公認心理師 2018追加-62

2019年03月05日火曜日

84歳の女性の事例です。

事例の内容は以下の通りです。
  • 5年前にAlzheimer型認知症と診断された。
  • 現在、ミニメンタルステート検査〈MMSE〉が5点で、介護老人保健施設に入所中である。
  • 夜中に自室からスタッフルームにやってきて、「息子が待っているので自宅に戻りたい」と言い、廊下を歩きはじめた。
このとき、一般的に勧められる職員の対応として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

本事例を解く上で前提となる知識はMMSEのカットオフポイントですね。
MMSEでは、30点満点中21点以下で認知症の疑いとしますから、本事例の5点は認知症の進行が認められると捉えてよいでしょう。

また、介護保険施設は、介護保険サービスとして利用できる居住型の介護施設のことで、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設の3つがあります。
要介護認定を受けた人が利用でき、入居対象は、65歳以上または、特定疾病により介護を必要とする40~64歳の要介護者となります。

詳しい施設種については述べられておりませんが、MMSEのポイントから認知症が進行した84歳の女性であるという前提で各選択肢の検証を行っていきましょう。



解答のポイント


女性の言動の意味を踏まえた対応を取ることが求められていると自覚できること。
問題を抑え込むという対応が長期的にはマイナスが大きい可能性を理解しておくこと。



選択肢の解説


『①息子に連絡し、外泊をさせるよう依頼する』

「息子が待っているので自宅に戻りたい」と言っていますが、これは認知症の進行によって判断力の低下、理解力の低下、見当識の問題によって生じていると捉えるのが自然です。
もちろん、昼間に見舞いにきた息子がそのように言った可能性だって否定はできませんが、やはり夜中に言いだしていることなどを考えると上記のように認知症症状の文脈で捉えるのが妥当だと思われます。

こうした状況で息子に連絡することは、家族としても困るだけでなく、施設に対する信頼を損ねることになりかねません
夜中に何かを言い出したり動き出すことが施設に預ける要因になった可能性もあるので、施設にはこうした出来事への適切な対応が求められることになりますし、だからこそ預けるという形になっているとも言えるでしょう。

具体的には、こうした女性の行動の背景にどういう意味があるのかを見極め、それを踏まえた対応をしていくことが重要です(その対応については他選択肢で述べていきます)
いずれにせよ、女性の言葉をそのまま受け取って対応するのは適切とは言えません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。



『②頓用の睡眠薬を服用させ、徘徊による体力の消耗を避ける』

徘徊に対しては睡眠薬などによる対応を第一とするのではなく、徘徊行動の背景や原因を広くスタッフから意見を集め、分析し施錠せずとも徘徊を防ぐ方法を模索することが大切になります
本事例の場合、息子に会いたい、自宅に帰りたい、といった心情が推測できます(が、確定は現情報のみでは不可能です)。
スタッフルームに言いに来ている点からも、寂しさがあって訴えてきたという見方もできますね。

日中の様子がわからないので何とも言えませんが、睡眠薬のために翌朝の覚醒が悪かったり、歩行にふらつきが出て転倒の危険があるということも考えられます。
睡眠薬を飲むことのリスクというものも考えておくことが重要ですね。

もちろん、体力の消耗は避ける方が良いのでしょうが、睡眠薬で単純に眠らせれば良いというわけでもないでしょう。
自然に眠れることができている状態なのであれば尚更だと思います。

本事例は対応するのが職員であり、公認心理師とは言及されていません。
よって、公認心理師の考え方をそのまま援用できないとは思いますが、心理職の考え方として「症状を抑え込む」ような対応は不適切と感じます

もちろん、睡眠薬を服用することで予見される危険が回避できるのであれば問題ないのですが、その前に女性の行動の背景にある思いを汲み取り、それを踏まえた対応をすることもしてよいですし、それほど大きな手間とは思えません

いずれにせよ、女性の言動の意味を踏まえずに睡眠薬で眠らせようとするというのは適切ではないと思われます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



『③施錠できる安全な部屋に誘導し、保護の目的で扉を施錠する』

施錠しておかないと事例の女性に何かしらの問題が生じる可能性が予見される場合は、確かに施錠も検討する必要があります
例えば、施錠しておかないといつの間にか施設を抜け出してしまうなど、ですね。
本事例では、きちんとスタッフルームに来て訴えていますから、勝手に抜け出すといった事態になっていないことがわかります

事例の女性からは息子に会いたい、家に帰りたいという思いが見受けられますが、その背景には寂しさがあり、誰かと関りたいという思いも行動に含まれている可能性があります。
そう考えると、スタッフが何かしら関わりながら対応していくことが重要であり、特段施錠して保護せねばならないような言動であると見做すには早計だと思います

本選択肢の対応では、あまり女性の行動の意味を考えようとする姿勢が見られず、また、「施錠して終わり」という形になっており、選択肢②の睡眠薬の対応と本質的には同じのような気がします
すなわち、「抑え込み」という印象をぬぐえません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



