公認心理師 2019-53

2019年08月30日金曜日

問53は生活習慣病に関する内容です。
厚生労働省のページに「行動変容ステージモデル」が示されております。
こちらも参照にしつつ解いていく問題ですね。

問53 生活習慣病やその対応について、正しいものを2つ選べ。
①心理的支援は、準備期以降の行動変容ステージで行われる。
②胸囲に反映される内臓脂肪型肥満が大きな危険因子になる。
③問題のある生活習慣のリスクを強調することにより、必要な行動変容が進む。
④メタボリック症候群の段階で行動変容を進めることが、予後の改善のために重要である。
⑤ライフスタイルの問題によって引き起こさせる疾患であるため、薬物療法の効果は期待できない。

ここでは身体の生活習慣病について問われていますが、多くの心理的問題でも「こころの生活習慣病」と言える場合があります。
長く続いている考え方の癖によって、ある特定の感情を抑制したり、麻痺させたりしてしまうことで、精神生活に何らかの不調をきたすということがあり得ます。

ですから、心理的問題で「原因論」に固執するのは、あまり適切な姿勢と言えないことが多いです。
有名な表現で「原因論をひっくり返せば治療論になるのではない」というものがあります。
例えば、子育ての問題があったとしても遡って変化することは不可能ですし、甘えが足りなかったという認識に至ったとしてもある程度年齢がいっている人に対して甘えを引き出そうとする対応が良いとは限りません。

では、どうしてカウンセリングでは「過去について問うのか」について考えておく必要があります。
端的に言えば、「過去を参考文献にするため」です。
過去の関わりを参考にして、現在どう対応すればよいのかを考えていくわけですね。
常に「これからのクライエントに資するために」我々は活動しているわけですから、例えば、個人的興味関心によって過去体験を問うことのないよう戒めておく必要があります。

そんなこと言われなくても大丈夫、という人もおられるでしょうけど、特にPTSD支援に関わる場合には、こうした自戒が非常に大切になります。
外傷体験には多少なりとも、支援者の興味・関心を刺激する面があるためです。



解答のポイント

生活習慣病の種類と、それぞれの支援について概観できること。
メタボリックシンドロームの診断の意義について理解していること。



選択肢の解説


①心理的支援は、準備期以降の行動変容ステージで行われる。
③問題のある生活習慣のリスクを強調することにより、必要な行動変容が進む。

こちらは冒頭で挙げた厚生労働省が示している行動変容ステージモデルを参考にしつつ解説していきましょう。
行動変容ステージモデルとは、1980年代前半に禁煙の研究から導かれたモデルですが、その後食事や運動をはじめ、いろいろな健康に関する行動について幅広く研究と実践が進められています。
行動変容ステージモデルでは、人が行動(生活習慣)を変える場合は、以下の図のように「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」の5つのステージを通ると考えます。


行動変容ステージモデルは、患者がいまどのような行動変化の準備状態にいるかによって、医療者がどのような援助をすれば、行動変化を促進できるかを科学的に研究したものです。
こちらは、本人の心の状態に応じて、次のようにステージ分けが可能です。
  1. 無関心期:
    6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期;行動変容に関心がない時期
  2. 関心期:
    6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期;行動変容に関心はあるが、まだ実行する意思がない時期
  3. 準備期:
    1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期;行動変容に向けた行動を実行したいと思っている時期
  4. 実行期:
    明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ 6ヶ月未満である時期;明確な行動変容が観察されるが、その持続に自信がない時期
  5. 維持期:
    明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期;明確な行動変容が観察されて、その持続に自信がある時期
これらの各ステージでの働きかけを把握しておきましょう。

【無関心期】
行動変容の必要性を正しく理解してもらい、関心を持ってもらう援助が必要であり、考えや感情を聴きながら、情報提供としてのティーチングを根気強く繰り返す時期です
ただし、脳梗塞、心疾患、癌などになる確率(ネガティブ情報)を伝えて脅すだけでは、防衛的態度や反感を強める結果になりかねません。
生活習慣を変えることで健やかな生活を実現している人の成功例(ポジティブ情報)も、同時に伝えていく必要があります

【熟考期】
この時期からは、傾聴しながら受容的・共感的に接して、信頼関係を築いていくことが特に大切となり、そのためにカウンセリングの技術が必要となります
関心はあるが行動を起こす意思のない段階であり、その背景には行動変容そのものや、それに伴う負担への不安も少なくありません。
したがって、行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことが大切であり、そのために情報提供としてのティーチングを行います
具体的なアプローチとして、身体活動が不足している自分をネガティブに、身体活動を行っている自分をポジティブにイメージするなどがあります。

【準備期】
目標を設定して、行動のための具体的計画を立てることが有効になる時期です。
適切な目標と行動計画を立ててもらうことで、自己効力感を高めてもらいながら、実行に移してもらう援助が必要となります。
働きかけとして、身体活動をうまく行えるという自信を持ち、身体活動を始めることを周りの人に宣言するなどがあります。

【実行期】および【維持期】
実際に行動に移し、それを維持する時期です。
実行期では「逸脱・再発予防対策」が、維持期では「QOL、ライフイベント対策」などが重要になってきます。
不健康な行動を健康的な行動に置き換える(例:ストレスに対してお酒の代わりに身体活動で対処する)などの行動置換が技術として使われることもあります。
他にも、周りからのサポートを活用する、身体活動を続けていることに対して「ほうび」を与える、身体活動に取り組みやすい環境づくりをするなどが重要になります。

