公認心理師 2018追加-136

2019年04月30日火曜日

プライム刺激とターゲット刺激の意味的関連性によるプライミング効果について検討する目的で、語彙判断課題を用いた実験を行った。
意味的関連がある(SR)条件の方が意味的関連がない(UR)条件よりも語彙判断の反応時間が短くなることを仮説とした。
以下は論文における「結果」についての記述の一部である。

「プライム刺激とターゲット刺激の意味的関連がある(SR)条件と意味的関連がない(UR)条件別に、語彙判断の反応時間の平均と標準偏差を算出した。SR条件ではM= 620、SD=100、UR条件ではM=640、SD=100で統計的に有意であった。このことからプライミング効果が認められたといえる」

この論文における「結果」の記述の問題点として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

本問は実験についての問題ではなく、論文作成に関する問題となっています。
ですから、実験の内容についてはそれほど知っていなくても大丈夫ではありますが、一応、プライミング効果を検討する実験について概説しましょう。
それがわかっているとイメージしやすいでしょうし。

プライミング効果とは、先行する刺激(プライム刺激)の処理によって、後続刺激(ターゲット刺激)の処理が促進または抑制される効果と定義されます。
難しく書いてありますが、要は10回ゲーム(「ひじ」を10回言わせて「ひざ」を指差して、これは何?と問うやつ)が成立するための仕組みといえばわかりやすいでしょうか。
プライミング効果には「直接的効果」と「間接的効果」がありますが、本問は後者に関する内容となっています。

ちなみに「直接的効果」では、プライム刺激とターゲット刺激が同じ刺激であり、これが繰り返されることで起こるプライミング効果のことを指します。
これを見るのに最もポピュラーなのが単語完成課題です。
例えば、「れいぞうこ」というプライム刺激が呈示された後に、「○い○う○」というターゲット刺激が呈示されれば正答率が向上、反応時間が速くなるなどの結果が得られ、そのことによってプライミング効果が同定されます。

重要なのは、上記の単語完成課題を遂行している際には、プライム刺激として提示されている単語を意識的には想起していないということです。
つまり「直接的効果」は、潜在的な想起過程において起こっている現象であることは留意しておくことが大切です。

一方、「間接的効果」とはプライム刺激とターゲット刺激とが異なる場合に起きるプライミング効果です。
こちらの検証に最もポピュラーなのが、本問でも出題されている語彙判断課題となります。
「間接的効果」は、通常は意味レベル(意味的プライミング効果)で観察されることが知られています。

語彙判断課題では、プライム刺激として「将棋」が呈示された際に、ターゲット刺激として「囲碁」が呈示された場合には、「解剖」が呈示された場合と比較して、ターゲットの語彙判断に要する時間が有意に速くなる、などによってプライミング効果が評価されます。
プライム刺激とターゲット刺激に意味的関連があると、その判断が速くなる、つまりプライム刺激によってターゲット刺激の語彙判断に影響をもたらしたということですね。
「間接的効果」においても「直接的効果」と同様、にターゲット刺激に対する想起意識は潜在的であることが重要です。

これらを踏まえ、各選択肢の解説に入っていきます。



解答のポイント


論文作成における「お作法」を把握していること。



選択肢の解説


『①刺激材料についての記述がない』
『②実験手続についての記述がない』

論文は一般的に、「目的」「方法」「結果」「考察」という順で作成されます
もちろん、研究内容やその研究者の言いたいこと、そしておそらくは、その研究者の所属する機関で「よく使われている表現」で多少の変化はあります(論文の形式によって○○大学の○○先生のゼミ生だ、とわかることもあるくらい)が、基本は上記の順だと考えてもらって大丈夫です。

さて、上記の順に沿って、それぞれの項目で何を記入するのかをざっと述べていきます。
  • 目的:
    「序論」と呼ばれることもあり、実際に論文ではそう表記されることも多い。実際には微妙に違いがある。
    その研究で何を明らかにしようとしているのかを明記する。
    検証したい自分の仮説とその対立仮説を記す。
    目的で是非書いてほしいのは、自分が研究しようとしていることが、その研究領域においてどのような位置に属するのかを示すこと。
  • 方法:
    実験計画・被験者・装置・材料・手続き等に分かれる。
    「手続き」では、全体の流れを記した上で、細部まで手続きを明確にしたり、剰余変数がもぐりこんでないか、慎重に検討する(統制)
    「被験者」では、被験者の種類と予定数。先行研究を参考に人数を決める。
    「装置」では、研究の目的に照らして、十分な性能があるかどうかを確認する。
    「材料」では、作成方法の概要、基本的なロジックや満たしていないといけない条件を明記する
  • 結果:
    まずはデータの分析法を書く。
    自分の仮説から予測される結果と、対立仮説から予測される結果とを記す。可能なら図示する。同じような結果が予測されるなら、方法が不適切と言える。
  • 考察:
    予測した結果が得られた場合、どのような理屈で「仮説が支持された」と言えるのかを記す。
    次に批判者の立場に立ってみて、剰余変数による別解釈ができないか検討する。提起され得る別解釈とそれがどういう根拠で排除できるのかを記す。
他にもいろいろあるでしょうし、内容は研究によって異なる部分も出てくるでしょうが、こういった内容を記載していくことが多いのは間違いないと思います。

