公認心理師 2019-56

2019年08月21日水曜日

問56は女性の更年期障害についてです。
症状を知っておくことで、見立ての誤りを防ぐことができる可能性が高まります。
知っていても、なお見誤ってしまうこともあるのですけど。

問56 女性の更年期障害について、正しいものを2つ選べ。
①エストロゲンの分泌が増加する。
②ゴナドトロピンの分泌が増加する。
③顔面紅潮や発汗は不眠の原因となる。
④ホルモン療法は抑うつに効果がない。
⑤欧米人に比べて日本人では肩こりや腰痛の頻度が低い。

後述しますが、更年期障害の症状は精神科的症状とかなり類似しているため、その弁別ができることが重要になります。
少なくとも精神科的症状を訴えられたからといって、すぐに精神的な問題と見なさず、身体的な要因で起こっている可能性も思い浮かぶことが重要です。

見立ての順番は「外因→内因→心因」の順番です。
身体的疾患の有無が最初にチェックすべきであり、それを飛ばして内因、心因に行かないようにしたいところです。



解答のポイント

更年期障害の発現機序、症状特徴、文化差などを把握していること。



選択肢の解説


①エストロゲンの分泌が増加する。
②ゴナドトロピンの分泌が増加する。

女性ホルモンとは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という二種類のホルモンを指します。
特にエストロゲンは女性生殖器以外に、身体の健康維持に重要な役割をはたしており、女性の身体に大きな影響を及ぼします

女性ホルモンは脳から分泌されるホルモンによって調節されています。
視床下部からゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモンが分泌されて脳の下垂体を刺激すると、下垂体からゴナドトロピンである卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンが分泌されます。
卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモン(つまりゴナドトロピン)が働いて、主に卵巣から女性ホルモンが分泌されます。

血中の女性ホルモンの濃度が上昇すると、視床下部や下垂体に抑制をかけ、ゴナドトロピンの分泌を抑制し、女性ホルモンの分泌を抑制します(このことをネガティブフィードバックといいます)。
逆に血中の女性ホルモンの濃度が低下すると、ゴナドトロピンの分泌を促進し、女性ホルモンの分泌を促進します(このことをポジティブフィードバックといいます)

更年期では、卵巣機能低下に伴い、エストロゲンの規則正しい分泌がなくなってしまいます(つまり女性ホルモンの濃度が低下する)。
エストロゲン分泌低下によるポジティブフィードバックにより下垂体から分泌されるゴナドトロピンが増加します
更年期障害は過剰分泌されたゴナドトロピンが自律神経中枢に影響を及ぼすために発生すると考えられています

日本産婦人科学会は「閉経の前後5年間を更年期と言い、この期間に現われる多種多様な症状の中で、器質的変化に起因しない症状を更年期症状と呼び、これらの症状の中で日常生活に支障をきたす病態を更年期障害とする」と定義していますが、それは上記のような機序に基づいているわけです

上記は更に「更年期症状、更年期障害の主たる原因は卵巣機能の低下であり、これに加齢に伴う身体的変化、精神・心理的な要因、社会文化的な環境因子などが複合的に影響することにより症状が発現すると考えられている」と続けています。
ちなみに欧米では、内分泌学的な変化(つまりはエストロゲン欠乏)に起因する症状を中心にしていることが多いですね。

閉経年齢は平均49.5歳とされるが個人差も大きく、40歳前半で閉経を迎える女性がいる一方で、60歳近くまで月経が見られる女性もいます。
また、月経が発来している時期に卵巣摘出術を受けた女性はその時点で閉経と見なすが、卵巣温存子宮摘出術を受けた場合は閉経時期を特定することは困難です。
このように、更年期障害と診断される女性の年齢分布は症例ごとに広範囲にわたるため、個別的な対応が必要になります。

更年期障害の診断には、
  1. 不規則ないしは消失した月経
  2. 症状を整理し、エストロゲンの低下と特に関連の深い血管運動神経症状を認める
  3. 他の器質的疾患が除外できる
  4. 血液検査で卵巣機能の低下を認める
などが重要になるが、原則的には似た症状を呈する他疾患の除外診断に基づき決定されます。

以上より、更年期障害はエストロゲンの欠乏と、それに伴うゴナドトロピンの増加によって生じると言えます。
順番としては「更年期障害→ゴナドトロピン増加」ではなく、「エストロゲン欠乏→ゴナドトロピン増加→更年期障害」という流れになるということです。
よって、選択肢①は誤りと判断でき、選択肢②は正しいと判断できます。




