公認心理師 2018-101

2018年11月21日水曜日

神経性無食欲症について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

私自身は、接触障害者の治療において下坂幸三先生のご著書から得るものが多かったです。
本解説でも、下坂先生の知見を引きながら行っています。

主な書籍については以下の通りです。
摂食障害にはさまざまなアプローチがある中で、流派の違いを超えて一般的に必要・有効と思われるものを示してあります。
そのためかご自身の立場を「常識的心理療法」と称されていますね。



解答のポイント

摂食障害の周辺情報や支援の基本について把握していること。



選択肢の解説


『①経過中の死亡はまれである』

摂食障害は死亡率が高いとされています。
1920年から1980年までの42の研究のメタ解析によると、1年ごとに0.56%が死亡しています。
これは健常な同年齢の女性に比べ、摂食障害の女性は死亡率が10倍高いことを意味しています。
この報告で死因としてあげられたものには、不整脈による突然死をはじめとする多様な身体合併症からくるものが54%、自殺が27%、他のあるいは特定できない死因が19%とされています。

下坂先生は、こうした死亡率の高さ、栄養失調のため生命にかかわるということと家族な大きな不安と焦燥とに直面することと、患者がさし当り治療を望んでいないかのような素振りを見せることがあるために、実態以上に摂食障害が重く見られやすいとしています。

以上より、選択肢①は誤りと言えます。



『②通常、心理療法によって十分な治療効果が得られる』

摂食障害者にとって痩せは一種の存在理由であるため、現状に問題を感じていない場合が多く、治療に拒否的な姿勢を示すことがほとんどです。
治療関係を持ちにくく、特に両親が治療者を拒否している場合は、本人も拒否することが多いです。
その点から、心理療法への繋がりにくさ、中断の起こり易さが指摘されております。

治療では多くの場合、薬物療法、心理療法、生活療法を組み合わせることが多く、摂食障害者の症状のタイプや年齢等によって有効になりやすい支援法が変わってくるとされています。

代表的なのは痩せが強度なときに行う入院治療および内科的治療であると思われます。
明らかな栄養失調状態、脱水症状への治療が何よりも優先される状況は確かに存在します。

また、摂食障害者には大小の抑うつ気分が憑きものであり、長期にわたって抑うつ・無気力状態が続くことも少なくありません。
このような状態に対しては適宜、各種の抗うつ剤ならびに発動性を高めるような抗精神病薬の使用を検討していきます。
これらの薬物に決定的な効果があるとは言えないが、抑うつを緩和し、無気力を改善するいくばくかの効能があることは確実です。

更に、薬を飲むことの諾否、服用後の心身の反応、効き目、両親の受け取り方などを巡って患者と談合すること自体、心理療法の一部と見做してよいです。
心理師が摂食障害の治療を行うことは可能ですが、その際は与薬できる医師との共同作業が重要となります。

下坂幸三先生は「薬物療法はあまり効かないという人がいる。しかし少し効けばよい。心理療法も同じで少しずつ効けばよい。摂食障害者の治療に高望みは禁物である」と述べておられます。
摂食障害者に限らず、こういった姿勢は重要であり、患者の置かれた環境から見て行うことが可能な支援を組み合わせ、それの合算として治療が進むことが適切であり、自然であると思われます。

その他、家族への支援も重要です。
外来で行うのであれば、治療経過の中でどのような事態が生じうるかについても、ある程度伝えておくと安定した環境での支援が可能となります。
そして、本人が積極的に来談しないことが摂食障害者に多く見られることを踏まえても、まずは家族とつながり、そこから本人への支援まで広げていくことが重要です。

以上のように、心理療法に支援を限定せず、さまざまな方向から支援が行われることが重要です。
本人の痩せの程度を中心とした身体の状態、家族の受け容れ、精神状態等を鑑み、その都度必要なことを組み合わせていくことが一般的といえます。

よって、選択肢②は誤りと言えます。



『③入院治療では、心理療法は可能な限り早期に開始する』

入院治療が必要な状況例として以下が挙げられています(臨床精神医学講座11 児童青年期精神障害より)。
  • 標準体重の−30%以下の体重
  • 急激な体重減少
  • 極端な過食、毎回の事故誘発性嘔吐や下剤乱用
  • 検査所見の異常、重篤な低栄養状態
  • 過食、嘔吐、下剤乱用などに起因する消化器症状
  • 6ヶ月以上の摂食障害の経過
  • 外来での治療経過で体重増加が認められない
  • 自傷行為、希死念慮、自殺企図
  • 激しい攻撃衝動
  • 破壊的な対人関係
  • 治療経過の中での母子分離の必要性
  • その他治療者にとって了解可能かつ必要と思われた、本人の入院希望など

摂食障害の急性期には、低栄養により心理的機能の障害を併発していることが多く、体重が適切な範囲に安定しなければ心理的に有効な治療は行いづらいとされています。

「思春期痩せ症の診断と治療ガイド」には以下のように記載があります。
「自己破壊である身体破壊にリミット設定をする身体治療無くして、心の治療は進められない。痩せて栄養不良の飢餓状態では心身ともに省エネの身体機能レベルにあり、心の作業ができない。…本気で取り組んでくれる身体治療があってはじめて、心を開く気になっていく

更に、摂食障害者が入院治療を行う状況は、多くの場合、痩せが強度で早急に内科的治療が必要な場合がほとんどです。
極端な食事制限、自発的な嘔吐、下剤の乱用に基づく頻回の下痢など諸要因によって、患者が高度の栄養失調状態あるいは脱水状態を呈しており、生命の危険が疑われるほどの状態なわけです。

