ですが、今後もずっと出ないとは到底考えられない領域です。
少なくとも臨床心理士試験では、毎年1問は出ていたと思います。
これから数回にわたって、資格試験対策用のロールシャッハ・テストに関する内容をまとめていきたいと思います。
どの本を読んでも資格試験に向けて適切な解説がなされているものはないので(当然ですけど)、この際、細やかに行ってみようと思っています。
一応、まとめた資料はあるのですが、久々に書き下ろしていこうと思います。
第1回は「歴史および基本的理解」です。
長くなりますので、お付き合いくださいませ。
ヘルマン・ロールシャッハについて
1884年、スイスにて生まれます。父親は小中学校の美術教師でした。
母親はロールシャッハが13歳の時に他界しており、父親はその後、母親の妹と再婚しています。
幼いころのあだ名は「クレックス(Klex)」で、これは「インクのしみ」「インクの汚れ」という意味でした。
なぜこのようなあだ名がついたのか?
当時、スイスではある遊びが流行っていました。
日本の駄菓子屋さんにはボール紙におもちゃの入った袋がホッチキス止めされていますよね。
あんな感じで、スイスにも「クレクソグラフィ」というセットが売っていました。
クレクソグラフィは紙とインクがセットになったもので、紙にインクを垂らして、半分に折って何に見えるかを言い合って遊ぶものです。
ヘルマン・ロールシャッハはそれがとても上手だったようで、そのため「インクのしみ」というあだ名がついたということです。
芸術への関心が高かったことも影響しているかもしれません。
大学に進む際、悩んだ末に医学の道を選びましたが、美術への興味を持ち続け水彩画を描き続けました。
実はこのことはロールシャッハ・テスト作成に大いに役立っております。
ロールシャッハ図版のⅧ~Ⅹ図版には、どうも後から水彩で手を入れた跡があるのです。
おそらく、ヘルマン・ロールシャッハ自身が手を入れたのでしょう。
ヘルマン・ロールシャッハは、1910年~1913年に教員をしていた友人とともにクレクソグラフィについての研究を行いました。
クレクソグラフィで才能豊かな子どもの反応はより空想や想像に満ちた反応をすることに気づいていたためです。
1912年ブロイラーの指導で、幻覚に関する学位論文を提出しています。
ブロイラーは統合失調症概念を提出した一人として有名ですね(もう一人はエミール・クレペリンですよ)。
上記の通り、元々クレクソグラフィの研究をしていたことも相まって、ヘルマン・ロールシャッハは、1917年末~1918年始めに、インクブロットを用いての性格の鑑別診断を行おうと決断しました。
少なくとも40枚のインクブロットを作成し、15枚を組み合わせて使用していました。
この際、先述の通り、ロールシャッハ自身が自ら筆をとって精密な部分を描き、装飾をくわえ、いくつかの色を添えたと思われます。
ちなみに、図形がシンメトリーなのは右利き・左利きを考慮してと言われています。
1921年9月に「精神診断学-知覚診断的実験の方法と結果(偶然図形の判断)-」を出版しました。
最終的に12枚の図版を中心に研究を行っていたが、予算不足のために最終的に10枚の図版で出版することになりました。
それくらいお金がなかったので、出版社もいいところではなく、一番低料金のところにお願いすることになりました。
その会社はあまり出版技術が高くなかったようで、出版の際、原版にはなかった「濃淡」が加わってしまいました。
そのことにロールシャッハは怒ったが、濃淡の可能性にその後気づいたとされています。
現在では濃淡は非常に重要な解釈の一つとなっていますね。
ロールシャッハは出版の翌年に死亡しています(印税は5ドルだった)。
実際にロールシャッハ・テストが評価されたのは1930年代になってからです。
ロールシャッハは医師だったのか、それとも芸術家だったのか。
この「死んだ後に評価される」という点は何とも芸術家然としていますね。
彼がテスト出版後早くに死んだことが、ロールシャッハテストの隆盛につながったとされています。
すなわち、彼がロールシャッハ・テストの「決定版」を出さなかったことによって、さまざまな分野から無数の知見が提出され、それがロールシャッハ・テストのその後の発展を後押ししたということです。
【H16-34A、H19-38A】
「何を見るか」ではなく「いかに見るか」
「精神診断学-知覚診断的実験の方法と結果(偶然図形の判断)-」には以下のように記されています。
非常に重要な箇所なので、そのまま抜き出します(ちょっと長いけど)。
「ほとんどすべての被験者は、この実験を想像力の検査と思ってしまう。このような考え方は、ごく一般的なので、実際には、これを、実験の一つの前提条件とみなすことができよう。それにもかかわらず、偶然にできあがった形の判断は、直接想像力に頼るところはわずかであって、想像力を実験の前提条件と考える必要はない。想像力に恵まれた人が、想像力に乏しい人と異なる反応をすることは確かなのだが、被験者に想像のおもむくがままにさせるか、あるいはあまり鼓舞しないかによって、その結果にはそれほど変化は起こってこない。…偶然にできあがった図形の判断は、むしろ知覚や統覚の概念に属するものである」
これは何を指し示しているのか?
