特に「援助を開始するにあたって、インフォームド・コンセントの観点から」適切な対応を選ぶことが求められています。
同時に他機関と連携を取っていく際のマナーも求められているように感じる問題です。
この辺に無作法だと地域で孤立してしまうこともあり得るので、結構実践的な問題なのかもしれないな、とも感じます。
解答のポイント
判断を行う公認心理師の立場を踏まえて考えること。他機関との連携事例であることを念頭においておくこと。
インフォームド・コンセントの基本的事項を押さえておくこと。
事例の特徴
この事例について押さえておく必要があるのは以下の点です。- SCから心理検査実施に関する依頼があった事例である。
- 依頼理由として、対人関係の困難と学習に課題があるためとされている。
- 本人は検査のために来たつもりはなく、「勉強が難しすぎる」「クラスメイトが仲間に入れてくれない」「秘密にしてくれるなら話したいことがある」と語った。
この事例で大切なのは、13歳男子Aと会っているB大学の(おそらくは)公認心理師は、主たる支援者ではないということです。
このことを念頭に置きつつ、「インフォームド・コンセントの観点から」各選択肢の検証を行っていきます。
選択肢の解説
『①保護者から同意を得た上で適切な心理検査を実施する』
どのような年齢であっても、本人の意志に反した対応は取るべきではありません。若年者であっても、本人から同意を得る努力をすること自体が治療過程と言えます。
特に本事例のような13歳という年齢を踏まえると、ここで本人の意志を考慮しない対応を取ることは、その後の心理支援全体への否定的構えを生む可能性も否定できません。
13歳という年齢を踏まえると、保護者の同意は必須ではありますが、それは本人の同意が不要ということではありません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
『②いじめが疑われるため、Aには伝えず保護者や教員と連絡をとる』
本事例においていじめが疑われると捉えることが(辛うじて)可能なのは、本人の「クラスメイトが仲間に入れてくれない」という点のみです。「秘密にしてくれるなら…」の秘密の中身にもよりますが、その点は現時点では判断材料に入れることはできませんね。
この記述のみで「いじめと疑う」というのは、やや極端な印象を受けます。
本人の語りの中に「勉強の難しさ」が入っており、訴えがいじめに特定されていないというのも、いじめの可能性が高いと見立てる無理を感じさせるところです。
100歩譲って「いじめが疑われる」としても、選択肢後半の「Aには伝えず」という点がやはり問題と思われます。
いじめ対応で進めていくにしても、保護者や教員と連携を取る場合には本人の同意を取ることが重要です。
いじめ事例では「言わないで欲しい」ということも少なくありませんが、クライエントを支援していくために必要なことであると情理を尽くして関わることが、たとえ本人の同意が得られない場合であっても重要です。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③「ここでのお話は絶対に他の人には話さない」と伝えて話を聴いていく』
この対応にも違和感を覚えます。概ね以下の二点が問題だと思われます。
まずは、13歳男子Aと関わっているのはあくまでも検査依頼を受けた機関の心理師であり、Aの支援の中心人物とはならない可能性があることを思い起こす必要があります。
Aが今後SCから支援を受けていくと考えたときに、不用意にAの秘密を抱え、他の支援者の入る余地を失くしてしまってはいけません。
また「絶対に他の人に話さない」と約束した上で語られた秘密の内容が、「絶対に他の人に話さないというわけにはいかないもの」であったらどうするのでしょうか。
守れない(可能性がある)約束を交わすこと自体が問題であると言えます。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『⑤スクールカウンセラーから依頼された検査をするか、自分が話したいことを相談するか、どちらが良いかをAに選んでもらう』
こちらは一見Aの自由意思に委ねていると見えます。しかし、この対応にも問題があるように思えます。
まず「いずれかを選んでもらう」という対応は、クライエントが「検査を受けることへの抵抗を示している」可能性を全く考慮していません。
元々SCから言われたものの、検査を受けることへの引っ掛かりがあって、それが検査のために来たのではないという構えに繋がっている可能性があります。
この場合、Aの抵抗感を汲み取りつつ、心理支援への拒否感を生じさせないような関わりが求められます。
抵抗感を軽減することが検査を受けるという決断につながるかもしれませんし、検査を受けなくてもSCとの関係の中でその思いを表現できるように援助することが大切です。
二者択一を委ねる関わりでは、こうした抵抗感の汲み取りがなされないのは自明ですね。
また、いずれかを選んだ結果、自分が話したいことを相談することにした場合、支援の中心が中学校のSCなのか、B大学心理相談室の心理師なのか、非常に曖昧な形になってしまいます。
検査依頼を受けた形のB大学の心理師として、検査か相談かという二択をしてもらうことは、依頼主との関係性(Aへの支援で連携を取っていくことなど)を踏まえても適切とは言えないと思われます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。
『④スクールカウンセラーから依頼された検査が問題解決に役立つだろうと伝えた上で、まずはAが話したいことを聴いていく』
ここまでの記述からも読み取れる通り、Aへの対応には以下の点が満たされる必要があります。- 中学校での支援に対し拒否的にならないようにしていくこと。
- Aの検査への拒否感を汲み取りつつ、心理支援への動機づけを下げないこと。
- B大学側としては、Aの支援の主導を奪わないようにすること。
以上のように、検査を受けるか否かは、本質的な問題ではないことがわかります。
この選択肢が上記の点を満たしているかを検証していきます。
まずは、検査を受けるつもりがなかったAに対し、心理師の意見として「問題解決に役立つだろう」と伝えることがあり得るか否かですね。
(この検査が的外れなオーダーでないことを前提に論を進めていきます)
これは支援の中心が中学校側にあることを念頭においた関わりと考えられます。
Aの検査への拒否感に迎合してしまうことは、Aが中学校での支援に対し拒否的になってしまう恐れがあります。
中学校のSCの判断を立てる(と言ったら嫌な感じがあるかもしれませんが、あくまでもその判断が適切であるという前提です)こと、Aのためを思っての検査依頼であったことを伝えるのは、連携を取っていく上でも大切なことのように思えます。
一方で、検査を受けるつもりでなかったと話している以上、そちらの気持ちも十分にくみ取るという対応が求められます。
よって、検査を受ける利益については伝えた上で、Aの話を聴いていくことが大切です。
この話を聴いていく中で、対人関係や学習面の苦慮感が語られれば、検査を受けることへの理解につながる可能性もあります。
また、検査への拒否感の背景にある(かもしれない)周囲への不満、例えば、「周囲がきちんと対応してくれないからだ」「それなのに自分が検査を受けるのはおかしい」等が出てくれば、この思いを汲み取っていくことが抵抗感の軽減につながる可能性があります。
以上のように、選択肢④は適切な対応と判断できます。
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