公認心理師 2019-16(解説に誤りがあります)

2019年08月29日木曜日

問16は神経心理学的アセスメント、特にそのテストバッテリーに関して問われています。
かなり基本的な内容から、あまり耳慣れない検査バッテリーまで幅広く出題されています。

問16 神経心理学的テストバッテリーについて、正しいものを1つ選べ。
①各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。
②Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。
③固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。
④多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。
⑤可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見するために用いられる。

「固定的なバッテリー」「可変的なバッテリー」という表現はメジャーなのでしょうか?
あまり耳慣れない表現ですし、複数の書籍を調べても出てきませんでした。
唯一、こちらの論文に記載があるのを見つけたので、こちらの定義を使って解説していきます。



解答のポイント

神経心理学ではどのような問題が対象になるのか把握している。
その上で、どのようなテストバッテリーを組むことが一般的か理解していること。



選択肢の解説


①各心理検査は、信頼性が高ければ妥当性は問われない。

こちらは神経心理学検査であるか否かに関わらず、心理検査全般に関する内容を問うています。
信頼性と妥当性については、以前まとめていますのでご参照ください。

要するに、信頼性は「何度やっても安定した結果が出るという尺度の精度」のことであり、妥当性は「測りたいものを測れているか否か」ということです。
ここでちょっと厄介なのが、信頼性と妥当性の関係にまつわる臨床心理士資格試験に何度も出ていることで「信頼性が高ければ妥当性は高い→×」ですが、「妥当性が高ければ信頼性も高い→○」となるのです。

前者の説明としては「信頼性が高くても、つまり同じような結果が得られたとしても、別の概念を検出している可能性(つまり妥当性が低い)があり得る」ということになります
これに対して後者では「妥当性が高いということは、ある程度安定した結果(信頼性が確保されている)が得られているということの傍証である」という考え方をします。
臨床心理士資格試験も近いことですし、受験される方はこの辺間違えないように。

さて本選択肢の内容では、2つの視点からこの選択肢は除外できます。
1つは、上記のように信頼性が高くても妥当性が高いと判断できないのでダメだという考え方
もう1つは、そもそも妥当性は「その検査で測りたいものが測れているか」という基底部分を司るものなので、それが問われないということはあり得ない、という捉え方です。

この選択肢、もしも「妥当性が高ければ信頼性は問われない」と言われたら、上記の理由からけっこう迷うのですが、本選択肢は迷いなく誤りであると判断可能ですね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。



②Luria-Nebraska神経心理学バッテリーは幼児用として開発された。

ルリア・ネブラスカ神経心理学バッテリーは、A.R.Luriaの技法により生み出された質的情報を、伝統的なアメリカの心理測定法と統合した方法です。
ルリアの脳モデルと関係した最も膨大で組織的な研究が、Goldenら(1982)によるルリア・ネブラスカ神経心理学バッテリーの作製です
この混合アプローチは、両者の重要な伝統的要素を取り入れています。

この検査は、伝統的な心理測定手段では簡単に行えない患者についての多くの重要な質的観察と、非常に特異的な障害を鑑別する機会を提供してくれるだけでなく、強力な心理測定基盤を持つことがわかっています。
検査バッテリー自体は簡便で3時間かからずに総合的な評価ができ、時間に限りがある状況や長時間に及ぶ検査に応じるのには能力に限界のある障害を持つ患者には実用的とされています(3時間って長い気もするのですけどね…)。

ルリア・ネブラスカ神経心理学バッテリーでは、客観的かつ信頼性のある方法で採点されるだけでなく、同時に純粋に臨床的で印象に基づく方法としても使われます。
このバッテリーが備えている基本尺度は、運動、リズム、触覚、視覚、受容性言語、表出性言語、書字、音読、算数、記憶、知能、中期記憶の12尺度になります
上記の情報は、こちらの書籍に記載がありました。
ルリア・ネブラスカ神経心理学バッテリーが14尺度という話もあるのですが、とりあえずこちらの書籍の内容を記載しておくことにしましょう。

本バッテリーを全検査バッテリーとして使う場合、検査は脳損傷のタイプ、程度、部位、そして広がりを評価するために使うことができる偏差値グラフを導き出します
選択した部分だけを使う場合、それらは特定の領域で起こり得る障害のスクリーニング手段としての役割を果たします

オリジナルの成人版は15歳以上で使用するためのものであり、ルリア・ネブラスカ子供用神経心理学的バッテリー(LNNB-C)は8〜12歳で使用できるとされています

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。



③固定的なバッテリーの補完としてウェクスラー式知能検査が用いられる。

神経心理学検査は、主に高次脳機能障害の評価を行うわけですが、高次脳機能の評価とは人間の認知機能全般を把握する作業に他なりません。
全体として人間の精神活動を支える認知機能の各機能は、横一列に配置されているのではなく、より基底的な機能があり、その上に乗って要素的な道具としての機能を果たすもの、個々の機能の働きを監視したり取りまとめる機能を果たすものなど、階層性をもって全体としての構造を形成しています。