素人がロールシャッハ・テストを受けた時、たいていは「何を見たか」で人格の傾向を見ると考えるのではないでしょうか。
しかし実際は、「何を見るか」ではなく「どのように(いかに)見るか」を重視した査定法がロールシャッハ・テストだと述べているのです。
それが上記の「むしろ知覚や統覚の概念に属するものである」ということの意味です。
よってロールシャッハ・テストの解釈では、反応決定因という「どのように見たのか?」を記号化した箇所が非常に重要視されるわけですね。
【H8-31B、H16-34BCD、H17-12D】
ロールシャッハ死後の研究者たちとサインアプローチ
ここでは、ロールシャッハの亡き後の有名どころの研究者たちと、彼らが示した有名なサインアプローチについて紹介していきます。ちなみに「サインアプローチ」とは以下のようなことを指します。
「群間比較に基づいたいわゆる実証的なデータから、スコアおよびその量について、その意味するところに関する知見を示すことである。例えば、「M反応の多い人は、~である」というように、述語部分を対象の属性に依拠して決定した上で、命題の主題に当たる部分をさまざまなスコア特徴で発見する試みである(片口安史,1974)」
【H7-50C】
ベック(Beck,S,J:1886~1980)
最初のロールシャッハの本格的研究者(認知療法のBeckとは別)です。
ベック方式と呼ばれる独特の採点体系を編み出しました。
ベック方式と呼ばれる独特の採点体系を編み出しました。
クロッパー(Klopfer,B:1900~1971)
片口法・阪大法・昭和女子大式はクロッパー法がもとになっています。
RPRS(Rorschach Prognostic Rating Scale:ロールシャッハ予後評定尺度)を作成したことでも知られています。
- Ⅰ段階(17~13):少しの助力で、自立可能。
- Ⅱ段階(12~7):助力によってかなり良好になる。
- Ⅲ段階(6~2):治療が何らかの助けになる。
- Ⅳ段階:確率は半分。
- V段階(-3~-6):困難な事例。
- Ⅵ段階(-7~12点):望みがないもの
いくつかの指標を数値化していき、上記の段階を見極めるわけです。
河合隼雄先生とも深いつながりがあります。
河合先生の博士論文はロールシャッハについてでした(書籍化もされていますよ)。
村山正治先生が京都大学の学生だった頃に、京都大学でロールシャッハの講義をしていたのが河合先生だったということです。
河合先生はクロッパーにロールシャッハ知見に関するある指摘を行い、それがきっかけでクロッパーのもとで研修を行った期間があります。
ユング研究所に行くのは、その後になりますね。
【H6-49b】
ピオトロフスキー(Piotrowski,Z,A:1904~1985)
「知覚分析」という立場の研究者です。
有名な指標が2つあります。
1937年に「脳器質障害の有無の査定」のため、脳損傷を認める18名の患者を、他の臨床群と比較することによって項目を抽出しました。
これを「Organic Signs:脳器質疾患指標」と言います。
- R≦15
- 一つの反応を与えるのに1分以上要する
- M≦1
- Cnが存在する
- F+%≦70%
- P%≦25%
- いくつかの図版に同じ反応を3回以上繰り返す
- 適切でないことを承知しながら反応してしまう
- 決定することができず、どうしてよいかわからず、依存的で当惑して検査者に確認を求める
- いくつかの図版に同じ語句を繰り返す
上記の10項目のうち、5項目に該当すれば器質疾患の可能性がありとなります。
また、Piotrowski&Lewis(1950)はエネルギーと、その統制力という点から統合失調症を他疾患から鑑別するため「アルファ指標」を作成しました。
α指標は、W、SumC、C’ショック、F+%<70%について検討します。
この指標が3点以上のときには、単に神経症というよりも統合失調症の可能性が強くなるとされます。
こちらは16歳以上の被験者に適用します。
