統計については色々わかりやすい本もありますが、私は昔からブルーバックスから出ている「推計学のすすめ-決定と計画の科学」を基盤としつつ他書で肉付けをしています。
1968年に出た本なので、かなり古いですね。
公認心理師や臨床心理士の試験では、細かい計算が出ることはほぼ無いと想定でき、むしろ一つひとつの概念やその成立過程をしっかりと理解しておくことが求められると考えられます。
こうした「なぜそのような考え方をするのか」という点に、きちんと答えてくれる上記のような本は少ないように感じています。
解答のポイント
有意水準の考え方をきちんと把握していること。有意水準とは
例えば、ある人が超能力を使って「さいころの目の奇遇を操ることができる」と宣言したとします。そして実際に1000回振った時に、奇数の目が542回出たとします。
この人に「さいころの目の奇遇を操ることができる」超能力が備わっているか否かを統計的仮説検定にて検証するには、以下のような手順を踏みます。
- 「超能力は存在しない」という仮説を立てる:これを「帰無仮説」と呼びます。
- 1の仮説を検証する実験を行う:きちんと「統制」して行うこと。
- 1の仮説が正しいと考えた場合(超能力が無いと考えた場合:すなわち帰無仮説が真であると仮定したとき)、奇数の目が542回出たという結果が偶然によって生じる確率を計算します。ちなみに、ここでは奇数の目が542回~1000回まで出る確率を合わせて「危険率」(=有意水準)として計算します。
- 3の危険率が、あらかじめ決めておいた小さな確率(5%とか1%とか)よりも小さいならば、「そんな少ない確率の出来事が起こるはずがない」と考えて、1の帰無仮説を捨てます(棄却する)。すなわち、超能力の存在を認めたことになります。
一方、あらかじめ定められた確率よりも大きければ、1の帰無仮説は捨てられないので、超能力は認められないということになりますね。
上記のプロセスの中で、いくつか疑問を持つ方もおられると思います。
少し詳しく述べていきます。
まず「なぜわざわざ「帰無仮説」というものを立てて検証するのか?」について考えていきます。
普通、仮説というものは正しくなることを狙って立てますよね。
統計的仮説検定では、立てた仮説をもとに事象の起こる確率を計算しなければならないため、「仮説は厳密でなければならない」という制約があります。
先ほどの超能力の例で考えてみると、仮に「超能力がある」という仮説を立てると、サイコロを振って100%奇数の目を出せる能力から、90%、80%、70%…などの色々なレベルの能力を想定する必要が出てきて、全てを検証するのは事実上不可能となってしまいます。
それに対して「超能力が無い」という仮説はたった1つであり、これが棄却できるかを検証することで超能力の存在を確かめやすくなります。
こうした理由から、わざわざ帰無仮説という「無に帰す」ことを目指した仮説を立てるわけです。
もう1点ですが、上記にも記した通り「危険率」とは「有意水準」のことです。
なぜわざわざ「危険率」という表現をするのでしょうか。
上記の例を引くと、1000回振って奇数の目が542回出る確率は1%です。
統計的仮説検定では、この数値を「自然にはめったに起こらない」と捉え、「超能力が無い」という仮説を捨てて、超能力という要因の存在を認めます。
しかしながら、1%という数字は小さいですが、やはり1%は「超能力が無いにも関わらず、そういう割合が出てしまう」ことがあり得るわけです。
つまり、超能力が本当は無いにも関わらず、超能力をあるとしてしまう可能性が1%存在するわけですね。
こういった「間違う危険」があるので、有意水準のことを「危険率」と呼びます。
なお、5%とか1%などという数字は、慣例的に決められているものであって、何か根拠があってのものではありません(この点は臨床心理士の過去問でもよく出ています)。
ただし、基準は統計学ではなく、自然科学・社会科学・人生観・社会観のレベルで存在します。
例えば、飛行機が墜落する可能性を1%としたら、非常にまずいことがわかりますよね。
つまり、危険率を何%にするかは、仮説が正しいにも関わらず、仮説を棄却するという過ちを犯した場合の、被る損害の大きさによって決めるべき問題といえます。
選択肢の解説
『①帰無仮説が真であるとき帰無仮説を棄却する確率である』
上記の説明を踏まえると、有意水準の説明として正しいのはこちらと言えます。上記の例で言えば、「超能力が無いとしたとき(帰無仮説)に、「そんな少ない確率(有意水準:危険率)の出来事が起こるはずがない」という結果が出たので、超能力が無いという仮説(帰無仮説)を棄却する」ということです。
よって、選択肢①が最も適切といえます。
『②帰無仮説が真であるとき帰無仮説を採択する確率である』
そもそも、統計的仮説検定はあくまで「帰無仮説を棄却できるか」を検証するための手続きです。この手続きから得られる結果は「帰無仮説を棄却できる」「できない」の2つだけであり、採択に関する考慮は一切ありません。
選択肢②のように「帰無仮説(超能力が無い)が正しいと考えたときに、その仮説を採択する確率」とすると、統計的仮説検定の考え方と矛盾が出てきてしまいます。
よって、選択肢②は不適切と言えます。
『③対立仮説が真であるとき帰無仮説を棄却する確率である』
選択肢③の場合「「超能力がある」とするとき「超能力が無い」という仮説を棄却する確率=有意確率」という公式となります。何となく正しいような気もしますが、こちらは前提に誤りがあります。
統計的仮説検定では、「帰無仮説が真である」と仮定して進められるものであり、対立仮説は帰無仮説が棄却されたときに自動的に採択されるものです。
すなわち、帰無仮説と対立仮説は排反であるため、帰無仮説が棄却された場合は自動的に対立仮説が採択されます。
以上より、選択肢③は不適切と言えます。
『④対立仮説が真であるとき帰無仮説を採択する確率である』
先述の通り、帰無仮説と対立仮説は排反であるため、帰無仮説が棄却された場合は自動的に対立仮説が採択されます。選択肢④の場合「「超能力がある」とするとき「超能力が無い」という仮説を採択する確率=有意確率」という公式となり、何を言っているのかよくわからないことになります。
統計的仮説検定では「帰無仮説」が「棄却できる」「棄却できない」を検証するためだけのものであり、対立仮説についてはその結果から自動的に採択の可否が決まるものです。
よって、選択肢④は不適切と言えます。
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