公認心理師 2018-125

2018年12月02日日曜日

高齢期の心理学的適応について、正しいものを2つ選ぶ問題です。

こちらについては、以前の記事で少し詳しく述べています。
その記事を引きながら解説を行っていきます。



解答のポイント

高齢者の理論について把握していること。



選択肢の解説


『①ソーシャルコンボイを維持又は保証できるかということは適応を左右する要因の1つである』

Antonucci&Akiyama(1987)によると、コンボイモデルとは個人のネットワーク構造を表す用語とされています。
コンボイモデルでは、個人は一生を通じて、一群の人々と社会的支援を交換しながら人生航路を進んでいくと考えており、このようなライフコースを通じた動的な支援ネットワークをコンボイと名づけています。

以下の図がよく示されています。


P(個人)にとってソーシャル・サポートの点から重要な人々が、親密さの程度で異なる人々(コンボイの成員) が三層をなして取り囲むと考えます。

  1. 日常生活で中心の本人を取り巻く配偶者や親しい親族や親友など、その人の社会的役割に関係なく長期にわたる安定した人間関係を築き上げてきた極めて親しい人たち。
    この人たちが人間関係形成の重要な提供者であり、本人を取り巻くもっとも内側の層を成している。
  2. ある程度の社会的な役割関係に基づいた、時とともに変化しうる人間関係が位置している。
    この層には、友人、親戚、親しく付き合っている近所の人々などがあり、ここでもまた、社会生活における新たな人間関係が形成されている。
  3. 人間関係が完全に社会生活における役割にもとづいた関係からなる層があり、その人間関係は、あまり長続きするものではなく、社会的な役割が変化することによって、変化する人間関係。
    この層には、遠く離れた親族や職場の同僚、近所づきあい程度の隣人、会計士や弁護士、医師や介護士などの専門的職業者が挙げられる。

このように多層的な人間関係を構成する人々の種類や数は、年齢の経過や社会環境の変遷と共に変化します。
外側の層にある人間関係ほど変化しやすく、内側にある安定した人間関係ほど年齢の経過や社会的環境の変遷の影響を受けにくいとされています。

特に高齢期になると、人間関係の喪失の増加によってその種類や量は減ってきます。
加齢とともに経験する「喪失」を多層的な人間関係の他の層の人々が埋め合わせるようになります。
すなわち、最も内側の層にあった人間関係が喪失した場合、減少した人間関係の種類や数の穴を埋め合わせるように、より外側の層や他の層にあった人間関係がより親密な形となって構築されます

以上より、コンボイを維持もしくは保証がその適応に重要な役割と果たすと考えて間違いないと言えます。
よって、選択肢①は正しいと判断できます。



『②退職後は以前の高い活動性や社会的関係から、いかに速やかに離脱できるかによって左右される』

こちらはCumming&Henryの「離脱理論」を念頭に置いて記述と思われます。
離脱理論では、高齢者は自ら社会からの離脱を望み、社会は離脱しやすいようなシステムを用意して高齢者を解放するべきと考え、高齢者が社会から離れていくのは自然なことと捉えています。

少し選択肢の内容とは異なるような気がしています。
Cumming&Henry(1961)によると、引退後は徐々に社会との関わりを減じていき、社会参加の水準が低くなるほど個人の幸福感は高いとされています。
選択肢の「速やかに離脱できるかによって」という点と、やや齟齬があるように感じられます。

また、「活動理論」も存在します。
活動理論によると、望ましい老化とは、可能な限り中年期のときの活動を保持することであり、退職などで活動を放棄せざるを得ない場合は、代わりの活動を見つけ出すことによって活動性を維持することを指します。
離脱理論とは対照的ですね。

Neugarten et al(1968)による「連続性理論」では、両理論とも適切でないと捉え、各自が人生の中で確立してきた要求に沿って環境を選択し続けることが重要と考えております。
この「活動理論」と「離脱理論」については、未だ決着がついていないとされています。
(他にもいっぱい理論が出てきていますし)

以上より、一概に「離脱理論」の考えが適切とは言い切れないことが既に示されています。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。



『③能力低下への補償として、活動領域を選択的に限定し、従来とは異なる代替方略を用いることが有効である』

こちらは「SOC理論」に関する内容になっています。
SOC理論とは、Baltesが提唱した高齢期の自己制御方略に関する理論です。
選択的最適化理論とも呼ばれます。