【H6-49d】
ラパポート(Rapaport,D:1911~1960)
統合失調症を対象としたロールシャッハ反応の思考病理学的分析を行った人物です。
そこから逸脱言語反応を提唱(エクスナー法でいうスペシャルスコア;SS)しました。
これはΔ%という指標として示されています。
- 作話的反応(FABCOM)
- 作話的結合反応(FABCOM)
- 作話反応(CONFAB)
- 混交反応(CONTAM)
- 内閉的論理(ALOG)
- 特異な言語表現(DV・DR)
- 奇矯な言語表現(DV・DR)
- あいまい反応
- 混乱反応
- 支離滅裂反応
- 象徴反応
- 関係づけ言語表現
- 不合理反応
- 荒廃彩色反応
- ズタズタ反応(MOR)
これら各々にΔ得点があり、「Δ%=Σ(Δ得点×出現頻数)/ R × 100」という式で算出します。
正常者は5%以下で平均は1.88%、神経症は10%以下で平均4.41%、統合失調症では半数が10%以上で平均は18.15%とされています。
ちなみにエクスナー法では上記以外のスペシャル・スコアも示されています。
主なものは以下の通りです。
- PSV(Perseveration:固執反応):
認知の柔軟性の低さ、認知機能の低下を示す。注意の転換の難しさがある。1つ以上該当する場合は問題となる。 - GHR(良質人間表象反応)とPHR(貧質人間表象反応):
人間の反応を良質(good)か貧質(poor)に区別する。コードする基準が明確に存在する。 - CP(Color Projection:色彩投影):
無彩色の場所に、有彩色の反応を示した場合にコードされる。
こうした「片口法とエクスナー法の違い」についてもキチンと押さえておくと良いでしょう。
【H13-40・41、H24-22C】
エクスナー(Exner,J,E:1928~2006)
多くの指導者に教えを請い、統計的に有意であるものを中心とした「エクスナー法」を提唱しました。
当時の有名なロールシャッハ研究者を回って、それぞれの知見を総合したため「包括システム」とも呼ばれています。
SCZI(現在はPTI:知覚と思考)という分裂病指標を提出しました。
- X+%<.61かつS-%<.41、またはX+%<.50
- X-%>.29
- SumFQ->SumFQu、またはSumFQ->Sum(FQo+FQ+)
- LVL2>1かつFAB2>0
- Sum6>6またはWSum6>17
- M->1またはX-%>.40
これらのうち4つが該当すれば統合失調症のかなりの可能性を示すが、偽陽性(有意だけど違う)である可能性も高いとされます。
また、5~6つが該当の場合、より決定的に統合失調症の可能性があるとされ、偽陽性も非常に低いとされます。
さて上記の4つ該当した場合には偽陽性の可能性も高いとされておりますが、こちらが「SCZI」といういかにも統合失調症然とした表現から、「PTI」という知覚と思考の障害という風に表現が改められた理由でもあります。
すなわち、こちらに該当するのはイコール統合失調症であることを示しているのではなく、あくまでも「知覚と思考」の問題の有無がわかる程度ということです。
もちろん、その問題が大きい場合には統合失調症が疑われるというのもあるのですが。
PTI以外にも、S-Con(自殺の可能性)、DEPI(抑うつ)、CDI(対処力不全)、HVI(警戒心過剰)、OBS(強迫)などが示されています。
片口安史:1927~1995
日本で広く用いられている「片口法」を提唱しました。
片口法はクロッパー法を基盤としているとされていますね。
1959に正常者と神経症者を統合失調症から鑑別する目的でRSS(ロールシャッハ分裂病得点)を作成しました。
こちらは、統合失調症で-43.49、神経症者で15.23、正常者で42.47の範囲になるとされます。
R≧10で、知能水準が平均以上であるときに、修正BRSが-30以下ならば統合失調症を疑います。
ラーナー(Lerner,P.M:?)
