公認心理師 2018-147

2018年12月04日火曜日

小学校5年生の女児Aの事例です。

事例の詳細は以下の通りです。
  • Aは複数のクラスメイトから悪口やからかいなどを頻繁に受けていた。
  • スクールカウンセラーBは、Aから「今のクラスにいるのがつらい」と相談を受けた。
  • しかし、Bから「誰にも言わないでほしい」と強く頼まれた。
いじめの可能性がある事例であり、同時にそれを「言わないでほしい」と頼まれている状況ですね。

この事例への対応で重要なのは、以下のすべてを汲み取った対応をすることだと思われます。
  1. 悪口やからかいなど、いじめの可能性がある事態への対応の必要性
  2. Aのつらさを汲み取るような対応の必要性
  3. 「誰にも言わないでほしい」というAの思いをどう汲み取っていくか
上記の点を踏まえ、Bとして最も適切な対応を1つ選ぶ問題となっています。



解答のポイント

いじめ防止対策推進法について把握していること。
守秘義務、校務分掌の理解、管理職の管理下にある心理職の対応などについてバランスよく考えることができること。



選択肢の解説


『①職員会議で全教職員に詳細に報告する』

こちらの対応は、いじめの可能性を全体に共有するという形になっています。
しかしながら、まずいじめの対応については、選択肢⑤にもあるように、管理職やそれを含むいじめ対策委員会への報告が重要になります(いじめ防止対策推進法第23条)。

まずは校内においていじめ対応を行ういじめ対策委員会に下ろし、そこで状況の把握と対応を協議した上で、全体に報告するか否かの判断を行います
選択肢①の内容は、こうした学校組織の在り様、校務分掌への無理解が見て取れるので適切とは言えません。

また、こちらの対応ではAの「誰にも言わないでほしい」に全く思いを馳せることのないものになっています。
もちろん、「誰にも言わないでほしい」と言われたからといって報告をしてはいけないかと言われればそうではありません。
あくまでも専門家として、その事態の軽重を見極め、さらに組織人としてどう対応するかを、自身の判断として決めていく必要があります。

この事例ではいじめが疑われるので、報告しないという対応はあり得ません。
しかし、Aの思いを汲み取った対応をしていくことも重要で、選択肢にあるようないきなり全体に報告するようなやり方は適切ではありません。

こうした対応が後からAに伝われば信頼関係を損ねますし、たとえ伝わらなくてもスクールカウンセラーBの側に生じる罪悪感がAとの関係に微妙な影を落とすことになります。
ユングは患者の外傷体験について「カルテにも書かないことが望ましい」としておりますが、それはこうした治療者側に生じる(場合によっては無自覚レベルの)罪悪感が、関係性に影響を与えるという自覚からでしょう。

以上より、選択肢①の対応は不適切と判断できます。



『②Aとの関係を重視して、Bのみで対応を継続する』

まずは法律的な観点として、いじめ防止対策推進法第23条に「いじめに対する措置」が以下のように記されています。
  1. 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする。
  2. 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
  3. 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。
  4. 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
  5. 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
  6. 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。
上記の第1項に通報の措置について記されていますね。

また、選択肢の対応は、Aの「誰にも言わないでほしい」という訴えに沿ったものになっています。
しかしこの対応には、いじめの改善につながらない可能性があること、学校組織に属しているBが組織に伝えず(ほぼ個人的な形で)対応すること、などの問題があります。

いじめの対応については、例えば、クラスへの指導、本人への心理的支援、保護者への説明などが考えられますが、いずれも学校との協力体制が不可欠です。
選択肢の対応は、本人への心理的支援に力を入れているように見えますが、いじめへの支援は上記のような対応を組み合わせて行うことが重要なので、実際には支援から遠ざかる対応になっています。

そもそも「誰にも言わないでほしい」と言われたから報告をしないという対応を取ることは、専門家としての責任を放棄し、Aに責任を負わせている行為と言えます。
報告しなかったという自分の問題を、Aの言説に帰することは適切とは言えませんね。

