公認心理師 2018-67

2018年10月20日土曜日

28歳無職のひきこもり男性の事例です。
各社の解答速報では、選択肢①もしくは③で割れているようですね。
この問題はかなり迷いました。
ただし迷ったのは①と③ではなく、③と④です。

参考にした資料は以下の通りです。

この事例の主な情報としては、以下の通りです。
  • 中学時代にいじめに遭い遅刻や欠席が増え、不登校になった。
  • アルバイトを試みたこともあったが、現在はほとんど外出していない。
  • 普段はおとなしいが、家族が今後のことを話題にすると急に不機嫌になり、自分の部屋にこもってしまう。
  • 対応に苦慮した母親が精神保健福祉センターに来所した。

また問題文で重要なのは、「Aと家族に対するセンターの初期の対応」として最も適切なものの選択を求められていることです。
「A本人」への対応ではなく、「家族への対応」でもなく、あくまでも「Aと家族に対するセンターとしての初期対応」ということです。
家族も含めた支援になっているか否かも、解答を選択するときのポイントになりますね。



解答のポイント

厚生労働省や内閣府が出しているひきこもり支援に関する資料の内容を把握している。



選択肢の解説


『①訪問支援を行う』

当事者へのひきこもり支援にあたっては、ひきこもりの経過および 3 群分類(ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン)の評価結果などを根拠として、最初に支援を受け入れる機関やさしあたり主となる支援法の決定を含め、系統的に行われるべきとされています。
この選択肢では、上記のような評価を行った形跡が見られません

また、いきなり訪問支援を行うことの問題も考えられます。
訪問支援が必要となるタイミングとして(あくまでも「思春期のひきこもり事例に対して」ですが)以下が示されています。
  1. 当事者の心身の状態が悪化し、あるいは不安定となり、生じている事態の正確な評価、自他の生命の危険性(自傷他害を含む)、安全性の検討が必要とされるとき。
  2. 当事者に精神医学的な観点から見た病的なエピソードがあり、受療の必要性についての判断や精神医学的な判断が、家族や関係機関から求められるとき。
  3. 家族自身が重大な健康問題を抱えている、または家族機能不全を起こしており、支援者が直接当事者に会って、状況確認や支援方針を見定める必要性が高いと判断したとき。
  4. 家族や関係機関との相談を継続していく中で、支援者が訪問することを当事者が納得する、あるいは希望するとき。 
事例では、1の自傷他害の危険性は見受けられず、2の精神医学的に明らかな不調もないと判断できます。
3も現状では該当せず、4については本人が納得しているということも記載にありません

また「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」によると「訪問に際しては、事前の情報収集とその評価や、当事者の了解を得ることなど事前準備には家族の協力が必須」とされています。
事例はやや拙速な印象が強いですね。

斎藤環先生も、訪問支援については「かなり侵襲性が高い行為」としており、ケースによっては極めて攻撃的になる可能性もあることや、無造作な訪問によってかえって関係がこじれてしまう恐れがあることが指摘されています。
家族システムの十分な変容を抜きにして、いきなり本人にアプローチすることは、家族が変わるきっかけを奪うことにもなりかねません。
(「ひきこもり」救出マニュアル 実践編より)

更に、こちらの選択肢は「家族への支援」という視点が欠けているように思えます。
本人へのアプローチだけではなく、アプローチ後の家族に起こることも予測しつつ支援していくことが重要になります。
訪問支援後、本人が家族に対してどのような行動を示すかについて現在の情報だけでは予測できません

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。



『②Aが同意した後に母親の相談に応じる』

「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では以下の記載があります。
可能なら相談を始めることを事前に知らせるべきとしつつ、「家族への暴力や支配が激しい場合は、相談へ行ったことを知るとさらなる暴力の悪化を招くこともあります。そのような場合は、知らせずに時期を待つことも大切でしょう」とされています。

家族が相談機関に行っていることは、可能であれば本人にも伝えた方が良いとされています。
そもそも、その話題にできる家族環境を作ること自体が治療的とも言えますね。
ですが、本人に家族が相談機関に行っていることを伝えることと、家族が相談機関に行くことの許可を本人から得ることは、まったく質が違う議論のように思えます。

この選択肢の内容だと、来所した母親に対しAが同意しなければ相談に応じないとも読めます
「特別企画 「不登校、ひきこもりへの支援を語る」配布資料(内閣府)」にもあるように、家族への支援は非常に重要です。
同意を取り付けようとすることでさえも難しい事例もありますし、同意がなければ家族支援ができないというのも柔軟さに欠けた姿勢と言えます。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。