この理論では、加齢に伴う喪失に対する適応的発達のあり方として、獲得を最大化し、喪失を最小化するために自己の資源を最適化すると主張されています。
すなわち、若い頃よりも狭い領域を探索し、特定の目標に絞る(選択)機能低下を補う手段や方法を獲得して喪失を補う(補償)、そして、その狭い領域や特定の目標に最適な方略を取り、適応の機会を増やす(最適化)とされています。

具体的には以下の通りです。
  • 喪失に基づく目標の選択(Loss-based Selection):
    若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに、若い頃よりも目標を下げる行為を指す。
    例:ボーリングで120取れていたけど、80を目標にしよう!
  • 資源の最適化(Optimization):
    選んだ目標に対して、自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。
    例:週に3回はボーリングに行っていたけど、週に1回に減らそう。
  • 補償(Compensation):
    他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。
    例:自分でボーリングに行っていたけど、息子に送ってもらおう。
上記の頭文字(?)を取って「SOC理論」とされています。

選択肢にある「活動領域を選択的に限定し」は「選択」が該当し、「従来とは異なる代替方略を用いる」は「補償」が該当すると思われます。
よって、選択肢③は正しいと判断できます。



『④未来志向的に自身のこれからを熟考させることが、自身の過去への関心を促し回想させるよりも有効とされている』

高齢期の回想研究の先駆けであるButler(1963)は、高齢期の回想には重要な機能があり、パーソナリティの再構築などある種の適応に導く働きがあることを指摘しています。
回想は、高齢期においては、自分の人生を整理し捉え直すという積極的で自然な出来事であり普遍的に見られるとしています。
「よき昔」を思い出すことによって現実の危機から逃避することを可能にするなどある種 の適応の働きがあります。

以上より、選択肢後半の「自身の過去への関心を促し回想させる」ということが有効であることが読み取れます。
これに対して、選択肢前半の「未来志向的に自身のこれからを熟考させる」に該当する理論が何なのかが重要です。

一つの可能性として、Carstensenによって提唱された「社会情動的選択性理論」があります。
こちらは、時間的見通しによる動機づけの変化によって、エイジングパラドックスを説明しようとする理論で、残り時間が限定的だと感じると、感情的に価値ある行動(嫌な人とは付き合わない、やりたいことだけをやる等)のような、情動的に満足できる目標や活動に傾倒するとされています。

この理論によれば、人生の残り時間が少なくなると、人々は通常、強い選択を行うようになり、自分の持つ資源を、情動的に満足できるような目標や活動に注ぎ込むようになります。
こうしたモチベーションの変化は、認知の過程にも影響を及ぼし、加齢により、注意や記憶の過程で、ネガティブな情報よりもポジティブな情報を好んで取り入れるようになります(これはポジティブ効果と呼ばれている)。

要約すれば「残りの人生が短い、と感じると自分に素直になり、心地いいと思う人としかいなくなったり、自分がしたいと思うことしかしなくなる」ということだと言えます。
「先が長いという認識を持つ人」は面倒なことでも将来への投資として行いますが、「先が短いと考える人」は短期的な楽しいことに時間を注ぎがちになるということですね。

それは、自分の生きられる時間が実際よりも短いと信じて、長期的なゴールや長期的な喜びを過小評価し、短期的なゴールや短期的な喜びを追い求め、資源を未来のためには投資しなくなり、長期的な展望を持たなくなる可能性もあると言えます。

しかし、この「社会情動的選択性理論」についても、そういう風になるという現象を示している面が大きく、適応云々という形で論じられている印象が薄いです。
選択肢前半が「社会情動的選択性理論」を指しているかは不明瞭なままですね。

いずれにせよ、こちらでは選択肢後半に瑕疵があると捉えることは可能です。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。



『⑤適応が不安定になる1つの要因として、高齢期になると流動性知能に比べて結晶性知能が著しく低下することが挙げられる』

知能の最も大きな分類は、ホーンとキャッテルが提唱した、結晶性知能と流動性知能です。
結晶性知能は、個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得していく知能であり、言語能力、理解力、洞察力などを含みます。
流動性知能は、新しい環境に適応するために、新しい情報を獲得し、それを処理し、操作していく知能であり、処理のスピード、直感力、法則を発見する能力などを指します。

結晶性知能は20歳以降も上昇し、高齢になっても安定している一方、流動性知能は10歳代後半から20歳代前半にピークを迎えた後は低下の一途を辿るとし、知能には加齢に伴って低下しやすい能力だけではなく、維持されやすい能力があるとされています。

上記の点は、結晶性知能・流動性知能の基本的事項と言えますね。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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