公認心理師 2018-154

2018年12月22日土曜日

70歳の男性Aの事例です。

事例の内容は以下の通りです。
  • Aは、もともと穏やかな性格であったが、2年くらい前から非常に短気になり、気に入らないことがあると怒鳴り散らすようになった。
  • 天気が悪くても日課の散歩は毎日欠かさず、いつも同じコースを歩くようになった。
  • また、散歩中に信号を無視することも多くなり、危険であるため制止すると興奮するようになった。
Aに認められている症状として、正しいものを2つ選ぶ問題です。

まず、事例Aは前頭側頭型認知症であると見立てて解いていくことが大切です。
行動や気分の変化、あまり理性が働かなくなる、深い判断や思慮ができなくなる、自制力が低下する、感情を抑制したり行動を制御したりすることができなくなる、衝動を抑制しづらいなどが特徴的です。

症候に関する書籍として、西丸四方先生の「精神医学入門」が良いです。
神田橋先生いわく「医師の国家試験には全く役立たない、とても素晴らしい本」です。
実践的・具体的な記述になっています。

また、三好巧峰先生の「大脳疾患の精神医学 神経精神医学からみえるもの」もお勧めです。
とてもわかりやすく述べられておられます。
認知症関係の設問については、こちらでかなりカバーできると思います。

ここでの解説も、上記書籍の内容を借りつつ進めていきます。



解答のポイント

前頭側頭型認知症と見立てることができ、その代表的な症状を把握していること。
各症状で具体的にどのような現象が見られやすいかを把握していること。



選択肢の解説


『①強迫行為』

強迫行為は始終手を洗うとか、強迫欲求で何度も戸を開閉するようなことを指します。

多くの強迫のもとには不安があるように見えます。
それで罪過感とか抑えられた性欲から出るように解することもでき、また強迫の内容はそのようなものを象徴的に示しているように見えることがあるので、力動的に考える人は根本的に何か無意識の不安の種があって、それを我慢していると堪えられないので、一定の一見無意味なもの(よく見ると根本の不安の種の象徴である)に対して恐れが起こることによって、一種の代償的な発散をしているのだと考えます。

Aが示している症状からは、上記のような強迫行為は見当たりません。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。



『②常同行動』

常同行動とは、反復的・儀式的な行動、姿勢、発声を指します。
単純なもの(身体揺すりなど)から、複雑なもの(自己愛撫、足を重ねたり解いたりの繰り返し、特定方向への行進)などがあり得ます。

常同行動を示す疾病として、知的障害、ASD、遅発性ジスキネジア、統合失調症、前頭側頭型認知症などが挙げられます。
前頭側頭型認知症における症状の具体例としては、スーパーで同じ商品を同じ時間帯に買う、同じような料理ばかり作るようになる、などです。

問題文にある「天気が悪くても日課の散歩は毎日欠かさず、いつも同じコースを歩くようになった」というのは、常同行動と解することができます
よって、選択肢②は正しいと判断できます。



『③離人症状』

離人とは、人格感喪失、現実感喪失などがあり、外界及び自分が存在する、活動する、自分が体験しているという実感、現実感、実在感、生命感が無くなる状態です。
知覚は正しく行われていて、感覚的材料も意味も正しく認められるのに、すべてのものが異様で、かけ離れていて、非現実的で、生命がないと意識されます。
「手の形って変じゃないですか?」「みんな着ぐるみをきているみたい」などが実践では見聞きしますね。

離人症上は、解離の延長で生じることが多いように思えます。
そもそも解離は「人間が動物に食べられていた時代を乗り切るための対処機制」です。
捕食されそうになった時にパニックになっていては逃げられる可能性が低下します。
そこで、危機的瞬間に対処できるよう、苦痛の回路を遮断してしまう安全装置が「解離」なわけです。

捕食されそうになる、などの滅多に訪れない危機的状況のみで「解離」を使用するなら問題ないのですが、それを日常的な苦痛でも用いるようになってしまうと良くありません。
人のこころは「ある特定の感情だけを遮断することができない」という面も持っています。
「苦痛」という感情のみを遮断することを繰り返していくうちに、「感情全体の鈍麻」が生じてしまうのです。

思春期くらいにたまに見られる「別に死んだって大丈夫じゃないですか?」「本人が死にたいって言ってるんだからいいんじゃないですか?」というやけに冷めた思考の在り方は、実はこうした解離を使い続けたことによる反応です。
苦痛感等から遠ざかった結果の状態ということですから、何かしら抑えこんだ生活歴を疑うのが一般的です。

話を問題に戻しますと、事例Aには離人症状と思われる言動は見られません。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。



『④見当識障害』

見当識障害は、今の状況、すなわち今自分のいる場所も、時も、周囲の人が誰かもわからなくなる状態です。
アルツハイマー型認知症では「物忘れ」に続いて、「見当識障害」も起こしやすいといわれています。
レビー小体型認知症では「物忘れ」よりもむしろ「見当識障害」が目立つことがあるとされていますね。

Aが示している症状からは、上記のような見当識障害は見当たりません。
「天気が悪くても日課の散歩は毎日欠かさず、いつも同じコースを歩くようになった」は前述の通り常同行動と見るのが適切であり、見当識障害と捉えるのは誤りです。
「散歩中に信号を無視することも多くなり、危険であるため制止すると興奮するようになった」についても見当識障害ではなく、選択肢⑤で解説する「抑制の欠如」と見るのが適切ですね。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。



『⑤抑制の欠如』

抑制の欠如は、軽率に何にでも手を出し、無遠慮でおせっかい、行動の途中で気が変わりやすく、完成させずに他のことに脱線、失敗が多い、他人ともめごとや争いを起こしやすい、などとされます。
また前頭側頭型認知症に特徴的なのが、些細なことで立腹したり(易刺激性)、態度にも落ち着きがなくなる(不穏)といったことも見られます。
特に衝動のコントロールの障害は、欲動の制止欠如とか、人格の情動的コントロールの欠落などと表現されますし、思考において独特の投げやりな態度は考え不精と呼ばれます。

事例の「散歩中に信号を無視することも多くなり、危険であるため制止すると興奮するようになった」という反応は、こうした抑制の欠如と見做すことができます。
よって、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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