NEO-PI-Rの臨床心理学領域一般の使用頻度がどの程度なのか、ちょっとわかりませんが私にはあまり馴染みがありません。
こういった検査は、臨床領域だけでなく地域によって使われる頻度がかなり違うという特徴がありますので、その辺の正確な情報は掴みにくいですね。
私は、NEO-PI-Rに関する設問は、検査として知っているか否かを問うている問題ではないと考えています。
NEO-PI-Rの成立過程は、特性論の歴史、BigFive等の成立過程と並行しており、これらと抱き合わせで理解しておくことが重要になります。
NEO-PI-Rについては、公認心理師2018-8の選択肢③で一度出題されています。
過去問を細かく復習していたなら、サービス問題だったと言えるでしょう。
NEO-PI-Rの記述はありませんが、過去に特性論について記事を書いています。
多少は参考になるかと思います。
解答のポイント
NEO-PI-Rの成立過程を特性論の歴史の流れで把握していること。
下位次元の内容を把握していると望ましい。
選択肢の解説
『①G.W.Allportが開発した』
『②人格の類型論が背景にある』
NEO Personality lnventory (NEO-PI)はCosta&McCrae(1985)の一連の研究に基づいて開発されたものであり、人格の生涯発達的研究を視点に入れた新しい検査です。1978年から10年間にわたり研究、開発されてきたものであり、人格の5因子モデル(いわゆるBigFiveですね)に基づいています。
BigFiveは特性論の代表的研究です。
すなわち、NEO-PI-Rは、健康な成人の人格特性の5つの主要な次元を測るための尺度と言えます。
(NEO-PIがNEO-PI-Rに改良された経緯は後ほど別選択肢で)
ここでなぜオルポートの名前が出てきたのかを理解しておきましょう。
オルポートは特性論の代表的研究者であり、基本的辞書仮説(重要な特性は必ず自然言語に符号化されているはず)をもとに、辞書に掲載されている性格表現用語として約18000語を抽出した上で、これを整理・分類し4504語を主要な性格表現用語としてまとめました。
しかし、これを適切に処理する方法が見つからず、長く放置されることになります。
その後、因子分析という科学的方法が盛んになったことで、手つかずになっていた特性語のまとまりが分析され、5因子が共通して見出されるようになりました。
ゴールドバーグはこれらの因子を、以下のように解釈・命名し「Big Five」と呼びました。
- 外向性:対人関係や外界に対する働きかけにおける積極性を示す。
- 調和性:対人関係における共感性や思いやりに関わる。
- 勤勉誠実性:仕事面におけるセルフ・コントロールや責任感に関わる。
- 情緒安定性(神経症傾向):情動における安定性。
- 知性(開放性):知的関心における開放性を示す。
Costa&McCraeも同様に、5因子モデルを提唱し、それを細かく検証して下位次元を設定することでNEO-PI-Rの開発を行いました。
ゴールドバーグのBigFiveと、コスタ&マクレ―の5因子モデルはほぼイコールの関係にあります。
ただ、成立過程に若干の違いがあり、ゴールドバーグは先述したとおり、基本的語彙仮説と統計処理(因子分析)を中心として導かれたモデルです。
それに対して、コスタ&マクレーの5因子モデルは、理論的なアプローチを通したパーソナリティの階層構造(下位次元がある)を強調したモデルになります。
でも、コスタ&マクレーも因子分析を使っているので、やはり大差はないのかな…と思ってしまいますが、その辺の詳しいところまでは調べ切れていません。
やはり、下位次元を設定しているなどの違いは大きいのだろうと思います。
このように、オルポート→BigFive(ゴールドバーグ)≒5因子モデル(コスタ&マクレー)→NEO-PI-Rという流れがあるので、ある種のひっかけ問題としてオルポートの名前が出ているわけです。
NEO-PI-Rが特性論を基にしていることを知っていると、特性論→オルポートという連想をしてしまいがちです。
そういう人を引っかけようとしている選択肢と言えます。
(オルポート?誰それ?という人は引っかからないかもしれないですね)
試験問題には「知らないと解けない問題」だけでなく、ここで示されたような「ある程度勉強している人が引っかかりやすい問題」もあるので要注意です。
以上より、選択肢①および選択肢②は誤りと判断できます。
『④敵意は外向性の下位次元に含まれる』
『⑤各人各次元にはそれぞれ2つの下位次元がある』
測定される次元は5つで、各次元はさらに6つの下位次元から構成されており、包括的な人格の測定を可能にしています。1つの下位次元には8つの評定尺度があります。
5次元とそれぞれの下位次元は以下の通りです。
- 神経症傾向:不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ
- 外向性:温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、よい感情
- 開放性:空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値
- 調和性:信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ
- 誠実性:コンピテンス、秩序、良心性、達成追求、自己鍛錬、慎重さ
