公認心理師 2018追加-102

2019年03月31日日曜日

境界性パーソナリティ障害〈情緒不安定性パーソナリティ障害〉の特徴について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

情緒不安定性パーソナリティ障害という表現は、ICD-10のF60.3情緒不安定性パーソナリティ障害で見られます。
下位分類であるF60.31の境界型において、さらに「境界型パーソナリティ(障害)」を含めると記されていますね。

かつては精神病と神経症の「境界」に位置しているという認識から、「境界例」と呼ばれていました。
その表現が現在にも残っているということです。

境界性人格についての説明は、精神分析学で多くなされています。
メラニー・クライン、ジェームズ・F・マスターソン、マイクル・バリント、ジェラルド・アドラーなどの著作が有名ですね。
もちろん他の学派からの説明も多く見受けられますが、私自身は、境界性人格に関しては精神分析学の考え方に沿った対応を採ることが多いです。
ですので、ここでの解説もそうした知見を背景に書くことになるかもしれません。

ただ、本問に関しては診断基準を把握しておけば解けるものになっています。
長い歴史の中での知見をしっかり把握していなければ解けない内容というわけではないので、それほど難解な問題ではないと言えますね。



解答のポイント


各パーソナリティ障害の診断基準を把握していること。



選択肢の解説


『①他人の権利を無視し、侵害する』

DSM-5におけるパーソナリティ障害はA群・B群・C群に分類され、それぞれ3~4の障害が規定されています。
ざっくりと説明すると、A群は奇妙で風変わりな群(統合失調症に近い群)、B群は演技的・感情的で移り気な群、C群は不安で内向的な群とされています。

選択肢①の内容は、B群の反社会性人格障害のものになっています。
反社会性人格障害の診断基準は以下の通りです。

A.他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以上で起こっており、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 法にかなった行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。
  2. 虚偽性、これは繰り返し嘘をつくこと、偽名を使うこと、または自分の利益や快楽のために人をだますことによって示される。
  3. 衝動性、または将来の計画を立てられないこと。
  4. いらだたしさおよび攻撃性、これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
  5. 自分または他人の安全を考えない無謀さ。
  6. 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
  7. 良心の呵責の欠如、これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり、これを正当化したりすることによって示される。
B. その人は少なくとも18歳以上である。
C. 15歳以前に発症した素行症の証拠がある。
D. 反社会的な行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中のみではない。

上記の通り、選択肢の内容は反社会性人格障害の中核的な特徴として規定されています。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

ちなみに反社会性人格障害は、反抗挑戦性障害、素行障害などとの関連も重要になってきます。
徐々に攻撃の対象が社会全体になっていくような気がします。



『②他人の動機を悪意あるものとして解釈する』

本選択肢の内容はA群の妄想性パーソナリティ障害の診断基準として規定されています。
以下が診断基準になります。

A. 他人の動機を悪意あるものと解釈するといった、広範な不信と疑い深さが成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 十分な根拠もないのに、他人が自分を利用する、危害を与える、またはだますという疑いをもつ。
  2. 友人または仲間の誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。
  3. 情報が自分に不利に用いられるという根拠のない恐れのために、他人に秘密を打ち明けたがらない。
  4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると読む。
  5. 恨みを抱き続ける(つまり、侮辱されたこと、傷つけられたこと、または軽蔑されたことを許さない)
  6. 自分の性格または評判に対して他人にはわからないような攻撃を感じ取り、すぐに怒って反応する、または逆襲する。
  7. 配偶者または性的伴侶の貞節について、繰り返し道理に合わない疑念をもつ。
B. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、または他の精神病性障害の気渦中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

妄想性パーソナリティ障害以外のA群に属する人格障害である、シゾイドパーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害などでは、社会的場面や対人関係場面における孤立感や関係形成の困難さが中心の診断基準になっています。
他人の動機を悪意のあるものと解釈するというのは、妄想性パーソナリティ障害の中核的特徴として規定されていると言えますね
実際は、その辺の境界線は曖昧なものですが。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



『③過度な情動性を示し、人の注意を引こうとする』

こちらはB群の演技性パーソナリティ障害の診断基準となっています。
診断基準は以下の通りです。

過度な情動性と人の注意を引こうとする広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない。
  2. 他者との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的な、または挑発的な行動によって特徴づけられる。
  3. 浅薄ですばやく変化する感情表出を示す。
  4. 自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる。
  5. 過度に印象的だが内容がない話し方をする。
  6. 自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情緒表現を示す。
  7. 被暗示的(すなわち、他人または環境の影響を受けやすい)。
  8. 対人関係を実際以上に親密なものと思っている。
上記からもわかるとおり、かなり派手な(目立つ)印象をもたれると思います。
こうした目立つ群はB群にまとめられていますので、B群それぞれのパーソナリティ障害の弁別ができるようにしておくことが大切ですね