高次脳機能の機能としては以下のようなものが挙げられます。
  1. 意識(覚醒):
    認知活動の基底部でありこここが機能しない場合には、他の階層の評価は意味をなさない。
  2. 全般的注意・作業記憶:
    覚醒状態が前提となって様々な認知活動が行われるが、その舞台となるのが全般的注意あるいは作業記憶の水準である。
    特定の機能にスポットライトを当てたり、複数の機能を同時並行的に動かすことができる。
  3. 記憶:
    覚醒と注意の機能を前提として初めて成立する。
  4. 認知・行為・言語:
    これらは人間の知能を支える機能のうち、道具的機能と言われるものであり、障害された状態は、それぞれ失認・失行・失語と呼ばれる。
    高次脳機能の中で脳内基盤の解明が進んでいる領域であり、病巣からの病状予測も可能。
  5. 遂行機能:
    何らかの目的の達成のために、認知・行為・言語などの道具的な機能の使用計画を立案し、計画に沿ってペース配分を考え、効率的に運用する。
    前頭葉が関与する重要な機能であり、Goldbergはこの機能をオーケストラの指揮者と見立てている。
  6. 自発性:
    種々の道具的機能を動かす原動力。
実際の評価では、これらの認知機能の階層性を考慮し、最初に基底的な部分からの評価を行い、ベーシックな認知機能を確認した上で、道具的機能の評価に進むのが合理的です。

ただし、脳の機能は上記のような多くの複雑な認知過程が同時に働いており、どれか一つの検査が異常と出ても、それが必ずしもある単一の機能障害を示すわけではないことも少なくありません。
よって、神経心理学検査を実施するにあたっては、包括的に機能に関する情報を得られる検査を中心に、患者の状態像を考慮してより細やかに特定の機能を見ることができる検査を組み合わせていくことになります。

さて、本選択肢で問われているウェクスラー式知能検査は今日最も広く用いられている尺度であり、どのような包括的な検査バッテリーにも非常に重要なものです。
こちらの書籍ではウェクスラー式知能検査に関して以下のような知見が示されています。
  • 動作性IQが言語性IQより高く、両者の差が著しい場合は、最近生じた脳損傷と関連していることは稀である。ただし、優位半球の言語野に重篤な障害をもたらす損傷は例外である。
  • 言語性IQが動作性IQより高く両者の著しい差は、非優位半球への頭部外傷あるいは皮質下の脳損傷後にかなり一般的に見られる。しかし、この得点パターンは優位半球の頭部外傷後にも起こり得る。なぜなら、運動障害が符号問題や積木問題での反応を遅らせるからである。
  • 神経学的要因があろうとなかろうと、視力の低い患者では動作性IQが低くなることがある。
  • ワーキングメモリは注意の指標で、即時的な作動記憶過程である。この得点は、全検査IQの15点以内に入らなくてはならない。頭部外傷や脳障害のある大半の状況では、この得点は一般に他のIQ得点と比較したときに、予測範囲内に収まることが多い。他の指標と比較してワーキングメモリが低い場合は、脳損傷より情動や動機の過程を示唆していることが多い。
  • 知覚速度指標には、一般に全ての臨床例にわたり障害が見られる。これらの検査は、速度、持続的注意、記憶、そして教示理解を必要とする。
  • WAIS-Ⅲの尺度の中で病前のIQを最も物語るのが、一般的知識、一般的理解、単語問題、そして絵画配列である。
  • 脳損傷あるいは精神障害の後、言語性IQと言語理解指標は、全検査IQあるいは動作性IQより通常は安定している。
このように幅広く脳機能障害の可能性を予測できます。

さて選択肢にある「固定的なバッテリー」とは、一つの検査を全て固定して行うことを指しており、その役割上、神経心理学的問題を広く検出できることが重要になります
このことからウェクスラー式知能検査は「固定的なバッテリーの補完」ではなく、「固定バッテリーそのもの」として用いられる検査の代表と言えるでしょう

よって、選択肢③は誤りと判断できます。



④多くのテストを含む固定的なバッテリーが仮説を検証するために用いられる。

選択肢③で示したように、「固定的なバッテリー」では一つの検査を全て固定して行うことを指しており、神経心理学的な問題を広く検出できる検査が行われることになると思われ、それをもって仮説(見立て)を検証することになります

神経心理学的な問題の検出を行い、ある特定の機能の問題であると見なせるようであれば、それをより細やかに把握できるような検査も行うでしょうし、そこが「可変的なバッテリー」で見ていくところかもしれないですね。

以上より、選択肢④が正しいと判断できます。



⑤可変的なバッテリーでの時計描画テストは、潜在する気分障害を発見するために用いられる。

選択肢にある「可変的なバッテリー」とは、必要に応じて検査の下位尺度を取り出して組み合わせたテストバッテリーのことを指します。

時計描画テストとは丸時計の絵を書く試験であり、特に前頭葉機能を反映する検査です。
認知症のスクリーニング検査としてMini-Cogがあり、この中で時計描画テストを採用しています。
時計描画テストと「遅延再生」を組み合わせた試験です(覚える→時計描画→単語の遅延再生)。
得点が1点または2点で時計描画テストが異常であった場合は認知症の可能性が高くなりますが、1点または2点でも時計描画テストが正常ならば認知症の可能性は低いとされています。

時計描画テストは、それ単体で行われるのが主なようですが、Mini-Cogから取り出して行うという捉え方もできるかもしれません。
前半の「可変的なバッテリーでの時計描画テスト」というのは、とりあえず瑕疵がないと捉えておきましょう。

時計描画テストは動作性知能を調べる検査法であり、短時間に行え、負担の少ないというメリットがあります。
目(後頭葉)と耳の情報(側頭葉)を前頭葉に送り、頭頂葉で空間認知を行い、前頭前野より指示を出し(遂行機能)、大脳皮質から脊髄路を経由して時計描画を行うので、一応、大脳の全ての部位を使うということになります

このように、時計描画テストは認知機能のスクリーニングとしても用いられるようになっています
特に認知症のスクリーニングで用いられることが多いようです
選択肢にある気分障害の発見という検査ではないですね。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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