こちらの問題は厚生労働省から出されている「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を基準に解いていくものです。
こちらの手引きを把握しておくことについては、他の問題でも求められましたね。
問題文にある「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の各段階」とは、以下のステップを指します。
第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ
上記のステップの内容を確認しつつ、各選択肢の検証を行っていきます。
解答のポイント
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」の内容を把握していること。選択肢の解説
『①休業の開始時には、傷病手当金など経済的保証について説明する』
こちらは第1ステップに該当する段階において、行われるべきことを問う選択肢です。こちらの記述を抜き出すと以下の通りです。
- 労働者から管理監督者に主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まります。
- 管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。
- 休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明します。
- 傷病手当金などの経済的な保障
- 不安、悩みの相談先の紹介
- 公的または民間の職場復帰支援サービス
- 休業の最長(保障)期間等
「事業場で設けている仕組みの活用や、また、例えば、傷病手当金制度その他の公的支援制度、公的又は民間の職場復帰支援サービスなどの利用について、関係機関等が作成しているパンフレットを渡すなどにより、事業者が本人に対して手続きに関する情報を提供することや、場合によっては利用への支援を行うことなどが望まれる」
以上より、傷病手当金などの経済的な保障についての説明は、事業者が本人に対して手続きに関する情報を提供することが求められています。
よって、選択肢①は適切と言えます。
『②職場復帰の可否については、産業医の判断があれば、主治医の判断は不要である』
こちらは第2ステップに該当する段階において、行われるべきことを問う選択肢です。ステップの名称自体が「主治医による職場復帰可能の判断」となっていますから、選択肢の内容が不適切なのがわかります。
このステップでは、「休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます」とあり、「診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします」とされています。
このように主治医の判断が重視されております。
一方で、産業医の判断の必要性は以下のように示されております。
- 主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。
- このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。
以上より、職場復帰の判断には主治医の判断が重要となります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③職場復帰の可否を判断するために、職場復帰支援プランを本人に提示し、本人の意思を確認する』
こちらは第3ステップに該当する段階において、行われるべきことを問う選択肢です。この段階では「安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるかを適切に判断し、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成します」とされております。
そして「職場復帰の可否の判断については、必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合的に判断することが重要です」とされています。
この際の情報の収集と評価の内容は以下の通りです。
- 労働者の職場復帰に対する意思の確認
- 産業医等による主治医からの意見収集
- 労働者の状態等の評価
- 職場環境等の評価
- その他
そして、職場復帰支援プランの作成は、こうした情報収集の後に行われるとされています。
よって、本人の意思を確認する段階においては、職場復帰支援プラン自体が存在しないのが道理であり、この点に本選択肢の瑕疵があると言えます。
また、本選択肢には「職場復帰支援プランを本人に提示し」とありますが、職場復帰プランを労働者本人に提示するという決まりは示されておりません。
もちろん、実際には職場復帰支援プランを労働者にも(丸々ではないにせよ)提示しつつ、実際に復帰できそうかどうかの判断をしていくものです。
これから職場に復帰する人が、自分がどのような復帰の仕方をするかわからないというわけにはいかないですからね。
あくまでも試験を解くにあたり、そういう決まりが明示されていませんよ、ということで捉えておきましょう。
よって、選択肢③は不適切と言えます。
『④最終的な職場復帰は事業者が決定する』
こちらは第4ステップに該当する段階において、行われるべきことを問う選択肢です。こちらについては、「職場復帰の可否についての判断及び職場復帰支援プランの作成を経て、事業者としての最終的な職場復帰の決定を行う」とされております。
この決定のプロセスについては、以下のように示されております。
- 労働者の状態の最終確認:
疾患の再燃・再発の有無、回復過程における症状の動揺の様子等について最終的な確認を行う。 - 就業上の配慮等に関する意見書の作成:
産業医等は、就業に関する最終的な措置等をとりまとめて、「職場復帰に関する意見書」等を作成する。 - 事業者による最終的な職場復帰の決定:
上記2の「職場復帰に関する意見書」等で示された内容について管理監督者、人事労務管理スタッフの確認を経た上で、事業者による最終的な職場復帰の決定を行い、労働者に対して通知するとともに、就業上の配慮の内容についても併せて通知する。管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等は、「職場復帰に関する意見書」等の写しを保管し、その内容を確認しながら、それぞれの実施事項を、責任を持って遂行するようにする。
以上より、最終的な職場復帰の決定は事業者の責任において行われることが明確にされております。
よって、選択肢④は適切と判断できます。
『⑤職場復帰後は、あらかじめ決めた職場復帰支援プランに沿うようにフォローアップする』
こちらは第5ステップに該当する段階において、行われるべきことを問う選択肢です。手引きによると「職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います」とされています。
上記に続けて「さまざまな視点から評価を行い、問題が起きている場合は、関係者間で連携しながら、職場復帰支援プランの内容の変更を行います」となっております。
すなわち、労働者の状態等を勘案しながら、職場復帰プランの修正を行っていくことが明示されております。
よって、選択肢⑤は不適切と言えます。
③が不適切となる理由ですが、
返信削除「職場復帰支援の手引き」の「第3ステップ」内での手順が、このように明示されており、これとは順序が食い違うから――なのではないでしょうか?
「労働者の職場復帰に対する意思の確認」→「職場復帰の可否についての判断」→「職場復帰支援プランの作成」
また、「職場復帰支援プランを本人に提示し、」に該当する内容も、どうやら手引きの中には見当たらないようです。
コメントありがとうございます。
削除確かにそうですね。
昔の解説ですが、おそらく私は「本人の意思で職場復帰の可否を決めるのではない」という判断責任の所在を念頭に置いて解説したのでしょう。
ご指摘の通り、職場復帰支援プランは本人の意思の確認後に作成されるので、この時点で職場復帰支援プランが出てくるのが明確な誤りですね。
それと「職場復帰支援プランを本人に提示し」についての記述がないのも、復帰の可否の判断責任の所在が事業者にあるからでしょう。
この点についてはもともとの解説内容で援用可能ですね。
修正しておきます。
早速お返事くださいまして、誠にありがとうございます。企業の人事部経験者です。「職場復帰支援プラン」については、元々、だいたいの“型”があって、大抵はほとんど無理のない内容ですし、どうせ後から本人の状態に合わせて修正していくものなので、あらかじめ提示しておくほどのものでもない――といった感じです。やはり、まずは「復帰できそうかどうか」の判断が先なのは、現場として自然な流れかなと思います。また、プランの詳細は、決定してから本人には説明するので、「自分がどのような復帰の仕方をするかわからない」ということもないです。なお、最終決定は事業者(人事部長)ですが、「職場復帰の可否を判断する」のは「事業場内産業保健スタッフ等が中心」となって行います。
返信削除はじめまして
返信削除すみません。押し間違いで、一文だけ送ってしまいました。
返信削除このサイトで勉強させていただいている者です。
今回、初歩的な質問なのですが、「管理監督者」と「事業者」の違いが分からず。
職場復帰までの流れで、管理監督者だったり、事業者だったりと頭が整理つかず。
宜しくお願い致します。