すでに示した通り、この5次元はコスタ&マクレーが提唱し、詳細な下位次元を定めました。
上記の通り、「敵意」は外向性ではなく神経症傾向に含まれていますね。
以上より、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。
『③誠実性と調和性は後から加えられた』
NEO-PI-Rの開発は、人格における個人差のすべての主要な側面を測定でき、かつ多目的に 使用可能な検査を作ることを目的として始められました。この検査の開発経緯は以下の通りです。
開発当時はBigFiveについての統一的見解は出ていませんでしたが、McCrae&Costaはこ れらの体系を比較、検討して行く中で、人格の分類の仕方や捉え方はそれぞれ異なるが、特に神経症傾向と外向性という高次の因子が存在することに関しては意見の一致がみられ ると考えました。
その点から、神経症傾向と外向性はより広いクラスターとして、その下位次元に分類・分割できると考えたのです。
そうした視点より、まずは人格特性を定めてそれらを下位次元に分類していくという作業を行いました。
このようなやり方をもって、神経症傾向と外向性に加え、開放性という第3の次元を加えました。
そして3次元と18の下位次元を特定し、NEO-PIおよびNEO-PI-Rの前身であるNEOインベントリーを開発しました。
その後、1983年にNEOインベントリーに調和性と誠実性の次元が追加され、1985年に神経症傾向・外向性・開放性の次元スケール+下位次元スケールおよび調和性・誠実性の次元スケールから成るNEO-PIが刊行されました。
更に1990年には調和性と誠実性の下位次元スケールも作成され、NEO-PI-Rとして1991年に刊行され、現在に至っています。
こうした流れで、コスタ&マクレーは5因子モデルを洗練させていきました。
以上のように、誠実性と調和性が1983年に加えられたということが言えます。
よって、選択肢③は正しいと判断できます。
6つの下位次元、出題者全て答えられるのか❓
返信削除こんな重箱の隅的問題出す、意味がわからん。
同感
返信削除たまたま見つけたので書き込みます。
返信削除私は心療内科医ですが、臨床心理士を病院でどのように活用してあげればよいか、いつも困ってしまうのです。
大半の心理士は、心理的援助や介入の能力が、こちらが期待するほど高くはないからです。
私は14年目の心療内科医ですが、不登校なり、いじめっこなりいじめられっこなり、介護負担なり、夫婦関係、親子関係、嫁姑関係なり、職場の人間関係なり、将来の不安なり、いわゆるトラウマなり、過去の後悔なり、何であれ、おなじクライアント/患者を目の前に登場させ、よーい、どんで臨床心理士と勝負したら、心理的援助のスピードも質も、まあ勝負にならないでしょう。勝率は9割5分くらいじゃないかな。当の心理士本人はいろいろ自分のカウンセリングについて理屈はこねるでしょうが、実効性については、現場の実感としてそのくらいの差はありますよ
(もちろん薬を使う必要のない患者/クライアントとしての話ですよ)
だから、(これは全く褒められたものではない、申し訳ない話ですが)、医師は、心理士を心のどこかで、疎んじていたり、馬鹿にしていたりするところがあります。そりゃそうでしょう、医師の多くは子供のころからお受験で脳みそだけは鍛え上げられてきた人々です。学部だけで6年間学び、国家試験に合格し、その後数年臨床経験を積んだ後、ほとんどの医師は4年間大学院に行きます。並行して、専門医取得のために確立された制度の中で、臨床面もいやおうなく鍛え上げられます。それでもまだまだ勉強不足を痛感し、日々鍛錬します。しないと患者から訴えられるかもしれないからです。重箱の隅的なことも、知ろうという努力を怠ったら、裁判でまけるからです。
そういう、いやおうなく鍛えあがられたような人々が、学部卒か、それに加えて大学院で研究して日本語論文かいた、くらいの心理士と、一緒に仕事してるんです。同じ臨床現場で患者について意見を求められて、対等に意見をいうだけの自信が、あなたにありますか。
もう少し、具体的な話をしましょう。
例えばいま私の隣にいる心理士はわりと臨床経験豊富な若手なのですが、彼女の経歴は以下のようなものです
・大学4年卒(臨床心理学専攻) 机上での勉強+事例検討、学生同士で架空事例で研修
・大学院卒 指導教官について論文作成。心理テストの集計、統計解析。論文は日本語で作成。英語論文読むのは苦手で、必要に迫られないとやらない
・卒後2年間、非常勤で子供の知能検査。
・その後2年 常勤で子供の知能検査+遊戯療法のようなものをする毎日
・その後、当院採用。自律訓練、カウンセリング、心理テストなどをやっていますが、カウンセリング時間は年間200時間程度(これでも恵まれています)
これで、いま彼女は30歳です。
(なお、いま一人目がお腹にいます。おそらく彼女がフルに仕事に復帰するのは40歳くらいでしょう。それでフルに働いで、カウンセリング経験時間は上記くらいです。)
一方私は今36歳で、12年目の医師です。外来での会話をカウントせず、50-60分のカウンセリングだけ数えても、週9-10時間、年間450-500時間として、今5000-6000時間くらいの経験をしています。外来を入れれば倍くらいになります。
