公認心理師 2018-146

2018年12月14日金曜日

9歳の男児A、小学3年生の事例です。

事例の内容は以下の通りです。
  • Aの学級はクラス替えがあり担任教師も替わった。
  • 5月になるとAが授業中に立ち歩くようになり、それを注意すると児童と小競り合いが頻発するようになった。
  • クラス全体にも私語がみられ、教室内で勝手な行動をして授業に集中できていない児童も多くなってきた。
  • やがて、担任教師の指導に従わず授業が成立しないなど、集団教育という学校の機能が成立しない状態になってきた。
  • 担任教師によるこれまでの方法では問題解決ができない状態に至っていると管理職は判断している。
このときの学校の取り組みとして、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

この問題で求められるのは、事例の状況を「学級がうまく機能しない状況」(いわゆる学級崩壊のこと)と判断できることであり、それへの対応を把握していることです。
また、学校で生じた問題についてどのように対応していくのかを、ある程度理解していることが大切になります。

そういった意味で、現役のスクールカウンセラーには有利な問題だったと言えるかもしれません。
いわゆる「教育現場」の対応には、外せない論理がいくつかありますので、それも含めて記述していきます。



解答のポイント

事例の状況が「学級がうまく機能しない状況」であると判断できること。



選択肢の解説


『①担任教師を交代させる』

こちらの選択肢は教育現場で採られることはあり得ません
もちろん、担任教師が不祥事を起こしている場合は別ですが。

問題が起こった時期等を勘案すると、この事例は担任教師の指導力の要因が大きいと推測できます。
そして、この事例を指導力の問題と捉えていくならば、助力をもって担任教師の指導力の向上や機能しなくなっている状況の改善が大切になります。

後述しますが、教育現場において「力が無い(と見做されている)人を切り捨てる」という対応を取ることが、その後の子どもたちの成長にどのような影響をもたらすのか、その点を考えれば学級担任を外すような対応はあり得ません
この対応では、子どもたちに「力が無い者は無価値と判断される」という無自覚の刷り込みが起こります。

こうした外的な物差しを自分の価値に置き換えるというやり方は、成長段階の児童・生徒は内面化・身体化しやすいものです(特に物事を単純な論理でしか捉えられない成長段階においては)。
こうした傷つきを生じさせないような対応が、教育現場では求められることになりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



『②児童の力を信頼し、時間をかけて改善を待つ』

学級の状況は、いわゆる「子どもたちが教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず、授業が成立しないなど、集団教育という学校の機能が成立しない学級の状況が一定期間継続し、学級担任による通常の手法では問題解決ができない状態に立ち至っている場合」と定義される「学級がうまく機能しない状況」です。
(こちらについては選択肢③で詳しく述べます)

この「通常の手法」に、選択肢の内容は含まれると見てよいと考えられます。

児童・生徒の発達段階および成長段階では、自らの統制が難しい状態があります。
こうした状態に対して、外界からのルールや枠組みを設けることで、ある種強制的に納めることが大切です。

2歳くらいの子どもと横断歩道の前で待っている時、当然、手をつなぐと思います。
それは「まだ2歳のこの子に、飛び出さないという判断が確実にできるだけのものが備わっていない」からです。
学校の校則・ルールにとどまらず、家庭内の躾であっても、こうした「まだ本人に備わっていない機能」を代替的に行うという役割があります。

ルールや枠組みには、上記のような「守る機能」と「拘束する機能」(横断歩道を前に、子どもがどんなに嫌がっても手は離さない)の両方が備わっています。
窮屈だけどそれを守り続けることで、「理解が後からやってくる」という形でその大切さが了解されるわけです。

もちろん、ある程度の成長が見られた後は信じるという構えも重要になり、この境目が子育ての困難さとも言えます。

事例に話を戻しますと、「学級担任による通常の手法では問題解決ができない状態」であると同時に、子どもたち自身にも自力での変化が難しい状態でもあると考えられます。
小学校3年生の学級で事例の状態にまでなった場合、なかなか自然な改善は望めないというのが経験的には思います。

また「児童の力を信頼する」という対応は、責任を児童に預ける無責任な構えとも言えます(ダメだったら、児童の力が無かったから)。
あくまでも教育現場で起こっていることの責任は、それに携わる大人たちに委ねられます。
そのことを前提に何らかの介入を行っていくことが大切です。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。



『③チームティーチングなどの協力的指導体制を導入する』

本事例の状態は、いわゆる「学級崩壊」と表現される状態です。
学級崩壊は公的には「学級がうまく機能しない状況」と表現されます。
定義としては「子どもたちが教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず、授業が成立しないなど、集団教育という学校の機能が成立しない学級の状況が一定期間継続し、学級担任による通常の手法では問題解決ができない状態に立ち至っている場合」とされています。