『④息子は自宅に不在であることを説明し、自室に戻るよう説得する』

こちらの対応は現実検討力が十分に備わっている人への対応だと思われます。
現実を説明し採るべき行動をするよう説得する、ということなのでしょうが、事例の女性にそのような論理的判断が可能であると考えるには無理があるでしょう

何度も述べているように、女性の行動にも何かしらの意味があり、その意味を予測しつつ対応していくことが求められます
それは、女性の施設への適応を良くするでしょうし、行動の意味を汲んだ対応は女性の心理的安定につながるものだと考えられます

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。



『⑤しばらく一緒に廊下を歩き、「夜遅いのでここに泊まりましょう」と提案する』

先述したとおり、女性の言動の意味を考え、それに合わせた対応が必要です。
「しばらく一緒に廊下を歩き」というのは、上述したような寂しさの軽減につながる可能性があるでしょう
それを汲んだ対応を取ることで女性が落ち着き、後に続く「夜遅いのでここに泊まりましょう」という提案を受け入れやすくする可能性があります

もちろん「寂しさ」とかではなく、「施設にいることが嫌」という思いがあっての訴えかもしれず、その場合は「夜遅いのでここに泊まりましょう」という職員の提案を受け入れない可能性もあります。
ですが、こういう対応をすることで女性の言動の意味が絞りやすくなり、次なる対応を考えやすくなります
例えば、女性が施設に居やすくするための工夫を考える、などですね

こういった事例に限らずですが、現在のクライエントの情報から蓋然性の高い見立てをして、採りうる対応のうちで実施してもクライエントの害が少なくて済むものを選択し、実践後に見立ての再評価を行うということが大切だと思います
また「その対応を取らないことによるマイナス>その対応を取ることによるマイナス」となっていない限り、その対応を取ることは控えるべきだと思います。

他選択肢の睡眠薬や施錠は、それをすることで当面の問題は回避できても、事例全体の適応が悪くなるというマイナスの方が大きくなる可能性がありますよね
支援者に余裕がないと視野狭窄になるため、精神的にその日暮らしの状態となります。
すなわち「今の問題さえ解決できればそれでいい」という心理状態になりやすいので、環境的・心理的なゆとりのない職場では、上記のような行動を押さえるような対応になりがちです。

以上より、選択肢⑤が適切だと判断できます。

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3 件のコメント

  1. いつも勉強させていただいています。
    MMSEに詳しくないので、カットオフポイントについて教えてください。
    21点以下で認知症の疑い、とありますが、調べると23点以下というのもあり、27点以下は軽度の疑いというのもあり、普段MMSEを使っていないので余計わからなくなってしまいました。
    よろしくお願いします。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。

      MMSEですが、一般的には以下のように言われていますね。
      27~30点:正常
      22~26点:軽度認知症の疑いもある
      21点以下:どちらかというと認知症の疑いが強い
      …おそらくこちらで考えてよいだろうと思います。
      が、ご指摘の通り23点以下としているものも散見しますね(研究によっては27点で線を引いているものもある)。
      その理由を説明しておきましょう。

      こちらについてはまず、本検査の測ろうとしているものをしっかりと認識することが大事です。
      MMSEは認知症のスクリーニングに用いられてはいますが、実際は「認知機能の低下具合」を測っているわけです。
      単純に「認知症かどうか」を測っているのではありません。
      測られて数値化された「認知機能の低下具合」が認知症レベルになっている(統計学的に認知症と診断された人が示しやすい得点範囲内である)場合に、認知症である疑いがある、という解釈がなされるわけです。

      当然、22点~26点というグレーゾーンが設けられることになります。
      このグレーゾーンはどういうことか理解しておきましょう。
      これは、認知症と診断された人が「出すことがある点数」ではあるけど、認知症に至らない場合の人でも「生じる可能性がある点数」ということです。
      よってこれまでは、22点~26点の範囲内は「明確に認知症と言えるほどではないかもしれないけど、認知機能の衰えが数字上は見えている」ということになっていました。

      しかし、近年になって「軽度認知障害(MCI)」という概念が出てきました。
      MCIとは、健常と認知症の中間に属する、軽度の認知機能の障害を指します。
      この概念の提出により、健常とMCI、MCIと認知症のカットオフ値が必要となってきました。
      その結果、健常と軽度アルツハイマーのカットオフが23という数字が示されたわけです。
      巷で言われる「23」というカットオフ値は、上記のような流れによって生じたということですね。

      以上です。
      また気がつくことがありましたら、コメント頂けると幸いです。

      削除
  2. 詳しく教えて頂き、大変ありがとうございます。
    MCIカットオフが27で、アルツハイマーが23、認知症が21なのですね。
    数値が出ると意識してしまいますが、低下具合を見るスクリーニング検査であるという理解が大事だったのですね。
    勉強になりました!

    返信削除

About Me

小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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