は「先取りが過ぎる」という印象が拭えない対応と言えますね。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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