このように各期間に特有のアプローチが存在しますが、一方でこれらの全期間を通じて、疾患に対する教育は行われることになります
なお行動変容のプロセスは、常に「無関心期」から「維持期」に順調に進むとは限りません。
いったん「実行期」や「維持期」に入ったのに、その後行動変容する前のステージに戻ってしまう「逆戻り」という現象も起こり得ることを認識しておきましょう。

このように選択肢①にある「心理的支援は、準備期以降の行動変容ステージで行われる」のではなく、心理教育をはじめとして全期間のステージで心理支援が行われることがわかります。
また、特に無関心期においては、選択肢③にある「問題のある生活習慣のリスクを強調することにより、必要な行動変容が進む」のではなく、リスクだけでなくポジティブな情報も伝えることで行動変容への関心を高めていくということになります。

以上より、選択肢①および選択肢③は誤りと判断できます。

このように見てみると、やはり引っかかるのが2019-76の選択肢④なんです。
もちろん、問76の事例を「無関心期」と呼んでよいかは不明ですが、意欲的でないことは確かなので、この行動変容ステージモデルに基づくと解説に齟齬が出るような気もします。
とは言え、2019-76の選択肢④の解説を支持するような知見も示しているので、あとは公式発表を待とうと思います。



②胸囲に反映される内臓脂肪型肥満が大きな危険因子になる。
④メタボリック症候群の段階で行動変容を進めることが、予後の改善のために重要である。

まず内臓脂肪と皮下脂肪の違いについて、きちんと理解しておきましょう。
皮下脂肪は分解された際、生じた遊離脂肪酸とグリセロールは全身に運ばれ、筋肉などでエネルギーとして利用されます。
アザラシなどの皮下脂肪と同じようなイメージかもしれないですね。
それで厳しい冬を乗り切るわけです。

対して内臓脂肪は腸間膜に分布しているため、生じた遊離脂肪酸とグリセロール門脈を介して肝臓に流入し、生活習慣病や動脈硬化を引き起こす原因となりやすいとされています
多くの疾病は内臓脂肪型肥満に関連しており、内臓脂肪型肥満を基礎にして、耐糖能障害、脂質異常症、高血圧をもたらした状態はメタボリックシンドロームと呼称され、心血管障害のリスクファクターとして注目されています

メタボリックシンドロームの診断基準は以下の通りです(日本内科学会、日本動脈硬化学会など8学会による合同基準)。
  1. 腹部肥満:
    ウエストサイズ 男性85cm以上 女性90cm以上
  2. 中性脂肪値・HDLコレステロール値
    中性脂肪値 150mg/dl以上
    HDLコレステロール値 40mg/dl未満
    (いずれか、または両方)
  3. 血圧:
    収縮期血圧(最高血圧) 130mmHg以上
    拡張期血圧(最低血圧)  85mmHg以上
    (いずれか、または両方)
  4. 血糖値:
    空腹時血糖値 110mg/dl以上
メタボリックシンドロームかどうかの診断の基本は、ウエストのサイズです。
ウエストサイズは、内臓脂肪の蓄積状態を知るための、ひとつの目安だからです。
また、下記の腹部肥満の基準は、内臓脂肪面積100㎠に相当するウエストサイズであることから決められたものです。

こうしたメタボリックシンドローム診断基準の意義や目的を誤解しないようにしましょう。
例えば、がん診断の目的はその人が病気なのか健常なのかを判断することですが、メタボリックシンドロームの診断の目的はこれと異なります。
肥満の他に、高コレステロール血症とは独立した動脈硬化のリスク因子(高血圧、高血糖、高トリグリセライド血症、低HDL-C血症)を複数持つ人の中から、内臓脂肪蓄積が各因子の上流にキープレイヤーとして存在するケースを選び出すことがメタボリックシンドローム診断の目的なのです

こうしたケースでは、動脈硬化を予防するにあたり、下流にある個々の病態に対して薬物療法を行うよりも、上流の内臓脂肪の減量を目的として生活習慣の改善を行うことが重要となるからです。
つまり、メタボリックシンドロームの診断は、病気なのか健常なのかの判別ではなく、動脈硬化という異常を予防することに意義があるのです

以上より、選択肢②および選択肢④が正しいと判断できます。



⑤ライフスタイルの問題によって引き起こさせる疾患であるため、薬物療法の効果は期待できない。

生活習慣病は「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・進行に関与する疾患群」のことを指しており、例えば以下のような疾患が含まれるとされています。
  • 食習慣:
    インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、歯周病等
  • 運動習慣:
    インスリン非依存糖尿病、肥満、高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症等
  • 喫煙:
    肺扁平上皮がん、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病等
  • 飲酒:
    アルコール性肝疾患等
かつては成人病と呼ばれていましたが、成人であるからではなく、不適切な生活習慣によってその発症・進行が関与するという点から生活習慣病と称されるようになりました。

上記の疾患を見てもらえばわかるように、生活習慣病は多岐にわたり、薬物療法が適用される可能性があるものがほとんどになります
がんなどは言わずもがなですが、2019-76でも示したとおり糖尿病では運動療法・食事療法が基本ですが血糖値等を見て薬物療法も実施します。
肥満症であっても、食事療法・運動療法が基本ですが、薬物療法としては抗肥満薬(マジンドール)があり、食欲中枢への直接作用をおよび神経終末におけるノルアドレナリン・ドーパミン・セロトニンを介して食欲を抑制することで、作用を発揮します(副作用としては口渇、頭重感、脱力感、吐気、腹部不快、めまい、動悸などがある)。

とは言え、やはり生活習慣の改善が中核になることには変わりありません。
多くの生活習慣病治療では、そうした支援によって変化が出なかったり、基準となる検査値を逸脱するなどの場合に薬物療法を検討していくということになります

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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