公認心理師 2018追加-51

2019年03月16日土曜日

感情の諸理論に関する説明について、適切なものを2つ選ぶ問題です。

公認心理師2018-86の基本感情仮説に関する問題が、同じ領域の問題となります。
珍しく日本人の理論が選択肢に入ってきていますね。

基本的な内容~あまり教科書に載っていないような内容まで幅広い問題となっています。
12月16日実施の追加試験は、こうしたあまり知られていない内容が問われることが多かったように思います。
「あまり知られていない」と判断しているのが私の主観ですから、その辺の感覚は人によって違うのでしょうが。



解答のポイント


感情の諸理論について把握していること。
ザイアンス、シャクター&シンガー、ジェームズ=ランゲ、顔面フィードバック仮説などは基本なので押さえておきたい。



選択肢の解説


『①戸田正直は、感情は迅速な環境適応のために進化してきたと唱えた』

戸田正直は「アージ理論」を提唱しました。
一般に感情は非合理的、反知的なものとして認識されることが多いが、戸田は自然環境における適応に関しては本来合理的な機能をもつという前提にたって感情を理解しようと試みました。
人間の意思決定において、非合理な意思決定をさせるように見える感情・情動についての理論であり、進化論的な立場から、感情を認知システム全体との関連で捉えようとしています。

このような自然環境に適応するために進化してきた心的ソフトウェアは、アージ・システム(urge≒人間や動物を有無を言わせず駆り立てることや、その強い力・system)と呼称され、怒りアージや恐れアージ等の感情的なアージを中心に生理的アージや認知アージなどに分類されています。

現代人の祖先がまだ狩猟採集によって暮らしていた時代、平原を恐れ森の中で過ごした時代は、まだ他の動物による襲撃・捕食される危険も多く、非常に驚異的な緊急事態が常に周囲で多発していたはずであり、感情はこのような野生環境において生き延びるために非常に適応的だったと考えます。

人間は、野生環境で生き延びるために、4種類のアージを発展させてきました。
  • 維持アージ: 食や性など基本的な欲求に対応
  • 緊急事態アージ: 恐怖や不安など外界の脅威に対応
  • 認知アージ: 認知的情報を司る
  • 社会関係アージ: 協力や援助といった他人との係わりに関する
各々のアージは、それを発動させる「認知システム」「内的活動(行動の準備活動としての身体活性化・事態に対処する最適行動を選択するための集中的な情報処理)」「行動リスト」をもちます。

野生環境では合理的・適応的だったこのシステムも、文明が発達した現代社会においてはむしろ不都合なものになってきます
強度のアージは「今ここ」に強く注意を集中させますが、それは現代では近視眼的な対応になってしまい、長い目で見たときに不利益をもたらすようになってしまいます。

例えば、禁煙時にさまざまな身体反応(禁断症状)が生じます。
この際、「今ここ」の身体反応でタバコを吸うことはマイナスで、長期的に見れば吸わない方が適切なわけです。
しかし、遠い昔の人間からすれば禁煙時に生じるような禁断症状が生じたときに、それを治めるような方法があるならばそれを実践することが自然な行動になります。
つまり、現代の考え方からすれば吸ってしまうのは不合理な行動ですが、遠い昔の人間が置かれていた自然環境下ではむしろ吸うのが合理的な行動であったといえます。

アージ理論では、人間が感情的で非合理的な判断を行ってしまうのは、人間の心の進化よりも文明の進歩の方が早く、未だヒトの心の進化がそれに追いついていないためであると考えます
このような観点から、急激に変化する現在とこれからの未来社会を個人としてのヒト、そして種としてのヒトが生き延びるには、人間が自らの心の働きを知り、人間社会の相互作用を解明する必要があると考え、その成果を活かして新たな社会システムを考察し、採用していかなければならないとしています。

すなわち戸田は、感情が自然環境に適応するよう非常に合理的に発達していったものと捉えているわけです。
そして、それが不合理に見えるのは、文明発達がこころの発達の先を行き過ぎていると考えています
以上より、選択肢①は適切と判断できます。



『②S.Tomkinsは、血流変化によって感情の主観的体験が説明されると唱えた』

トムキンスは、感情は顔面筋と腺の活動の生得的な反応パターンの中枢へのフィードバックの結果として生じるという「顔面フィードバック仮説」を提唱しました
この研究では、被験者が自然と笑うように仕向け(ペンを口にくわえさせる)、漫画の面白さを評定させました。
末梢から中枢へのフィードバックが感情経験を喚起するという点で、ジェームズ=ランゲ説と類似しています。

選択肢の「血流変化」ではなく、「顔面筋」のフィードバックによって感情の主観的体験が説明されると考えたのがトムキンスです
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

トムキンスの弟子であったIzardは「心理進化説」を、Ekmanは「神経文化説」を唱えました。
エクマンら(イザードなど)は、表情研究からヒトは系統発生的に連続した、文化普遍的な「基本感情」を持つと主張しました。
基本感情の種類は、怒り・嫌悪・恐れ・幸福感・悲しみ・驚きの6種類(最近は軽蔑も加えて7種類)とされています。

エクマンの「神経文化説」は、基本感情は文化普遍的だが、どのような場面でどのような表情をするかは集団によって異なるという考え方です。
それぞれの文化で感情表出のルールを学習し、それに従って表出するとし、このルールのことを「表示規則」と呼びます。



