公認心理師 2018-139

2018年09月10日月曜日

15歳の男子A、中学3年生の事例です。

事例の内容は以下の通りです。
  • Aは不登校と高校進学の相談のため教育相談室に来室した。
  • Aはカウンセリングを受けることに対して否定的であった。
  • 「カウンセリングに行かないと親に小遣いを減らされるので来た。中学に行けないことについてはもう諦めている。通信制高校に進みたいが、親が普通高校へ行けと言うので頭にくる。毎日一人で部屋で過ごしているのは退屈なので友達と遊びに行きたいが、自分からは連絡できない」と言う。
  • 実際には、中学校の生徒に見られることを恐れて、近所のコンビニにも行けない状態だった。
作業同盟を構築するためのカウンセラーの最初の対応として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。



解答のポイント

「作業同盟を構築するためのカウンセラーの最初の対応」を選ぶ問題であることを忘れないこと。

以下のような事例の特徴を掴んでおくこと。
  • カウンセリングを受けることに対しては否定的
  • 親に対する不満感がある
  • 友人に自分から連絡できない
  • 近所のコンビニにも行けない状態



事例情報と選択肢との対応

選択肢ごとに考えていきます。

『①カウンセリングがどのようなものかAにわかるように説明する』

この対応は「このクライエントはカウンセリングがどのようなものかわかっていないから拒否するのであり、説明して理解すればカウンセリングに積極的になる」という場合に採用される対応です。

では、この事例A(15歳;中学校3年生)は、カウンセリングがどのようなものかわかっていないから否定的なのでしょうか?

事例情報では、Aの親に対する反抗心が明示されており、その親から「カウンセリングに行かないと小遣いを減らす」と言われて来談しています。
このような状況においては、「親が行けというカウンセリング」に対しても否定的な感情(親に対する反抗心が般化したもの)が生じるのが自然な成り行きではないでしょうか。

すなわち、Aのカウンセリングへの否定的感情は、単に無理解ではなく、親子関係を基盤とした心理的要因によって生じている可能性が考えられるため、『①カウンセリングがどのようなものかAにわかるように説明する』という対応は不適切と言えます。

作業同盟を構築する前の段階でうまくいかなくなると思われます。
「作業同盟」という言葉の硬さに引っ張られて、この選択肢を選ばないことが重要です。

蛇足ですが、15歳のクライエントに対し、「どのようなものかわかっていない」と捉えるのはやや子ども扱いしすぎというきらいを覚えます。


『②通信制高校に合格するという目的を達成するために継続的な来室を勧める』

こちらの対応は、一見Aの希望に沿った対応に見えます。
しかし、「親が普通高校へ行けと言う」という情報が見られ、この対応だけで進めていけば現在の〔 親 vs A 〕という構図が〔 親 vs A+心理師 〕という形に変化するだけです。

このようなどちらか一方の立場のみに偏り、抗争を促進させる対応は適切と言えません
中長期的に見て、面接継続が困難になると思われます。


『⑤カウンセリングに行かないと小遣いを減らすと親から言われていることに「ひどいですね」と共感する』

②と同様の理由で、こちらの選択肢も不適切です。
そもそも、この選択肢の内容は「共感」ではなく、単なる親への非難です。

一応、このような対応がどういった場合に有り得るかを考えてみます。
Keinerが提案している「代理内省」という方法があります。
これはクライエントが気が付いていない内的体験を、セラピストが代理で内省・言及することを指します。
例えば、Aが親の言動に不満を示していなければ、無意識領域にあるだろうAの不満を、セラピストが代理的に「ひどい言い方するなぁ」などと呟くのもあり得るかもしれません。
しかし、Aは明確に親への不満を表出していますので、これも該当しませんね。


『③Aと親のどちらにも加担しないように中立的な立場をとることを心がける』

②や⑤とは180度対応を変えて、中立的な立場を堅固する場合です。
カウンセリングに否定的な状態であるAに対し、このような対応ではカウンセリングの効力感を覚えさせることは難しいでしょう。

カウンセリング原論的には間違っていないのかもしれませんが、本設問は『作業同盟を構築するためのカウンセラーの最初の対応』という制約が付されています。
多少なりとも、積極的にAの抱えている不安や苦慮感を汲み取り、理解されていると感じるような対応が求められますので、この選択肢は不適切と思われます。


『④外に出るのを恐れているにもかかわらず、教育相談室に来られたことを肯定してねぎらう』

事例の情報で大切なのは、Aは本当は外に出られず、友達とも自分からは連絡が取れない状態であるということです。
Aの状態として、自身の現状に対する強い自己否定の存在・安心感が欠如した状態・周囲が自分を否定しているように感じている、などが想定されます。

このような状態にもかかわらず来談したのは、Aも本当は現状に悩んでおり、何とかしたいという欲求があるためだと思われます。
心理師のアプローチは、こうしたAの内情を汲み取り、何とかしたいという欲求を表現しやすくするものである必要があります。

『④外に出るのを恐れているにもかかわらず、教育相談室に来られたことを肯定してねぎらう』ことによって、Aの苦労が汲み取られ、そこで形成された関係性を通して作業同盟を構築していくことが望ましいと思われます。


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2 件のコメント

  1. 作業同盟について、「言葉の硬さに引っ張られないことが大事」ウンウン。
    自我と自我のやりとりを重視して治療契約の説明から・・と考えて、ご指摘の通り①に引っ張られそうになりました。
    けど、最初の対応は、やはり④肯定とねぎらい。と、④を選択しました。
    BFTCの作業同盟では、ビジター、コンプレイナント、カスタマー、いずれのタイプでも、まずは、コンプリメント(賛意・肯定)から・・とあり、
    フロイトの作業同盟でも、陽性転移が不可欠とありました。

    心理系でない家人に、人として、④番でしょう、なんで①と迷ったの?と言われ、少しショックを受けた問題でもありました。

    返信削除
    返信
    1. コメントありがとうございます。
      選んだ選択肢が同じということで、心強いです。

      >心理系でない家人に、人として、④番でしょう、なんで①と迷ったの?と言われ
      むしろ、心理系でないから迷わないのでしょう。
      どのような対応も100%誤りということは、人間関係の複雑さを踏まえれば有り得ません。
      専門家として、あらゆる可能性を考えて対応を決めていくわけですから、常に迷うという姿勢が生じることが自然のように思います。

      一方で、夏目漱石の「素人と玄人」という随筆にもあるように、素人的な視点の重要性も指摘されています。
      これは土居健郎先生、神田橋條治先生などが繰り返し指摘していますね。
      お家の方のような素人としての視点を大切にできる専門家になりたいものです。

      削除

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小学校~大学までの教育領域で臨床活動をしています。また10年以上、臨床心理士資格試験対策の勉強会に携わってきました。
このブログでは公認心理師および臨床心理士の資格試験に向けた内容をアップしていきます。時々、コラムや読書録なども。

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