公認心理師 2018-86

2018年11月06日火曜日

基本感情仮説における基本感情の記述として、最も適切なものを選ぶ問題です。
こういった問題で重要なのが、正解以外の選択肢をどの理論から持ってきているのか、をきちんと把握できることです。
試験を受けている中でそれができると、自信を持って正答を選ぶことができます。


この問題で求められているのは、基本感情仮説、次元説、社会的構成主義、心理的構成主義、キャノン=バード説、ソマティック・マーカー仮説などです。



解答のポイント

感情に関する理論について概説ができること。
各理論において、感情をどう規定するかを把握していること。



選択肢の解説


『①それぞれの感情が特異的な反応と結びついている』

喜怒哀楽などの感情は、基本的ないくつか個別の、そして別々の感情から成るという考えがあります。
すなわち、単に快-不快などから分化して感情が枝分かれしていくのではないという考え方です。

Izard(イザード)、Ekman(エクマン)、Plutchik(プルチック)は、ヒトは系統発生的に連続した文化普遍的な「基本感情」を持つと主張しました。
ただし、基本感情の種類は研究者で一致してはいません。

エクマンらは、複数の国々で調査を行い、文化の違いに関わらず怒り・嫌悪・恐れ・幸福感・悲しみ・驚きの6種類の基本感情が存在することを主張しています。
この研究では、6つの基本感情と顔面表情が異文化間であってもほぼ普遍のものと識別されました。

選択肢前半の「それぞれの感情が」というのが6つの基本感情、選択肢後半の「特異的な反応」というのが顔面表情と読み替えることが可能です。
よって、選択肢①が最も適切と判断できます。



『③発達の過程を通して文化に固有のものとして獲得される』

この選択肢の内容は以下の2つの視点から、不適切と判断できます。

基本感情仮説では、基本感情は文化普遍的なものと考えますが、エクマンはどのような場面でどのような表情をするかは集団によって異なることを明らかにしています。
例えば、日本人は権威者の前では感情を抑え、親しい人の前では抑制しないなどです。
エクマンはこうした知見に基づいて、文化は主に感情表出の強度に影響を与えるとする「感情の神経文化説」を示しました。

なお、それぞれの文化で感情表出のルールを学習し、それに従って表出するとし、このルールのことを「表示規則」と呼びます。

以上より、基本感情仮説において感情は文化普遍的なものだが、その表出強度は文化の影響を受けるとされています。
選択肢③の内容は、基本感情に関する説明ではなく、基本感情の表出が文化によって影響を受けるという「感情の神経文化説」の考え方を引っ張ってきたものと考えることができます。

もう一つの視点として、Averill(エイヴェリル)に代表される「感情の社会的構成主義」の考え方が挙げられます。
これは、主観的情感が文化特異な感情概念や感情語などに規定されてある、あるいは各種感情が文化固有の社会化の産物であるとする考え方です。
感情語も感情体験も文化によって多様であり、感情は個々の文化に限定的な社会的役割を持っていると見做します。

選択肢③の内容は、この考え方を引っ張ってきたとも考えられます。

以上2つの視点から、選択肢③は不適切と判断できます。



『④喜び、怒り及び悲しみといった感情概念の獲得に依存する』

上記の「感情の社会的構成主義」に対して「感情の心理的構成主義」という考え方があります。
これはBarrett らによって提唱されています。

基本情動説および認知評価説と構成主義説の決定的な違いは、基本感情の取り扱い方にあります。
構成主義説では基本感情の実在性が否定され、基本感情は知覚者に生じる概念の産物であると主張されます。
また、基本感情説や認知評価説が想定するような感情に特化された認知処理システムも、その神経基盤も実在しないと主張されます。

一方では、構成主義説では「コア・アフェクト」という神経生理学的実体が存在し、それはあらゆる精神現象と行動の核心要素であるとされています。
コア・アフェクトとは、個人に絶えず生起している快または不快の神経生化学的現象を指します。

このコア・アフェクトの働きにより、感情が「幸福」なのか「悲しみ」なのか「怒り」なのか「恐怖」なのかは、知覚者がどのような状況や文脈で、どのような概念を活性させ、外界情報 (視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚など) と内界情報 (身体末梢生理反応の表象、記憶された表象、想像された表象など) を意味づけるかに依存していると考えます。

以上より、選択肢④は基本感情説の説明として不適切と判断できます。



『⑤快-不快と覚醒-睡眠の二次元の感情空間によって定義される』

エクマンの研究方法を批判したのがRussell(ラッセル)です。
ラッセルは「感情円環モデル」(次元説)を提出し、感情は2次元上に配置されると考えました。

この2次元とは、「快-不快」と「覚醒-睡眠」(活性-不活性)です。
彼はこの2次元を前提として、他者の顔がそれらの2つの次元から構成される心理空間上にマッピングされ、後に感情が付与されるという考えを示しました。

感情カテゴリーを前提とせず、離散的ではなく連続的あるいは相対的な差異が2つの次元によって構成された心理空間上のベクトルとして表情が置かれる、という考え方です。

また彼は、感情は一連の要素から成り立っていて、文化によって生み出されたシナリオとみなし、文化はどの要素を強調するかを決定し、結果として感情の文化差を生じさせると考えました。

以上のように、選択肢⑤の内容は「基本感情説」ではなく「次元説」に関するものと言えるので、不適切と判断できます。



『②大脳皮質を中心とする神経回路と結びついている』

こちらの選択肢については基本感情説のものではなく、以下の2つの理論の内容に近いと考えることができます。

1つめは、大脳皮質が主観的感情を生み出す本体であるとする「感情の中枢起源説」です。
有名なキャノン=バード説のことですね。

CannonとBardによって1927年に提唱された「情動は、知覚の興奮が視床下部を介して、大脳皮質と末梢器官に伝えられ、情動体験(皮質)と情動反応(末梢)が起こる」とする説です。
対照的なのがジェームズ=ランゲ説ですね。

2つめが、Damasio(ダマシオ)が提唱した「ソマティック・マーカー仮説」です。
身体から発せられる信号が意思決定や推論に大きな影響を与えると考えます。

ソマティック・マーカー仮説では、感情喚起に伴う身体的反応が前頭葉の腹内側部に影響を与えて感情の価値づけを行い、その後の意思決定を効率的にすると考えます。

いずれの仮説も大脳皮質や前頭葉などと感情喚起との関連を示したものであり、選択肢②の内容はこれらの説明に近いものと考えることができます。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
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