選択肢①および選択肢②の内容ですが、これらは「結果」ではなく「方法」で記述すべき内容であることがわかります
よって、選択肢①および選択肢②は「結果」の記述の問題点とは言えないと判断できます。




『③文章が過去形で記述されている』

論文における時制の問題ですね。
大きく分けて「現在形」「過去形」「過去進行形」などの使い分けが重要になります。

現在形で書く箇所・内容
  • 一般的知識:「地球は太陽の周りをまわっている」など。すでに提出されている論文は「一般的知識」に見なされる。
  • 序論については、すでに確立した知識を強調することが多いので現在形にすることが多い。
  • 解説を述べるとき、論拠を示すときは現在形の方が説得力が出ることも多い。

過去形で書く箇所・内容
  • 過去に提出され、後に間違いが証明された考え:「太陽が地球の周りをまわっているとされていた」など。
  • 発見したことや到達したことについて述べる際は、過去形にするのが標準的。
  • アブストラクト(要約)は過去形になる。
  • 先行研究の著者自身が行ったこと:「○○という形で示してきた」など。
  • 方法の多くは過去形になる。
    実験を行った操作などについて述べるときは過去形にする。
    図表や計算を述べるときには過去形になる。
  • 結果は、著者が論文を書き出す前に発見したことなので過去形で書く
  • 何が起こったか述べるときには過去形が多い。

現在完了形で書く箇所・内容
  • 過去に行われたけど、自分が行った研究に強く関連すること:「○○という点については、今なお議論が続いている」みたいな感じ。
  • その問題に対して「過去から今までにどのようのアプローチがとられてきたか」を表すとき。
  • 論文執筆時に行ってきたことは現在完了形が多い。

上記以外でも、「この論文では証明されなくて、将来証明される必要のある事柄」は未来形が多いです。
これらはあくまで例であり、文章の流れやその時々の条件によって多少は変わります。

ただ一般的に、本選択肢にあるような「結果」の記述については、過去に行ってきたということで過去形で書かれるのが通例です
よって、選択肢③は「結果」の記述の問題点とは言えないと判断できます。



『④適切な統計記号が使われていない』

本問で使われている統計記号は「M」「SD」になります。

Mは平均値(mean)を意味します。
これは代表値(観測値の中央位置を表す数字のこと)の一つであり、他にも中央値、最頻値などがあります。
しかし、代表値だけでは観測値がどのようなパターンを取っていたのか明確ではありません。
そこで、データを記述する際には、そのデータのバラつきを示す指標を併記することが重要です

それが、SDになります。
SDは標準偏差(standard deviation)を意味します
標準偏差は概念的には「各観測値から平均値までの平均距離」を示します。
よって、「平均値±SD」が平均的な得点となりますから、SDは平均値とセットで出てくることになります。

MとSDは上記の通り併記されることがほとんどであり、問題中の使い方については適切と言えるでしょう。
また、平均値と標準偏差を「結果」で示すのも適切ですね。

以上より、選択肢④は「結果」の記述の問題点とは言えないと判断できます。



『⑤有意差を示す統計量の記述がない』

論文中の表現として「SR条件ではM= 620、SD=100、UR条件ではM=640、SD=100で統計的に有意であった。このことからプライミング効果が認められたといえる」とあります。
しかし、選択肢④でも述べたとおり、MやSDは「統計的に有意であった」と示す指標ではなく、データ全体の形を示すものにすぎません
よって、有意差を示す統計量を記述することが本来ならば求められますが、その記述が無い状態であると言えます

例えば、分散分析を行ったのであれば「○○の主効果が有意であり(F(2,34)=5.04, p<.05)~」などのような記述になります。

上記の「F」の箇所は、使用するF分布の自由度と、統計量Fの値を示しています。
この辺の説明はややこしいのですが、自由度の値を見て、その統計量が有意であったか否かを判断することになるので、これらを「結果」の中で記述するのは必須と言えます

また「p」は有意確率(p-value)を示しており、5%、1%、0.1%など様々な水準で行われます。
これは「その研究結果が何も要因が定められていない状態で生じる可能性」を示しており、その可能性が極端に低いということは「研究者が定めた要因によって、その結果が生じたと考えることができる」と言えるというわけです。
当然、こちらも単純に言えば「どのくらい珍しい結果なのか」という指標になりますから、「結果」に示すことが求められます

以上より、選択肢⑤は「結果」で示すべき内容であり、それが記述されていないという点で「結果」の記述の問題点と言えます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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