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



『④社会的関係からの離脱と感情表出の範囲の限定が見られる』

こちらはA群のシゾイドパーソナリティ障害の診断基準に規定されています。
診断基準は以下の通りです。

A. 社会的関係からの離脱、対人関係場面での情動表現の範囲の限定などの広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち4つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 家族の一員であることを含めて、親密な関係をもちたいと思わない、またはそれを楽しいと感じない。
  2. ほとんどいつも孤立した行動を選択する。
  3. 他人と性体験をもつことに対する興味が、もしあったとしても、少ししかない。
  4. 喜びを感じられるような活動が、もしあったとしても、少ししかない。
  5. 第一度親族以外には、親しい友人または信頼できる友人がいない。
  6. 他人の賞賛や批判に対して無関心に見える。
  7. 情動的冷淡さ、離脱、または平板な感情状態を示す。
B. 統合失調症、「双極性障害または抑うつ障害、精神病性の特徴を伴う」、他の精神病性障害、または自閉スペクトラム症の経過中にのみ起こるものではなく、他の医学的疾患の生理学的作用によるものでもない。

上記の通り、選択肢の内容はシゾイドパーソナリティ障害の基準となっています。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。

よく質問されることがシゾイドパーソナリティ障害と統合失調型パーソナリティ障害の違いです
試験に向けてもきちんとその違いを把握しておくことが大切ですね。
統合失調型パーソナリティ障害の診断基準は以下の通りです。

A. 親密な関係では急に気楽でいられなくなること。そうした関係を形成する能力が足りないこと。および認知的または知覚的歪曲と行動の奇妙さのあることの目立った、社会的および対人関係的な欠陥の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)によって示される。
  1. 関係念慮(関係妄想は含まない)
  2. 行動に影響し、下位文化的規範に合わない奇異な信念、または魔術的思考(例:迷信深いこと、千里眼、テレパシー、または“第六感”を信じること:小児および青年では、奇異な空想または思い込み)。
  3. 普通でない知覚体験、身体的錯覚も含む。
  4. 奇異な考え方と話し方(例:あいまい、まわりくどい、抽象的、細部にこだわりすぎ、紋切り型)。
  5. 疑い深さ、または妄想様観念。
  6. 不適切な、または限定された感情。
  7. 奇異な、奇妙な、または特異な行動または外見。
  8. 第1度親族以外には、親しい友人または信頼できる人がいない。
  9. 過剰な社会不安があり、それは慣れによって軽減せず、また自己卑下的な判断よりも妄想的恐怖を伴う傾向がある。
B. 統合失調症、「気分障害、精神病性の特徴を伴うもの」、他の精神病性障害、または広汎性発達障害の経過中にのみ起こるものではない。

こうした特徴があり、両者の違いとしては、関係念慮を有するかなどが診断基準上は見受けられます。
ただ、勉強していく上で大切なのは「なぜそのような違いが生じるのか」について、一定の見解や仮説を持ちつつ進めていくことだと思います。

私の見解としては、シゾイドパーソナリティ障害は「他者との関係を結ぼうとしない」のに対して、統合失調型パーソナリティ障害では「他者と関わりたいがうまく関わることができない」ということだと考えています。
実際に統合失調型パーソナリティ障害では、関わろうとはするけど、風変わりで、疑い深くなってしまい、奇異な言動があることによってうまくいかないという診断基準の内容になっています。

生活臨床では、自分から積極的に社会活動をしようとする「能動型」と呼び、言われたことを与えられた枠の中で気のなさそうに活動する「受動型」という分類があります。
実際上は、能動型が妄想を有していることが多く、受動型が非妄想型と重なる部分が多いです。
これに沿って上記のパーソナリティ障害を分けると、統合失調型パーソナリティ障害が「能動型」であり、シゾイドパーソナリティ障害が「受動型」ということになるのかもしれません。

能動型では積極的に社会活動をしようとして自身への負担が大きくなってしまいますが、統合失調型パーソナリティ障害に関係念慮等の妄想的な認知が入ってくるのは、そういった無理が影響しているのかもしれません。



『⑤対人関係、自己像及び感情の不安定と著しい衝動性を示す』

こちらの内容はB群の境界性パーソナリティ障害のものになっています。
診断基準は以下の通りです。

対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。
  1. 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
  2. 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
  3. 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
  5. 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
  6. 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
  7. 慢性的な空虚感。
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。
診断基準にある「見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力」についてはマスターソンが細やかに記述していますし、「理想化と脱価値化との両極端に揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式」についてはメラニー・クラインやオットー・カーンバーグなどの理論に詳しく記載されています。

ここでは長くなるので上記の理論家たちの見解の紹介は止めておきますが、きちんと彼らの理論を理解しておくと、境界性パーソナリティ障害者の示す複雑なコミュニケーション様式への準備と対応がしやすいのではないかと思っています。

理論的な説明をわかりやすく細やかにされている上に、その治療についてご自身の体験の積み重ねを凝縮させたような内容になっているのが、成田善弘先生の「青年期境界例」です。
境界性パーソナリティ障害者への治療を行う人だけでなく、臨床をやっている人に読んでほしい本です。
なぜなら、こういった境界例の心性というのは特別なものではなく、人に備わっている様々な心的機能や発達が未成熟だったりこんがらがったりしていることで顕在化してくるものだからです。
こういった心性はどのような人と関わっていても、念頭に置いておかねばならないものだと思っています。

上記の通り、境界性パーソナリティ障害の診断基準の最初に出てくる文言と選択肢の内容は合致します。
よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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