体重は30キロを切っており(もちろん体重を目安にするのは適切でありません。DSM-5でもBMIを重症度の基準にしています)、生命の危険が迫っているという状況です。
摂食障害者の特徴として、こうした状況であっても学校・仕事へ行こうとすることも無視できない点です。

このような状況では、脱水症状を取り除き電解質の平衡を取り戻させ、非経口的な栄養補給が重要になってきます。
入院治療の最初期は、こうした身体的なケアが第一となりやすいこと、そもそも本人が望んだ入院でない場合がほとんどであることなどから、心理療法の導入が難しいと考えられます。

一方で、入院治療中に行われるような身体診察や経管栄養等の行為は、心理療法的な意味を踏まえつつ取り組まれることが重要です。
「触れられることで自己の痩せを如実に体験できる」という面が少なからずあります。

以上より、選択肢③は誤りと言えます。



『④経管栄養で体重を増やせば、その後も維持されることが多い』

ある予後の調査では、約50%が改善、25%が回復と再発を繰り返し、25%が予後不良とされています。

神経性食欲不振症・過食症の治療」によると、以下の点が指摘されています。
  • 体重回復プログラムによって体重が正常まで増えたからといってすぐに退院を許可するのは非常に良くない。
  • 多くの専門医の臨床経験から、重症例では患者が本当に食事をとり、正常体重を維持できるようになるまで退院させるべきではない。そうしないとすぐに増悪する。
  • 体重が正常になったら、投薬の必要性を再評価する。
  • (退院後は)アフターケア・プログラムに移すことを考える。
これらの指摘は、体重が増加したとしても退院後に再び不食や排出行為が出現する可能性の高さを示唆しています。


経管栄養の可否は、割り切った解答を出すことが難しいです。
一般に摂食障害者は「外から身体の中に侵入してくるもの」一切に対して恐れが大きいです。
いくつか見聞きした例では「増やせば退院できるとわかったから、さっさと増やした」という意味合いの表現をし、その後ふたたび痩せが出現したのを確認しております。

しかし、やむを得ない状況はあるので、治療者側がその方法を採らざるを得ない理由を患者に滔々としかもきっぱりとした態度で説いてから、丁寧に実施するなら、それほど実害はない(アノレクシア・ネルヴォーザ論考、p271)とされています。

以上より、選択肢④は誤りと言えます。



『⑤患者自身は体重低下に困っていないため、治療関係を築くことが難しい』

摂食障害者、特に痩せが強い事例では肥満恐怖が非常に強固に形成されています。
選択肢にある「体重低下に困っていない」というよりも「体重増加が非常に恐ろしい」というのが正確です(これは選択肢の正誤を左右するものではありませんが…)。

臨床精神医学講座11 児童青年期精神障害」では、以下の記載があります。
  • 本人は、摂食行動そのものや著しい痩せに関して困っていない場合がある
  • この場合、身体的診察所見や検査結果などから身体的に重大な状態であることを知的に理解してもらう必要がある。
  • そして、一方では対人関係の問題や脱毛のように、摂食行動とは直接無関係に思われるような事柄であっても、本人が現実的に困っている問題に耳を傾け、共感し、治療動機を育てることが必要になる場合が多い。
カウンセリングの経験と照らしても、上記の通り本人が困っていない、もしくは痩せを手放せない事情がある(こちらは無自覚な場合も多いが、ある程度の信頼関係ができれば陳述することも少なくない)、などから治療動機はあっても非常に葛藤が強いと言えます。

一方で、上記にあるように、摂食障害とは(少なくとも本人の中で)無関係な事柄については、意外と危機感を覚えることが多いです。
下坂先生も脳の萎縮については耳を傾けることが多いなどの指摘をしておられます。
脱毛や現在のような活動ができなくなることなど、どこかにある本人の困り感を共有するような関わりが大切です。

更に、下坂先生が繰り返し主張されている「症状や問題行動のポジティブな意味」についての理解が必要です。
「挫折体験を希薄化させると同時に、自己をコントロールすることができるという力感・達成感と身体的な存在感覚の強化とに裏打ちされた「かりそめの自分らしさ」の樹立」という意味があるとされています。

換言すれば「痩せるという事態をもって自身を支えてきた面が少なからず存在するわけだから、その「痩せ」を手放すという方針に簡単には同意しない」ということでしょう。

また、摂食障害者には一般にボディイメージの障害があると言われています。
客観的に痩せているのに「太っている」と言って聞きません。
下坂先生は、「彼女らのbody imageが正確なものになる、つまり大変痩せているというimageは、どうも触られること、触れることによって獲得されるようです」としており、家族面接の重要性を指摘しております。

いずれにせよ、こうしたボディイメージの歪みがあると、周囲の痩せへの心配を聞き入れて治療を行っていくということが難しく、治療への同意も得にくくなってしまいます

一方で、未だに「病識が無い」と説明を散見しますが、これは正しくありません。
(むかしは多かったようですが、最近は「何も困ってない」と話すタイプは著しく減少したように感じます)
まったく病識のない摂食障害はおらず、自身が常態でないことは全員弁えており、世間が望むことも理解しています。
それにもかかわらず肥満恐怖や様々な不安に圧倒され、自らが痩せていくことを確認することによって、唯一わずかに安心感を得ている状態といえます。

以上より、選択肢⑤が正しいと言えます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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