以上より、選択肢②の対応は不適切と判断できます。



『③Aの同意が得られるまで、管理職(校長など)への報告を控える』

こちらは、上記のいじめ防止対策推進法第23条に「いじめに対する措置」からして不適切です。

それ以外にも、危機管理上の視点から考えていきます。
もしもAがいじめを苦にして自傷行為等を行った場合、いじめの事実を知っていたBが報告しなかったことは大きな問題となります。
また、管理職もその管理責任を取らされることになります。

たとえ自傷行為等の危険が低いと見立てたとしても、いじめという事案に対して管理職に報告しないということは適切ではないと言えます。
いじめの対応等も遅れることになりますし、そのことはAへの支援が遅れることを意味します。

守秘義務を守るあまり、上記のようなAの福利に反するような状況になっていては本末転倒です。
いじめという子ども本人では改善が難しい可能性がある事態に対し、支援者が適切な支援の要否、その内容について見立てていくことが重要です。

以上より、選択肢③の対応は不適切と言えます。



『④学級内で起きていることであり、担任教師に伝え対応を一任する』

いじめ事案として実際に学校が認識すれば、担任をはじめとした複数態勢で支援にあたります(学校いじめ対策組織より)。
ただし、いじめの内容や担任の関与の仕方によっては、担任に伝えるか否かを保留する場合もありますし(そういうことは、ほぼありませんが…)、校務分掌としてはいじめ対策委員会等への報告が求められます。

しかし、選択肢にある「担任教師に対応を一任する」というのは専門家としての責任の放棄です。
先述したとおり、専門家としてその事態の軽重を見極め、さらに組織人としてどう対応するかを、自身の判断として決めていく必要があります。
Aから聞いた内容を、Bが自身の職責のもとで報告することが重要です。

また「対応を一任する」という点についても適切ではないと思われ、本来なら下記の「いじめ対策委員会」などの中で、Aとの面接を行ったBが見解を述べ、対応・方針に関与するのが適切です。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。



『⑤Aの心情も含めて、校内のいじめ対策のための委員会に報告する』

選択肢にある「校内のいじめ対策のための委員会」とは、いじめ防止対策推進法第22条の「学校におけるいじめの防止等の対策のための組織」に以下のように記されています。
学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする」

更に、同法第23条に記されている通り、報告することが求められます。
ここまでは法律で示されている事柄となりますね。

この選択肢で重要なのは「Aの心情も含めて」という点です。
ここの「心情」とは、「誰にも言わないでほしい」というAの思いを指します。

それを踏まえた上で、いじめの軽重や考えられる対応を考えていくことが重要です。
協議の結果、「誰にも言わないでほしい」というAの希望に沿えないという結論になることもあるでしょう。
その場合であっても、そこに至った流れ、Aを守るために必要な対応であること、その対応を取った後も必ずAを守ることなどを、情理を尽くして語ることによって理解が得られやすいだけでなく、その過程自体が心理療法的意味を持つと言えます。

以上より、選択肢⑤が最も適切と判断できます。

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4 件のコメント

  1. いつも大変勉強させていただいています。ありがとうございます。ちなみに、141問が見当たらないので、どこにあるか教えていただけないでしょうか。よろしくお願い致します。

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    1. コメントありがとうございます。
      問141でしたら記事があると思います。
      もしもスマホで見られているならば、検索ができないので見つけにくいかもしれません。

      ウェブバージョンでしたらキーワード検索が可能なので見つけやすいと思います。
      ウェブバージョンはスマホバージョンの一番下に切り替えるところがあります。

      検索で「公認心理師 2018-141」と打って頂ければ、2番目くらいに出てくると思いますのでお試しください。

      またご不明な点などございましたらコメント頂ければ、可能な限りお答えします。
      それではまた。

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  2. こんにちは。いつも勉強させていただいています。
    私も設問の回答のような対応をとると思いました。
    しかし、気になったのは、こういった場合に実際の現場で「誰にも言わないでほしい」と言われた際のカウンセラー側の返答としては、どのような返答が適切なのでしょうか。「わかりました」というと虚偽の返答になってしまいますし「それはできない」というとタイミングによっては不安定な状況を作り出す可能性もあるかと思います。これが「死にたい」などであると支援者側の対応も変わってくるとは思いますが、問題文では、本人の同意を得ないまま今後の対応を検討していると推察できます。
    私は普段は成人を支援しており、守秘義務の例外に当たる場合も基本的には本人に説明したうえで(同意が得られない場合もありますが)行えることが多いのでこういった事例の状況については、読んでいて悩むことがあります。本人支援の実情として気になりましたので助言いただければと思います。