③顔面紅潮や発汗は不眠の原因となる。

更年期障害は、大きく分類すると自律神経失調症状、精神的症状、その他の3種類に分けられます。
以下のようなものになります。
  1. 自律神経失調症状
    ・血管運動神経症状:のぼせ、発汗、寒気、冷え、動悸
    ・胸部症状:胸痛、息苦しさ
    ・全身的症状:疲労感、頭痛、肩こり、めまい
  2. 精神的症状
    ・情緒不安定、イライラ、怒りっぽい
    ・抑うつ気分、涙もろくなる、意欲低下
    ・不安感
  3. その他の症状
    ・運動器症状:腰痛、関節・筋肉痛、手のこわばり、むくみ、しびれ
    ・消化器症状:吐気、食欲不振、腹痛、便秘・下痢
    ・皮膚粘膜症状:乾燥感、湿疹、かゆみ・蟻走感
    ・泌尿生殖器症状:排尿障害、頻尿、性交障害、外陰部違和感
これらは加齢に伴う退行性変化(女性ホルモンの低下に伴う内分泌学的変化)と個人を取り巻く家庭や社会での環境の変化(心理社会的変化)などが、複雑に関与して表現されると考えられております。
よって、例えば、閉経後5~10年経過し女性ホルモンの低い状態に適応した後に、ほてり、発汗などの更年期様症状の増悪を訴える場合には、ホルモン低下というよりもストレスを含む社会環境などの患者バックグラウンドを考慮するなど、個別に対応する必要があります。

実際の症状を抜粋して説明していきましょう。

【肩こり】
首筋から肩甲骨にかける不快感、重い感じ、張った感じなどを総称しており、筋力が弱いこと、女性ホルモンによる靭帯の弛緩のため、若年においても男性より女性に多く見られると考えられています。
更年期以降では加齢による筋骨格系の老化とさまざまなストレスなどの社会的背景から肩こりが増加すると考えられます。

【ほてり(ホットフラッシュ)】
自然閉経、ないしは卵巣摘出を受けた女性の6割程度で経験されると言われ、そのうち日常生活に支障をきたすほど重症であるのは1割程度と考えられています
症状としては2~4分間持続する熱感および発汗を自覚し、血圧変動はないまま脈拍が増加します
頭重感を伴うこともありますが、顔面から始まり、頭部・胸部・全身に広がります。
末梢血管が拡張し皮膚温の上昇、さらに体幹温度が低下します。
臨床上は顔面のほてり、発汗のみを単独に訴えることもあります。

【頭痛】
器質的疾患などをはじめに除外し、痛みの起こり方と、経過を理解することが大切であるため、発症の時期、強度、前兆、また心理的ストレスの有無や内服薬などを把握します。
閃輝暗点や半盲などの前兆を有志、拍動性の痛みがある場合には片頭痛である可能性が高く、比較的若年女性に多いです。
一方、疲労や長時間の姿勢維持による血流低下により起こるのは筋緊張性頭痛であり、両側性の締め付け感として後頭から頭頂部へ移動するが、動作による増悪はありません。

【易疲労感(疲れやすい)】
更年期症状と考えられていますが、非特異的症状であり、あらゆる疾患に認められる一方で、原因がよくわからないことも多々あります。
身体所見が無く訴えのみが強い場合は、うつなどの除外は必須だが、社会的要因からきていることも多いです。

【腰痛】
原因としては第一に運動器疾患が挙げられ、この場合には体動により増強し、安静によって軽快します。
症状の持続時間から分類され、比較的短時間(6週間以内)で消失する場合は急性腰痛、3か月以上持続する場合は慢性腰痛と呼ばれます。
更年期女性の腰痛には、骨粗鬆症などの変形性脊椎疾患のみならず、椎間板ヘルニアや解離性大動脈などの血管疾患、さらに十二指腸潰瘍や膵炎という消化器疾患などが含まれていることがあるため注意を要します。

【不眠】
頻度の高い訴えの一つであり、寝つきが悪い入眠障害、眠りが浅い熟睡障害、早朝に目覚める早朝覚醒の3種類に分けられます。
社会・心理的な要因が原因となるのみならず、ほてりや発汗などの更年期症状が引き起こす睡眠障害が問題となりやすく、睡眠薬の投与のみならず症状の同時治療も必要となることがあります