1980年に、発達的に低次水準の防衛機制を特徴づけていると考えられる特定の防衛操作を評価するためのロールシャッハ・スコアリング・マニュアル(Defence Scale)を考案しました。
スプリッティング、脱価値化、理想化、投影性同一視、否認といった特定の防衛に基づいた項目に分けられています。
各項目内では、その防衛が定義され、ロールシャッハ指標が示され、臨床例が提示されています。
投影法としてのロールシャッハ・テスト
「投影法」という言葉はFrank(1939)がはじめて用いました。Rorschach(1921)「精神診断学-知覚診断的実験の方法と結果-」とMurray&Morgan(1935)「空想研究の一方法-主題統覚検査-」が端緒となり、1930年代後半から投影法が盛んになりました。
1940年代は新しい投影法が相次いで発表された時代です。
- 1942年:絵画欲求不満テスト(????,S.)
- 1946年:視覚・運動ゲシュタルト・テスト(????,L.)
- 1947年:実験衝動診断学(????,L.)
- 1948年:人物画テスト‐DAP(????,K.)
- 1948年:HTPテスト(????,J.N.)
- 1952年:バウムテスト(????,K.)
?の部分は誰か入れてみましょう。
こうした投影法の流れがあり、もっと客観性があるものをという要望もあって1942年にはMMPIが開発されています。投影法に限らずですが、得られる情報が多かったり曖昧さが強い場合、クライエントの負担が大きくなります。
以下の図がわかりやすいと思います。
明確な質問、例えば、どこで、誰が、いつ、などのようなものに対しては答え難さが小さいのでクライエントの負担は少ないのですが、情報量も少なくなりがちです。
逆に明確さが少ない場面、ロールシャッハ場面はその代表ですが、答え難さが高い一方で、得られる情報も大きくなります。
これはいわゆる「オープン・クエスチョン」というものも当てはまるでしょう。
「オープン・クエスチョン」の有用性が示されることが多いのですが、あれはプラスの面を強調しすぎているように感じます。
方向性のない質問は多くの情報を得ることは確かに可能ですが、心理的負担感も大きく、クライエントによっては侵襲的なものになりかねません。
近年、「オープン・クエスチョン」の有用性が強調されるのに、その侵害性が同時に表現されないのはどういうことだろうかと疑問に思っています。
いずれにせよ、ロールシャッハ・テストはクライエントに与える負担が大きいテストであることを自覚しておきましょう。
【H6-16abd、H20-47A】
ロールシャッハ・テストの信頼性
信頼性とは「何回やっても同じ結果になる」という指標です。信頼性を示す概念として、再現性、等価性、内的整合性が挙げられます。
- 再現性:同じ検査を時間をおいて繰り返して、その結果の相関を見る。再検査法によって算出される。
- 等価性:類似した検査を同時に行い、その結果の相関を見る。並行検査法によって算出される。
- 内的整合性:質問紙の場合、その検査の質問項目一つひとつが同じような価値を持っているということによって示される。折半法などによって算出される。
10枚の図版で考えたときに、これらの図版がそれぞれ異なる意味を持つからこそロールシャッハ・テストには価値があるのです。
例えば、折半法でやろうと思っても、10枚の図版を折半してしまって、その両方が同じ価値をもつということはあり得ないのはわかりますよね。
また、ロールシャッハ図版は唯一無二のものであり、複製は難しいため、等価性によって信頼性を示すのも困難です。
一応、RorschachがBehnにロールシャッハの平行シリーズを作成させてはいます(Behn-Rorschach test(1921))。
その他にも、カロ・インクブロット・テスト(1970)があるものの、やはり平行シリーズを用いての効果判定研究は極端に少ないと言わざるを得ません。
ロールシャッハ図版は一つの芸術作品のようなものです。
それと「等価」なものというのは、いわばとある絵画と全く異なる絵だけど「等価」なものを描きなさいと言っているようなものです。
そんなことは不可能ですよね。
ただロールシャッハ・テストの指標の中にも、年数がたっても変わりにくいものや、浮動性の高いものなどが入り混じっているので、その辺の難しさもありますね。
【H13-31D】
ロールシャッハの適用年齢
Ames,L.B.(1974)は、2歳でも個人としての特徴を示す、としています。また、Klopfer,B.(1956)は、精神年齢が3歳に達していれば可能と述べています。
そして、一定数の反応を要するエクスナー法では、5歳児の標準データがあります。
適用可能年齢については諸説ありますが、共通して言えそうなこととして、「少なくとも言語反応を得ることができれば、適応可能」という感じでしょうか。
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