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    1. コメントありがとうございます。
      私の意見が参考になるかわかりませんが、現時点での私の考えを述べておきます。

      私としては相手が児童であるか成人であるかはそれほど違いが無いと思っています。
      まずカウンセラー側の立場としては「いじめが本当ならば、本人の意思に関わらず報告することが求められる」というものです。
      これに対して、クライエントは「誰にも言わないでほしい」と思っているわけですね。
      こういう互いの立場や思いがすれ違う場合は、クライエントの年齢を問わず生じることです。

      こうした互いの立場が異なる場合、何をするべきなのか。
      それは折り合いをつけるということだと思っています。

      カウンセラーは「いじめがあることを言わずに、あなたを守ることができない」という判断を伝えることになるでしょうし、その上で「誰にも言わないでほしい」クライエントがどこまで譲歩できるかをすり合わせていくことが大切だと思います。
      もちろんクライエントだけでなく、カウンセラーとしても何かしら譲歩することになる可能性もあります。
      そのすり合わせ方、折り合いのつける道程は、ケースによって異なるため一般化は不可能ですし、するべきでもないと考えます。

      ただ、私が気をつけているのは以下の2点です。
      まず1つは自分の思考の流れ、なぜ「いじめがあることを言わずに、あなたを守ることができない」という考えに至ったのかという心の理路を「正直」に説明することです。
      結論だけを述べるのではなく、その結論に至り、やはり誰にも言わずに対応することができないと言わざるを得ない流れをきちんと説明するわけです。
      その中にはカウンセラーとしての迷い、未熟さ、戸惑いなども交じってくるのが普通です。

      もう1つは、外的な理由を可能な限り少なくし、使う場合でもそのことを自覚しておくことです。
      例えば、いじめ対応で守秘義務を超えて対応することは法律でも認められていますが、実践場面で「法律で言わなければならないことになっている」という法律=外的な理由を使うことを避けるようにしています。
      虐待をしている母親に対して、虐待を止めさせたくて「こんなご時世だからね」と伝えることはあるでしょうが、これも同じく世論・世間という外的な理由を引っ張ってきているわけです。

      ですがカウンセリングで、特にいじめ等の切迫した場面において、外的な理由を持ち出すのは生身のぶつかり合いにならず、これを一種の逃げと見なすことも可能だと考えています。
      もちろん逃げてもいいのでしょうけど、クライエントによっては互いの倫理観をぶつけ合うような「対決」こそが必要な場合も少なからず見受けられます。
      よって、相手と意見が異なるときに、自分の内にある信条・倫理観でぶつかっているのか、外的な理由を用いて対決するのかは、状況によって異なる可能性はあるのですが、それでも「その自覚」は必要だと考えています。

      さて、こうした折り合いをつけるという作業を行う上で、しっかりと認識しておかねばならないのは、折り合いの最終地点では「互いに不満顔で終わる」ということです。
      なぜなら、折り合いをつけるという作業では、互いに自分のやりたいことを100%できない状態なわけですから、不満顔で終わるのが普通です。

      もちろん例外もあります。
      クライエントが考えもしなかったような選択肢が呈示され道が拓ける場合もあるでしょうし、そもそも自分の訴えに「しっかりと反応してくれた」だけで満足感を得るクライエントもいるでしょう。
      しかし、互いが現実的に折り合いをつけていこうとする作業では、必ず不満が生じると思っておくことが大切です。

      相手を満足させようという考えがあると、不満顔で終わっていることがダメなことのように感じてしまうかもしれませんが、そんなことはないということです。
      私は互いに不満ではあるけど、それでもカウンセリング関係を続けていこうと思えるような折り合えるポイントを見つけていくこと、それ自体が心理療法過程だと思っています。
      クライエントに実際に伝える場合は、その年齢や状況、特徴に合わせて言葉や表現を選んでいくことになります。

      他にもあるかもしれませんけど、パッと思いつくのは上記の通りです。
      ご参考になれば幸いです。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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