このように、不眠の背景には顔のほてりや発汗などといった更年期症状があることも少なくありません。
よって、選択肢③は正しいと判断できます。



④ホルモン療法は抑うつに効果がない。

更年期における卵巣機能の衰退は、エストロゲンの減少により視床下部・下垂体の機能に変調を来たし、自律神経症状をはじめ、内分泌系や免疫系の失調症状、精神神経症状などを引き起こします。
また、この時期に起こる環境や人間関係の変化は、生育歴や性格的素因を相まって、抑うつや不安という精神神経症状の原因となります。
閉経に至る内分泌環境の変化は情緒・感情に影響を及ぼし、また更年期における心理社会的ストレスは内分泌変動に関与します。

更年期にうつ状態を呈している場合、その見極めは非常に困難となります。
うつ病の身体症状は、更年期障害の症状とかなり重複しているためです。
そのため、精神科との連携が重要になってきます。
ちなみに精神科へ紹介するタイミングとしては…
  1. 自殺念慮をもっている場合
  2. うつ病の診断に迷った場合
  3. SSRI、SNRIで効果が認められない場合
  4. 重症のうつ病の場合
  5. 躁鬱病の可能性がある場合
…などが推奨されます。

更年期女性のうつ状態が、更年期障害の精神神経症状であると診断された場合、ホルモン補充療法、漢方療法、向精神薬による薬物治療、カウンセリングなどが選択されます。
特に、内分泌学的要因が大きいうつ状態にはホルモン補充療法が奏功する可能性があります
一方で、心理社会的要因が強いうつ状態では、抗うつ薬や抗不安薬が主体となってきます。

閉経周辺期・閉経後の抑うつ気分に対するホルモン補充療法の効果に関する研究のメタアナリシスでは、エストロゲンには抑うつ気分を軽減する効果があることが示されています
ただし、こうした効果は閉経後より閉経周辺期において顕著でした

このように、更年期障害と併存して見られる抑うつでは、その背景によってホルモン補充療法の効果は変わってきますが、内分泌学的変化による抑うつの場合は奏功する可能性が指摘されています
もちろん抑うつの背景によってはホルモン補充療法が効かないことも考えられますが、選択肢にあるような「効果がない」とまで断定的に述べることはできないはずです
よって、選択肢④は誤りと判断できます。



⑤欧米人に比べて日本人では肩こりや腰痛の頻度が低い。

更年期症状として肩こりがあることは既に述べたとおりです。
平成7年度に厚生省が行った40~65歳の一般女性に対する更年期障害のアンケート調査によれば、この時期の更年期症状の発現頻度は、肩こり、易疲労感、頭痛、のぼせ、腰痛、発汗の順であり、肩こりに関してはこの時期のほぼ半数の女性で自覚され、日本の更年期女性の特徴的な症状と言えます

一方、欧米で多いと言われるホットフラッシュは2割程度であり、社会心理背景より発症するイライラ、気分が沈むという精神症状の頻度は比較的少ないです。

またMelbyの調査では、上記の報告と同様に肩こりの発症頻度が62.1%と最も高く、1週間で3~5回自覚がある割合は13.6%、ほぼ毎日自覚される割合は10.7%でした。
このように更年期障害・症状の日本における発現頻度に関しての統一した見解は無いが、肩こりや腰痛が上位に認められるのは日本の特徴と考えられています

そもそも東洋人は西洋人に比べて、精神的な問題であっても(更年期障害は精神的な問題ではありませんけど)身体の障害として訴える傾向が強いです。
外国人神父も宗教的な告白のときによく「肩こり」を訴えられて、来日当初は面食らうとのこと。

また「肩こりという言葉を知ることで肩こりになる」と言われるように、肩こりに該当する英語が無いというのも、日本と欧米の訴えの違いに関連している可能性もあるでしょう
英語では「back」になるのかな、と思います。

一般に「肩こりがひどくて」と言ったときの周囲の反応は、「お疲れさん」という感じですよね。
これは「肩こり」には単なる身体的なものだけでなく、精神的なものを「両肩に感じている」という暗黙の理解があるためです。
日本ではそうした精神的な重荷を「肩で負っている」のに対し、欧米では「背中で負っている」という感覚があるのだろうと思います。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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