心療内科医と心理士の経験値が、いかに違うか分かるでしょう。あなたは男性のようですから、妊娠の話は関係ないですが、いずれにせよ経験値の差はこれだけあるということです。これで力の差がつかないはずがありません。
そういう人々に囲まれて、あなたはプロとして、やくにたたなければならないのです。
(心理士の職場は病院ではありませんが、病院は一つの大きな就職先候補です)
反発して、こういうことをいう心理士がいます「我々にとっては、改善している症例が、医師には改善していないように見えるだけだ」
まあ、これに対しては「ここは病院で、治療の責任は医師がおっているのだから、何をもって改善とするかも医師が決める」というようなことも言えてしまうんですが(それはそれで大切な視点です。法をおかしてはいけません)、それはおいといて、私はつぎのように言います。
あのね、私は心療内科医ですから、医学的治療の枠組み・治療目標と、心理学的援助(カウンセリング・心理療法)の枠組み・治療目標の違いくらい、知り尽くしています。
私のカウンセリングをお見せしますから、見た後で本当にそう思うか、聞かせてください。
実際お見せすると、ほとんどの心理士は納得してくれます。感想を聞くと以下のようなことを言います。
「心理学っていろんな流派があって各流派で違うこと言うから、自分の頭の中が混乱していたことに気づきました。先生みたいに、一貫して一つの方向に向かうようなカウンセリングができるようになりたいけど、どうすればそうなるのかが分からない」
ね。
私は心療内科医なので、いろんな心理学流派を学んで混乱する、という経験も、すでにつんでいるんですよ。多くの心理学流派だけでなく、医学も学んでいますから、あれこれまなぶとわけわからなくなる、という彼女たちの悩みは、彼女たち以上によくわかります。
同じように悩んで、自分でもがいて、試行錯誤して、結論として「一つの流派に一時期没頭して、ある視点からすべてを見渡せるようになったほうがいいんだ。そのうえで、自分の軸となる流派の方法と比較する形で、他の流派を見てみると、頭が整理されるんだ」というのを、学んできた歴史がありますから。
それがわかると、カウンセリングの効果は、爆上がりしますよ。こちらの頭に「整理箱」がきちんとあれば、クライアントが何を言っても、それをどの箱に入れて、どう処理していけば、最終的に向かうべき方向に向かっていけるか、迷いませんから。
心理士の置かれた環境と我々の置かれた環境の違いにもよるので、責めるつもりはないし、むしろ気の毒ではあるのです。
けれど、事実として、心理士は心理士としての修行を十分つむ環境にいません。気の毒ですが。
ただ、心理士の環境整備は心理士の課題であり、世間や政府の責任ではありません。もちろん医師の責任でもありません。
心理士という職業が世に浸透してこなかったのは、べつに免許がないからではなくて、役に立つカウンセリングを提供してくれないからです。私が「はだかで」しゃばにでてカウンセリングしても、効果があって、口コミで人が来るのですから、あきらかでしょう。
したがって、公認心理士が出来たあとも、現場の実情は、何ら変わっていません。看板や肩書関係なく、役に立ってくれる人のところに、人は集まるのです。
今後数十年は、なにも変らないでしょう。
なお、医療現場だけでなく、スクールカウンセラーについても、学校の先生や生徒、親の感想を聞くと、思わしくないのです。一方スクールカウンセリングを散々受けてきた人が、当科にくると薬なしで相当改善する、ということはしばしばあります。(司法の現場については私は知りません)
私がやらなくても、私の指導をうけた心理士がやれば相当よくなります。
さらにいえば、私が「裸で、しゃばで」カウンセリングして効果が出るのは、私が道楽でやっていることと関係があります。集客を気にしだすと、カウンセリングの効果は一般的に落ちます。長くなったので説明は省きますが。
さて。
これだけ長々と書いて、結局何がいいたいかというと、このような惨状のなか、せめて心理士に確実に役立つ方法は心理テストなのです。心理テストには、保険点数ついているものもあるし、ついていなくても、研究目的で使うことはできますからね。MMPIなんて、おいしいじゃないですか。あんなもの、医者は誰もやりたくないし、一定頻度でニーズは発生するし、心理士が汗さえ書けば、給料もらえるんだから。
実際、私がこのサイトを訪れた理由は、NEO FFIに本来下位尺度がないところを、どうにか下位尺度がある質問紙みたいに、使う方法はないかな、と、研究目的で思ったからなんです。
私は心理士のカウンセリング能力は信頼していないけど、心理テストの知識や解析能力は、疑っていません(投影法のテストをのぞく 理由は書かないけど、わかりますよね 真面目な科学者はそのくらい慎重です 学校で習ったことをうのみにしてはいけない)
だから、心理士がそばにいれば、調べず質問するとおもう。そういうときに、いかに存在感をはっきできるかが、心理士として飯を食えるかに関係してくるわけ。
まとめると、カウンセリングは好きだけど下手、経験積む動機づけはあるけど環境がない、これが気の毒だけど心理士の平均的な惨状です。
このうえ心理テストの勉強もしたくない、というのでは、人の役にはたてませんし、多分飯食えないですよ。
おっしゃるとおりすぎて、言葉が出ず、勉強するしかないという気になりました。厄介者の心理職にならないようにがんばります
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