この状態については「学級経営をめぐる問題の現状とその対応―関係者間の信頼と連携による魅力ある学校づくり―」でその対応について述べられております。

上記の中で、10ケース及び類似ケースが挙げられ、その内容が以下のように列挙されております。
  • ケース1 就学前教育との連携・協力が不足している事例:
    子どもの実態に即した学級づくりを進めること、就学前教育との連携・協力を進め、必要な情報を交換すること。
  • ケース2 特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもがいる事例:
    教育的配慮が必要かどうかの的確な判断をすること、息の長い取り組みのための体制づくりをすること、一人一人の子どもの「違い」を生かす学級づくりをすること。
  • ケース3 必要な養育を家庭で受けていない子どもがいる事例:
    子どもの教育環境を的確に把握し、関係機関との間に連携・協力関係を築いたり、子どもとの間の信頼関係を築くこと。
  • ケース4 授業の内容と方法に不満を持つ子どもがいる事例
    授業方法の柔軟な選択を行うこと、そのため校内研修等の充実やTT、体験的な活動など多様な工夫を行うこと、授業時間以外の言葉かけの工夫も大切であること
  • ケース5 いじめなどの問題行動への適切な対応が遅れた事例:
    いじめに対しては子どもの心理の理解に努め早期の適切な対応をするなど、根本的な問題を探り当て、組織的に対応すること。
  • ケース6 校長のリーダーシップや校内の連携・協力が確立していない事例:
    教員の異動直後は校務分掌などで経営的配慮をし、問題状況に対しては、校長はリーダーシップを発揮して、職員の間に相談しやすい雰囲気づくりを進めること。
  • ケース7 教師の学級経営が柔軟性を欠いている事例
    学級間の情報交換などによって、問題状況に関する共通理解を図ること、学級担任の指導力を高めるための適正な校内人事に配慮すること。
  • ケース8 学校と家庭などとの対話が不十分で信頼関係が築けず対応が遅れた事例:
    学校の説明責任を果たすこと、保護者との対話や情報交換を工夫するなど、一体となって問題解決に取り組むこと、地域や教育委員会等との連携を推進すること。
  • ケース9 校内での研究や実践の成果が学校全体で生かされなかった事例:
    校内の組織体制の充実を図ること、TTなど教授・学習組織の工夫を行い、それを校内で学び合うこと。
  • ケース10 家庭のしつけや学校の対応に問題があった事例
上記のうち、本事例に該当する可能性が高いのが「ケース4」もしくは「ケース7」になると思われます(問題の時期等を勘案すると、担任教諭の指導や学級経営に要因がありそうなので)
こちらでは、対応の一つとしてTTが挙げられております。

更に、これら10ケース及び類似ケースの考察から導き出された対応策が示されております。
  1. 早期の実態把握と早期対応
  2. 子どもの実態を踏まえた魅力ある学級づくり
  3. ティームティーチングなどの協力的な指導体制の確立と校内組織の活用
  4. 保護者などとの緊密な連携と一体的な取り組み
  5. 教育委員会や関係機関との積極的な連携
こちらでもTTの重要性については述べられております。

そしてTTは、あくまでも学級担任を指導の中心に置きつつの支援とも言えます。
学校外の方々からは、学級担任を替えたり外したりといった対応を提案されることもありますが、学級担任を外すという選択肢は教育領域にはありません(よっぽどの事情があれば別ですが)。

あくまでも学級担任の力を回復させたり、機能しやすい状況を作るために支援を行っていきます
そもそも、教育現場において「力が無い(と見做されている)人を切り捨てる」という対応を取ることが、その後の子どもたちの成長にどのような影響をもたらすのか、その点を考えれば学級担任を置き去りにした対応はあり得ません。

以上より、選択肢③が適切と判断することができます。



『④校長のリードにより、学校独自の方策で解決に取り組む』

この選択肢は、担任教師の指導力に要因をみているという前提があります。
クラス替えを期にAが落ち着かなくなっている等の事情を鑑みると、この判断は適切と言えます。

一方で、「校長のリードにより、学校独自の方策で解決に取り組む」については対応として適切とは言えません。
管理職のリーダーシップは重要ですが、それは「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」でも示されている通り、学校のマネジメント機能を担う者として、という点が大切です。

校長は自らが方策を打ち出して解決に取り組むのではなく、所属する教職員や専門スタッフの人材育成をしっかりと進めていくことが求められます。

更に「学校独自の方策」というのも賛否ありそうです。
「担任教師によるこれまでの方法では問題解決ができない状態に至っている」という判断から、独自の方策という表現になったと思われますが、重要なのは担任教諭を中心とした集団教育という学校機能の再建です。

校長のリードによって行われる学校独自の方策では、担任教諭の入り込む余地がなくなってしまう可能性が高くなる恐れがあります。
担任教諭が行うことが可能な方策や、何らかの助力を得て担任の力が機能するように働きかける支援が望ましいと言えます。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。



『⑤Aの保護者に対し、家庭で厳しくしつけるよう依頼する』

この対応を取る場合には、Aの家庭での関わり、特に、しつけがきちんとなされていないという見立てが必要です。
しかし事例では、クラス替えを境に落ち着かなくなっていることが示されており、単に家庭の要因のみに帰属させるのは無理があるように思われます。

担任教師の指導内容について明らかにされていないので判断はできませんが、ある程度の水準の指導をしていて事例のような状況に至っている場合、家庭要因も考えて良いでしょう。
しかし、クラス替えの時期と重なっていることから考えると、家庭に選択肢の内容を伝えることで家庭からの反発を招きかねません

Aがそれ以前にこうした問題を起こしていない(と考えられる)状況なので、まずは指導法等のクラス替えをきっかけに生じた変化を要因として考えていく姿勢が求められます

以上より、選択肢⑤は不適切と言えます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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