『③B.L.Fredricksonは、負の感情が注意、思考、活動等のレパートリーの拡大や資源の構築に役立つと唱えた』

Fredricksonって聞いたことあるなと思って調べたら「ヒルガードの心理学」の著者の一人でしたね。
「ヒルガードの心理学(第14版;第15版は見てないのでわかりません)」の人名索引にFredricksonの名前はありませんでしたが、「拡張=形成理論」で検索すると見つかります(自分が書いた本に自分の名前を載せないのは謙虚さ故なのでしょうか?)。
以下はその部分をまとめたものになります。

「拡張=形成理論」では肯定的な感情の形態や機能が論じられています
否定的な感情の一つの効能は、特定の仕方で行動させるような強い衝動を起こすことです。
すなわち、怒っているときに戦い、恐れているときに逃げ、むかつくときに唾を吐く、という感じに。
それぞれに異なる行動に駆り立てられるとなれば、否定的な感情は思考や行動を狭めていることになります。

対して肯定的な感情は相補的な効果を持っており、私たちの思考や行動を広げてくれます。
喜びは遊ぼうとする衝動を、興味は探求しようとする衝動を、満足は楽しもうとする衝動を生み出します。
更に、愛はこれらのそれぞれの衝動の循環を生み出します。

これらの効能は、肯定的な感情が私たちの典型的な思考の仕方や世の中でのあり方を拡大し、私たちをより創造的で、好奇心旺盛で、他者との結びつきが深い存在へと向かわせることになります

この理論の重要な点として、肯定的な感情はそれが無くなった後でも、長期間持続することがあり得るということです
「拡張=形成理論」では、肯定的な感情が典型的な思考や行動の仕方を広げ、このことが、更に永続的な個人的資源を作り上げるとされています

選択肢の内容は「負の感情」という点が誤りであり、逆の内容になってしまっています。
この理論を知らなくても、選択肢の文章を読んで違和感を覚えることはできそうですね。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



『④R.B.Zajoncは、感情反応は認知的評価に先行し、感情と認知はそれぞれに独立した処理過程であると唱えた』

ザイアンスは、認知と感情は独立した体系であり、認知が関与しなくとも感情は生み出されると主張し、その根拠として「単純接触効果」を挙げました
彼は、サブリミナルなレベルで絵やメロディを提示したとしても、その好意度が上がるということを示しました。
単純接触効果とは、繰り返し接することでその対象への好意が高まる現象を指し、この研究以来、人物、商品、図形、音楽など広範な刺激において単純接触効果が生じることが確認されています。
このことは、認知と感情の独立性を示す証拠とザイアンスは考えました

一方で、刺激や状況を認知することが感情生起にとって重要であることを示す証拠もあります。
ラザルスは、不快感情生起において、まず「刺激が有害か有用かを評価」(一次的評価)し、その刺激の対処可能性を評価(二次的評価)する過程を経ると論じ、両者の間で「ラザルス‐ザイアンス論争」を展開しました。

ザイアンス説とラザルス説は、一見対照的なものに見えますが、ラザルスの一次的評価では意識されない無意識的処理も含まれます
つまり、無意識的処理を認知とするかどうかの解釈の違いによって対照的に見えているだけで、真っ向から対立する説とは言えないわけです

以上より、選択肢④は適切と判断できます。



『⑤S.SchachterとJ.Singerは、環境の変化と身体活動の変化によって感情の主観的体験が説明されると唱えた』

感情における認知的評価の重要性はSchachter&Singer(シャクター&シンガー)の「二要因理論」で注目を集めました
感情は二つの要因の組み合わせ、つまり、「①まだ説明されていない覚醒状態(身体の状態)」に、その覚醒に対する「②認知的説明が加わって」生じると主張しました
自分の興奮を説明できる場合、状況に左右されにくいということですね。

シャクター&シンガーは、エピネフリン(アドレナリン)を注射し、それにより生じる身体的変化を正確情報を与える群と与えない群に分けた時、正確情報群は周囲の環境に左右されず、感情変化を経験しませんでしたが、無情報群は自分が置かれている状況を解釈することによって生理的変化にラベル付けを行っていることが示されました。

この考え方は選択肢④で示したラザルスの説につながっていきます。
すなわち、認知的評価が感情の生起にとって決定的に重要であるとする説です。

シャクター&シンガーの理論は、選択肢にある「環境の変化と身体活動の変化によって感情の主観的体験が説明される」という内容とは合致しません。
正しくは「環境の変化や身体活動の変化をどう認知するかによって、感情が生じてくる」ということですね
では、この内容に該当する理論は何か考えていきましょう。

まず浮かぶのが「ジェームズ=ランゲ説」です。
JamesとLangeは、まず生理的変化が生じ、感情的経験が生じると考えます。
「悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しい」というのは有名な言葉ですね。
末梢神経系のある特定の生理的変化の解釈が特定の感情を生み出すと考えたわけです。
ちなみにシャクターの2要因説は、ジェームズ=ランゲ説を修正したものです。

ですが、ジェームズ=ランゲ説の場合、選択肢にある「環境の変化」という表現が合致しません。
環境の変化などを踏まえているのは、ラザルスの一次的評価(現在の状況を①無関係、②無害-肯定的、③ストレス、のいずれかに区別する)になりますが、それ以外の記述は合致していません。

もしかしたら別の理論を持ってきているのではなく、シャクター&シンガーの理論内容をいじった問題である可能性もあります。
選択肢の内容の理論をご存知の方はコメント頂けると幸いです。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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