『⑤即効性のある対処法を母親に教えて相談を継続する動機を高める』

ひきこもりの治療機関については、「かりに周囲から十分で適切な対応がなされた場合でも、どんなに短くても半年、平均すれば約2~3年の時間が必要」とされています
(「ひきこもり」救出マニュアル 理論編より)

一般にひきこもりは長期にわたる支援が必要で、社会復帰できる事例は約半分ほどとされています(潜在的なひきこもり事例もあるでしょうから、実際はもっと厳しい数字になるかもしれません)。

これらは選択肢にあるような「即効性のある対処法」など存在しないことの傍証であり、この対応は「無い袖を振っている」という印象を受けます。
このような虚言で来談動機を高めることは、後々の信頼関係を損ねることにつながりかねません

斎藤環先生の「社会的ひきこもり 終わらない思春期」にも特効薬がないことが以下のような点から示されています。
  • 相談が持ち込まれた時点で、かなり状況がこじれてしまっている。
  • このような状況で家族が理解しなければならないのは、短期間で立ち直させる特効薬はないということ。じっくりと腰を据えて取り組む他はない。
  • 一気に立ち直ったかのように見える事例の報告は無いわけではないが、まったく例外的なもの。
  • 周囲がどれだけ待つことができるか、が支援には重要になる。

以上のように、即効性のある対応の存在はかなり怪しいと考えてよいでしょう。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。



『④Aに対する家族の対応に誤りがないかどうかを話し合う』

「特別企画 「不登校、ひきこもりへの支援を語る」配布資料(内閣府)」では、治療的対応の三段階として以下が示されています。
  1. 家族相談(情報提供)
  2. 個人治療(個人精神療法、薬物療法)
  3. 集団適応支援(デイケア、たまり場)

また「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」には以下のように示されています。
「当事者が単身で相談に来る場合はともかく、未成年の不登校・ひきこもり事例、家族につれられてやってくる成人のひきこもり事例、家族だけしか相談に来ない事例では、支援は第一段階である家族支援段階から開始し、順を追って当事者が中心の支援段階へと進んでいく

支援の第一歩が家族への助言や情報提供であることは、本人が最初に来談する可能性が低いひきこもり事例においては、スタンダードであると言えます。

一方で、上記ガイドラインによると支援の最初期については以下のような対応が求められます。
「初回面接は、情報収集のための面接となりますが、単なる情報収集の場としてだけではなく、養育過程での良い思い出や当事者との関係についての振り返りを含めた穏やかで伸び伸びとした場となることが大切です」
「親が子育ての時代を思い出し、良いこともうまくいかなかったことも同様に受け入れなおす場として初回面接を含む相談開始直後の何回かの面接が機能すると、その後の相談継続の動機を高めることができます。親が話したいことを十分に話すことができ、聴いてもらえたという実感を来談当初に持てるか否かに支援者は注目すべきです」

選択肢にある「家族の対応に誤りがないかどうかを話し合う」というのは、場合によっては家族の失敗を指摘するような形になる恐れがあります。
こうした家族へのアプローチは、いずれは行われる必要があると思われます。
しかし、初回の対応として行うのは、家族との信頼関係を踏まえると厳しいように感じます。

よって、選択肢④は不適切とは言えないまでも、「最も適切」には該当しないと思われます。



『③Aの精神医学的評価に基づいて支援を検討する』

ひきこもりとは「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」です。
すなわち、診断名や臨床単位とはされていません

一方で、「ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべき」とされています。

「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」においても、ひきこもりの評価においては「背景精神障害の診断」「発達障害の診断」「パーソナリティ傾向の評価」が重要とされています。
(ひきこもりと関係が深い精神障害についての記載もあります)

以上のように精神医学的評価は必要と思われますが、以下の点で困難が考えられます。
  • 精神保健福祉センターのひきこもり相談における研究(近藤ほか、2010)では、の大半に精神障害の診断が可能であることが示されているが、これはあくまでも「当事者との面談ができた事例」に限っている
  • 当事者と直接会えない状況で、家族が述べる情報を元に評価する際には、情報があくまで家族の目を通した間接的で限定的なものであることを常に意識し、得た評価結果についてもあくまで推測の結果に過ぎないとする慎重さが求められる
すなわち、家族との面談でどこまで精神医学的評価が可能かについてはかなり不透明と言えます。

と言っても、家族からの情報のみであっても精神医学的評価をしなくてよいというわけではありませんし、選択肢内にある「精神医学的評価に基づいて「支援を検討する」」という表現についても具体性が少ない分、誤りとすることもできないと考えられます。

よって、選択肢③が最も適切だと判断できます。

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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