公認心理師 2018-94

2018年11月14日水曜日

依存と依存症について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

最近、松本俊彦先生が著されたちくま新書「薬物依存症」ですが、非常にためになります。
ここでの解説も、上記の書籍から多くをひいております。


松本先生の現時点での集大成とも言うべき内容や敷衍した記述に加え、その価格がありがたいです(あと、田舎の本屋にも置いてある)。
依存症に関わっておられる方はもちろんですが、人からの承認の重要性など、それ以外の臨床の場にも広げて活用できる内容となっています。
お勧めです。



解答のポイント

精神科治療薬による依存の問題について把握していること。
依存症の症状について理解していること。



選択肢の解説


『①抗うつ薬は精神依存を引き起こす』

精神科治療で用いられる薬剤の中にも当然、依存をもたらすものは存在します。
脳の働きを抑制し、覚醒度を低下させる作用を持つ「中枢神経抑制薬」(いわゆるダウナー系)としては、抗不安薬や睡眠薬(いわゆるベンゾジアゼピン系)が該当します。
脳の働きを活性化させ、覚醒度を高める作用を持つ「中枢神経興奮薬」(いわゆるアッパー系)としては、メチルフェニデートが該当します。
こちらは、ナルコレプシーやADHDの治療に使われており、2007年にはリタリンの問題がありましたね。

ベンゾジアゼピン系は、臨床用量の範囲であっても長期に服用すると「身体依存」が形成されるため、ベンゾジアゼピン系の長期投与は例外的になっています。
ちなみに、乱用薬物としてよく使われる順に、エチゾラム(デパス)、フルニトラゼパム(サイレース等)、トリアゾラム(ハルシオン)、ゾルピデム(マイスリー)となっています。

抗うつ薬は退薬症状が見られるものの、同じ効果を得るために服用量を増やし続ける必要や、服用を中止しても抗うつ薬が欲しくてたまらなくなるということはありません
選択肢②の解説でもありますが、耐性が生じること自体はある程度生じてしまいます。

よって、選択肢①は誤りと言えます。



『②覚せい剤で身体依存が起こることは少ない』

中枢神経系には、外部からの影響に慣れを生じさせ、できるだけ中枢神経系の働きを一定に保とうとする性質があります。
薬物が繰り返し投与されることによって、中枢神経系は、その薬物が入った状態が普通の水準となるように、常時興奮した水準を定常状態に再設定し、薬物の抑制効果を相殺すべく調整します。
このように、薬物に中枢神経系が適応した状態のことを「耐性が生じる」などと表現します。

耐性を獲得すると、薬物に適応した状態が平常時となり、その薬物が無い状態になると中枢神経系のバランスが崩れることになります。
中枢神経抑制薬であれば、薬物無し状態になると中枢神経系が興奮状態になり、中枢神経興奮薬であれば一時的に虚脱・疲弊状態となります。
こうした症状のことを「離脱」といい、耐性と離脱が形成されることで生じた一種の体質変化のことを「身体依存」と呼びます。

ただし、こうした身体依存によって依存症であるとは言えません。
なぜなら、乱用する薬物の種類によっては、離脱などの身体依存の症候が不明瞭なものもあるためです。
例えば、中枢神経興奮薬である覚せい剤は、ある程度の耐性形成はあるものの、アルコールやオピオイド類などの中枢神経抑制薬と違って苦痛を伴う激しい離脱は生じないことから、身体依存の形成は無いと考えられています

身体依存は、中枢神経作用薬を繰り返し投与された生体に見られる、正常な反応にすぎません。
身体依存は原則として可逆的な物であり、薬物を断った状態を続けていれば離脱や耐性は消失します。
薬物依存症の本質は、あくまでも「精神依存」であることを留意しておくことが重要です。

以上より、選択肢②の記述は正しいと判断できます。



『③抗不安薬は半減期が長いほど依存を生じやすい』

薬学における半減期とは、薬成分の血中濃度が半減するまでの時間のことを指します。
離脱症状が生じると、病気によっては患者が非常に危険な状態になりかねないため、前に投与した薬の半減期が来る前に再度薬を投与する必要がある等、半減期は薬を投与する頻度に大きく係わってきます。

いわゆる超短時間型~短時間型は血中半減期が短いため、離脱症状が生じやすく、程度も強いとされています(選択肢①で示した乱用薬物の順も、超短時間型~短時間型が多いですね)。
このことは、身体的な欲求が高まってしまうことを意味し、その薬剤を求めることにつながります

また、高力価で短時間作用型は、使う側からすると切れ味がよく、効果を自覚しやすいという面があります。
こうした薬剤は乱用者の間でブランド化され人気も高いわけですが、こうした薬剤を無思慮に処方する、医療者側の問題も指摘されています。

断薬していくには、超短時間型~短時間型の漸減法が推奨されますが、うまくいかない場合には、いったん中間型~長時間型に置換し、漸減法もしくは隔日法を用いて減量・注視していきます。

以上より、選択肢③は誤りと言えます。



『④薬物摂取に伴う異常体験をフラッシュバックという』

薬物の乱用などでひとたび幻覚・被害妄想などの精神病の症状が生じると、治療によって表面上は回復しているかにみえても、精神異常が再び起こりやすい下地が残ります。
慢性的な精神症状として、幻覚や幻聴、幻視、幻臭など五感に異常が現れ、続いて妄想、不安、不眠、うつへと移行してゆきます。

また、この頃になると、覚せい剤を摂取していないにも関わらず、その時と同様の感覚がよみがえったり、禁断症状のように突然不安感や幻覚に襲われるようにもなります。
更に、乱用をやめ、普通の生活に戻ったようでも、何かの刺激によって再び幻覚・妄想などの精神異常が再燃することがあります。
上記をフラッシュバック(自然再燃)現象といい、お酒を飲んだり心的なストレスなど、ほんの小さなきっかけで生じるとされています。

こうした点から一度でも使うと…という意味も込めて「ダメ。ゼッタイ。」「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」などのキャッチコピーが生まれたと思われます。
しかしながら、こうした薬物の害を訴えるアプローチの無意味さについては、さまざまな方面から指摘がなされておりますね。

以上より、選択肢④の記述は誤りと言えます。



『⑤病的賭博(ギャンブル障害)は気持ちが高ぶるときに賭博をすることが多い』

DSM-5においては「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動」とされ、ICD-10では「本質的な特徴は、持続的に繰り返される賭博であり、それは貧困になる、家族関係が損なわれる、そして個人的生活が崩壊するなどの、不利な社会的結果を招くにもかかわらず、持続し、しばしば増強する」とされています。
いずれにおいても賭博を行う前の心情については記述がなく、必要要件ともされておりません
病的窃盗の場合には「窃盗に及ぶ直前の緊張の高まり」があるので対照的ですね。

病的賭博の場合でも、対人関係のイライラなど背景に不穏感情が存在していることが多いとはされていますが、それが本人に自覚されていないことも少なくありません
実際に病的賭博の方に面接をしていたこともありますが、賭博前後の感情体験について詳細に語ることが困難でした。

病的賭博の場合の思考では、勝ったときのことを生き生きと再体験したり、賭博をするための金銭を得る方法を考えたり、次の賭けの計画を立てることなどにとらわれていることが多いため、「賭博を行う際の感情体験」については精査されなくなるのではないか、などと考えています。

ちなみにICD-11では「他の活動以上に賭博の優先度が増しており、他の興味や日々の生活に比べて最優先である状態」とされるなど、病的賭博の特徴としてギャンブルに関連した思考に支配されている状態を挙げていると思われます。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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