公認心理師 2018追加-60

2019年02月07日木曜日

28歳の女性Aの事例です。

事例の詳細は以下の通りです。
  • バスで通勤中、突然、激しい動悸と息苦しさに襲われ、強い不安を感じた。
  • 途中のバス停で降りてしばらく休んでいたら、落ち着いたので、その日は会社を欠勤し帰宅した。
  • その後、繰り返し同じ発作に見舞われ、また発作が起こるのではと不安が強くなった。
  • バスに乗るのが怖くなり、家族に車で送ってもらわないと出勤できなくなった。
  • やがて外出することも困難となったため、医師の紹介で相談室を訪れた。
Aに対する認知行動療法として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

Aには「パニック発作」があると推測できます。
あくまでも「推測」なのは、パニック発作と確定するためにはDSM-5において4つ以上の症状が認められることが要件となりますが、事例では「動悸」と「息苦しさ」しか見られません。

そして同時に「広場恐怖症」の可能性もあります。
これもあくまでも可能性にすぎません。
状況の要件を満たしてはいませんので。

いずれにせよ、不安症群/不安障害群に属する問題であることは明確だと考えてよいでしょう。
こうした障害に対して第一選択となる認知行動療法の方法論に関する問題ですね。

なお、公認心理師2018-151が類似問題です。
併せて確認しておきましょう。



解答のポイント


不安関連障害群に対してエクスポージャーが第一選択であることを理解していること。
エクスポージャーの基本的な考え方を理解していること。



選択肢の解説


『①イメージは用いず、現実的な状況を段階的に経験させる』

事例の状態に対しては、エクスポージャーが第一選択だと思われます。
エクスポージャーは曝露療法と訳され、不安場面に曝すことが不安の消去に有効であるという知見に基づく治療法です

この不安場面に曝す場合のやり方はいろいろですが、一般にイメージよりも現実的な状況を段階的に経験させた方が効果が高いとされています。
しかし、現在のAの状況を鑑みると、「やがて外出することも困難となった」とあるようにかなり不安が強く、現実的な状況を段階的に経験させるという方針が採りにくいことが予想されます

よって、まずは不安を喚起するような状況をイメージしてもらい、その不安に直面してもらうことから始めるのが入口としてはやり易いと考えられます
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



『②不安な気持ちに共感し、安全な行動をとるようにさせる』

Aの強い不安は、そもそも「対象がはっきりしない」というものであり、その背景には「死への恐怖」があるという意見も多いです。
その是非はともかくとして、少なくとも本人にも周囲にも「よくわからない不安」に見えるということは言えます。
このような種類の不安であることは、選択肢にあるような「不安な気持ちに共感し」ということが困難であると考えることができます。

また、不安障害のクライエントに「安全な行動をとるようにさせる」というのも適切ではありません。
そもそもAは「安全な行動を取った結果」として、家の中しか安全と感じる場所が無くなってしまったわけです

安全感とは「不安が無い状態」ではなく、「不安があっても大丈夫な状態」です。
不安を取り除くような支援は長期的な予後が悪く、この事例のようにごく狭い範囲でしか生活できなくなることも多いようです

エクスポージャーやフラッディングなどの支援法は、乱暴に約せば不安に曝させ、慣れさせるというものです。
この支援法が有効であることからも「不安をとりのぞく」という方針には瑕疵があることがわかると思います

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



『③一人での練習は危険を伴うため、ホームワークは用いない』

不安に曝され、慣れるというためには、繰り返しの練習が欠かせません。
どこか筋トレに似ているところがあるように感じます。
耐えられる範囲の負荷をかけ、休息を経ることで以前よりも筋力がアップするように、不安という負荷をかけて慣れさせることで以前よりも不安の受け皿が広く厚くなるようなイメージです

こういった練習は、面接時のみに行うことも考えられますが、可能であればホームワークでクライエントができる範囲のことをやってもらうことが多いでしょう。
あくまでもクライエントができる範囲のことをやってもらうものなので、「一人での練習は危険が伴う」ということが無いようにすることが前提です

単にエクスポージャーをしてもらうだけでなく、リラクセーションや拮抗動作法といった不安に処理することのできる具体的な対処方法を練習してもらう場合もあるでしょう

きちんとクライエントにこの治療法の狙いを説明し、最初に面接内で実践してみた後でホームワークも併せてしてもらうのが一般的です
ちなみに、一般的なカウンセリングの中で「不安に感じたことを覚えておいて話してもらう」もエクスポージャーのマイルドな実践であると考えてよいでしょう。
不安に感じたことを覚えておくという時点で、すでに「曝露」と捉えることができますから。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



『④発作の前兆である身体症状を意図的に作り出し、経験させる』

こちらの選択肢はユニークな表現をしていますが、エクスポージャーの一種を指した表現になっています。

「内部感覚エクスポージャー」という方法があって、わざと動悸や息苦しさ、気分の悪さを経験するようにします
すなわち、意図的に発作を起こし、その発作に慣れるようにしていくわけです。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。
しかし、この選択肢の表現には誤りとがあると考えています。

文章表現から見ても「発作=突然、激しい動悸と息苦しさに襲われ、強い不安を感じた」と捉えることが自然であり、そうなると選択肢にある「発作の前兆である身体症状」が何を指しているのかわからなくなってしまいます
「前兆」と表現するわけですから、動悸・息苦しさ(発作)の「前」に何かしらの身体症状の記載が必要になるはずですよね。

普通エクスポージャーを想定するならば「発作の前兆である身体症状」は、「激しい動悸と息苦しさ」だろうと思います
ですが、そうなると「発作」とは何が該当するのかわからなくなります。

つまり、選択肢では「発作」と「身体症状」を分けて論じていますが、この事例における「発作」は「身体症状」とイコール関係にあるように読めるのです。
(DSM-5の記載においても、動悸や息苦しさはパニック発作とイコール関係にあるはずです)

これらのことから、あるべき選択肢表現は「発作時に生じる身体症状を意図的に作り出し、経験させる」となるのではないかと考えます。



『⑤より機能的な考え方に修正できるよう、リラクセーション法は用いない』

まず事例内に歪んだ認知・考え方に関する記述が見られません。

ただし、パニック障害の患者には特有の認知的特徴が認められるとはされています。
例えば、パニック障害患者には、多くの人にとって普通に生じているできごと(たとえば、心臓がドキドキする、呼吸がいつもより速くなる)を、自らを死に至らしめる「危険で最悪の事態である」と誤って情報処理するという「危険信号」の誤った学習が生じていることや、パニック発作はある身体感覚を破局的に誤解するところから生じるということが指摘されています。

また選択肢後半の「リラクセーション法は用いない」という点についても、不適切です。
パニック関連障害の支援にあたって、リラクセーション法は 身体反応のコントロール法の練習の一環として行われることが多いです。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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