公認心理師 2018-134

2018年12月20日木曜日

かかりつけの内科医に通院して薬物療法を受けているうつ病の患者を精神科医へ紹介すべき症状として、適切なものを2つ選ぶ問題です。

日本ではうつ病をはじめとする精神科疾患患者が受診する場合、内科等の精神科以外の診療科が多いとされています(特に内科が多い)。
正しく診断されない可能性などの問題があるとされています(WHOの調査では、正しく診断されたのは19%ほど)。

本問では「精神科医へ紹介すべき症状」ですから、すぐに専門医に診てもらった方が良いと判断されるような症状を選択する必要があるわけです。
すなわち、自傷他害等の危険がある状態と判断できる症状はどれか、が大切だと思われます。

一方で、うつ病者によく見られるような症状については除外しても良いと思われます。
頻出の症状で精神科医を紹介していれば、すべてのうつ病者を紹介しなければならなくなりますからね。
(決して頻出する症状を軽く見ても大丈夫、という意味ではありません)

上記を踏まえて、各選択肢の検証を行っていきます。



解答のポイント

設問の狙いを読み取り、症状のトリアージを行うこと。



選択肢の解説


『①不眠』

睡眠障害はうつ病に多い症状です。
うつ病では入眠困難はあまりなく、維持困難や早朝覚醒が多いとされています。

不眠についてはうつ病患者の多くに認められるものであり、不眠で精神科医を紹介せねばならないのであれば、精神科が専門でないかかりつけ医に通院しているうつ病患者はほとんど精神科に紹介されることになります

もちろん不眠の程度によっては、抑うつ感情を高めたり社会適応を難しくするなどの問題もあるので、不眠を軽視してよいという意味ではありません
「精神科の受診をせねばならない症状」という枠組みには、必ずしも入らないということです。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



『②自殺念慮』

うつ病は自殺危険率の高い精神疾患であり、約15%のうつ病者が自殺するという統計もあるので、治療の重要性は非常に高いと言えます。
(この15%という数字は、実感よりも高い気がしますが)

うつ病者は抑制が強いですが、「転動性」も低下していて、同じことを繰り返し考えています。
この考えは断片的にぽつぽつと周囲に語られ、たとえば「もう生きていけない」「死ぬしかない」といった感じです。
こうした「行き詰まり感」「自殺念慮」はうつ病者において必発と思って良いでしょう。

中井久夫先生が記している自殺防止について以下に挙げていきます。
  • 自殺念慮は必ずあると考えて、患者に責任ある立場の医療者が聞いてよい:「あなたはいっそ死にたいと考えているのではないか」に対し、患者は少しためらってからゆっくり頷くのが普通である。
  • 病気であること:「あなたはとても今はそう思えないかもしれないけど、これは病気です」
  • 死にたいという気持ちは本当は別のものかもしれない:「焦りが形を変えて死にたいとささやいているような気もします」
  • 自殺を実行しない約束をとること:「あとでしまったと思っても困るし…死ぬより辛いかもしれないけど、死なないと約束してください」
  • 治ること:「いまは治るという気がしないかもしれませんが、薬が効きますし、必ず治ります」
  • これらを割ときっぱりとした、やや張りのある調子で告げることは、自殺予防の決め手である。
  • うつ病の回復初期に夢が明るくなる時期があり、明るい夢→暗い朝の目覚め、の落差がつらい。回復の時は「夢から明るくなりますよ」と予告しておく必要がある。この際、必ず「一時ですし、回復が起こったしるしです」と言い添える。
自殺に対しては、こうした対応が求められます。
こうした専門的対応については、精神科専門医の方が長けているのが自明ですね(内科医でもできる方はおられますが、あくまでも割合として)。

また、事例の場合、おそらくは外来で治療していると見て間違いないでしょうが、焦燥感が強いとき、自殺念慮が強い場合または自殺企図のあった場合は入院が必要になります。
入院を通して、本人が安心して休めるような状況をつくることが求められます。

上記より、自殺念慮が出たときには速やかに精神科医へ紹介するのが適切と考えることができます。
よって、選択肢②は適切と判断できます。



『③体重減少』

体重減少はDSM-5の診断基準にも記載があります。
一般に、うつ病では抑うつ症状のほかに、体調に変化が出ることもあります。
例えば「なかなか寝つけない」「早朝に目が覚めてしまう」といった睡眠障害、食欲の減退、体の痛みやしびれ、頭痛、吐き気、口の渇き、女性では月経異常など、さまざまな症状を訴える人がいます。

うつ病患者の53~94%に食欲の減退があるといわれています。
見られやすい症状の一つであり、これがあるからと言って精神科医を紹介すると、多くの内科医が診ているうつ病者は紹介されることになってしまいます

また、上記のような身体症状の全てがうつ病によるとも限りません。

ちなみに、食欲減退自体も重要な症状かもしれませんが、「砂をかんでいるよう」などのように味を感じなくなったりすることも大切な指標ですね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。



『④改善しない抑うつ症状』

脳とこころのプライマリケア1 うつと不安」によると、プライマリケアにおいて患者を精神科に紹介するタイミングとして以下が示されております。
  • 診断に迷った場合
  • 脳の器質的な障害が疑われる場合
  • 第一選択の向精神薬で効果が認められない場合
  • 重度の精神疾患の場合
  • 自殺の危険性がある場合
  • アルコール依存が疑われる場合
  • 精神科への入院が必要だと考えられる場合
  • 精神疾患が慢性化している場合
  • 躁症状が出現した場合
選択肢の内容は上記の下線部に該当すると思われます。
(選択肢②についても記載がありますね)

やはり抑うつ症状が長く続いたり改善が見られない場合は、自殺の可能性を高める等の問題もあると思われます
また薬物療法が奏功していないということは、見立てに陥穽がないかを検証することも大切になると思われます。

よって、選択肢④は適切と判断できます。



『⑤心理的原因による抑うつ症状』

本選択肢の「心理的原因」が何を指しているかによって解釈が変わりますが、一般的な「ネガティブな出来事」と見做して論を進めていきます。
精神疾患診断のエッセンス-DSM-5の上手な使い方」では、失業、離婚といった人生におけるストレスは、正常な悲観反応として、軽症のうつ病と同じ症状を呈するが、それは理解可能な出来事であり、過剰な診断と治療は避けることが勧められるとされています。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

一方で、笠原先生はうつ病の本態を「合体」の病理と捉えました。
同様の内容を、神田橋先生も「群れる」という表現で指摘しております。
すなわち、うつ病者はその滅私奉公の気質により環境・組織と「合体」するため、合体していた環境・組織から離れ、生きる場を失うためににうつ症状を呈するということです。
この論理なら、結婚や栄転といったプラスの「人生上の出来事」でうつ病が生じるということも説明がつきますね。

おそらく本選択肢の「心理的原因」とは、笠原先生や神田橋先生の文脈の「人生上の出来事」を指しているわけではないのでしょう。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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